『インシディアス』

『インシディアス』

原題:“Insidious” / 監督:ジェームズ・ワン / 脚本&出演:リー・ワネル / 製作:ジェイソン・ブラム、スティーヴン・シュナイダー、オーレン・ペリ / 製作総指揮:ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ / 撮影監督:ジョン・R・レオネッティ、デヴィッド・M・ブルーワー / プロダクション・デザイナー:アーロン・シムス / 編集:ジェームズ・ワン、カーク・モーリ / 衣装:クリスティン・M・バーク / 音楽&出演:ジョセフ・ビシャラ / 出演:パトリック・ウィルソンローズ・バーン、タイ・シンプキンズ、リン・シェイ、バーバラ・ハーシー、アンドリュー・アスター、アンガス・サンプスン / ホーンテッド・ムーヴィーズ製作 / 配給:Showgate

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:松浦美奈

2011年8月27日日本公開

公式サイト : http://www.insidious.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/08/29)



[粗筋]

 転居して初めての夜、ルネ(ローズ・バーン)はなかなか眠れなかった。長男のダルトン(タイ・シンプキンズ)も、あてがわれた部屋が怖い、と言って、いつになく早く起きてきた。

 その日以来、奇妙な出来事が相次いだ。作曲家であるルネは昼間、まだ乳飲み子である娘のそばにベビーモニターを置いて様子を確かめていたが、そのスピーカーから奇妙な“囁き”が聞こえる。家の中には謎の物音が響き、誰もいない玄関から警報装置の音が轟き、そして前触れもなく扉が開閉する。

 しかし、どの出来事よりも一家を戦慄させたのは、ダルトンが眠ったきり、目を醒まさなくなったことであった。いわゆる昏睡とも違う状態に、医師でさえ手の施しようがない。

 3ヶ月を経ても、ダルトンに目醒めの兆候は見えなかった。同時に、一家の周囲を探るかのような奇妙な気配も相変わらず続いている。学校で教師をしている夫のジョシュ(パトリック・ウィルソン)は異様な事象に遭遇することこそなかったが、家に禍々しい気配が取り憑いていることは感じていて、何かと理由をつけては残業するようになっていた。

 そしてある日、ダルトンの間近にはっきりと不気味な人影を目撃し絶叫するルネを前に、ジョシュはとうとう引っ越しを決意する。

 これで、平穏な日々を取り戻せる、と思ったが、その甘い予測は、引っ越し早々打ち破られてしまう……



[感想]

 監督のジェームズ・ワン、脚本と出演を兼ねたリー・ワネルは、その独創的なシチュエーションと深いテーマ、そして衝撃のクライマックスで話題を博し、のちに6作もの続篇が製作され“世界一成功したホラー・シリーズ”としてギネスにも認定された『SAW』を生んだコンビである。

 そんなふたりの新作と聞くと、なんとなく残酷描写がふんだんで、流血が苦手な人は拒否反応を示しそうだが、しかし本篇はレーティングがG――一切の年齢制限を受けていない。つまり、小さな子供にとって刺激的、と判断されるような映像はない、と映倫が判断するほど、残酷、刺激的な描写を抑えているのだ。それでホラー映画を作る、という心意気に、愛好家としては感嘆せずにいられない。

 それで怖さが控えめになってしまっては本末転倒だが、その意味では決して手加減していない。怖い、という意味では『SAW』や、ダリオ・アルジェントへのオマージュを感じさせる同じコンビの先行作『デッド・サイレンス』よりも上質に仕上がっている。

 血を見せない、残酷な表現を用いない、となるとおぞましいモチーフを組み込むか、間の取り方や意表をつく虚仮威しで怖がらせるか、になるが、本篇はこれらを巧みな配分で用いることで効果を上げている。いちばん最後に挙げた虚仮威しは、多用すると観る側が慣れてしまい、衝撃を弱まらせてしまう弊害があるが、本篇はそのあたりに配慮して、決してむやみやたらに驚かせようとはしていない。また、虚仮威しの多くは、肝心のところで切って印象づけようとしたり、相手が無害な人物や猫の類だった、という肩透かしで終わらせる傾向にあるが、本篇の場合、見間違いかと思わせて別の死角からふたたび現れて見えなくなるまで追ってみたり、驚いたあともそのときの行動を続けねばならなかったり、と描写が途切れない。一見、効果を損ないそうなものだが、予兆や悪寒を引きずるこの手法が、いい具合に緊張感と恐怖とを保っているのだ。こういう技は、本当にホラー映画を熟知していなければ巧くは使えない。

 しかしそうは言っても、やはり全体に恐怖の仕掛けはオーソドックスで、こういった作品に親しんできた者にはあまり刺激的ではない。だが本篇は、そのうえで物語そのものに仕掛けられたアイディアが絶妙なのだ。

 このアイディア自体も、不慣れな人ならば驚き、観終わっても全体像が読み解けない可能性がある――そこまで不慣れならきっと、シンプルに恐怖におののいているだけだろう――が、この手の映画に親しんでいる人ならば恐らく、おおよその展開は察しがつく。実のところ私は、かなり早い段階で物語の鍵を握る人物が誰か勘づいたし、終盤の流れも予想がついたので、縁あって駆り出された霊能力者が提案した策に「やっぱりそう来たか」と観ながら頷いていたくらいだ。

 だがそれでも、観ているあいだにすべての趣向を感知することは、恐らくは難しい。だから概ね成り行きを予測していた私でも最後は度胆を抜かれ、更に観終わって細部を検証してみて、伏線が見事に張り巡らされていることに、改めて感嘆を禁じ得なかった。

 特に出色なのは、一連の出来事の引き金を引いた事実が、作中できっちりと明示されていたことだ。観終わったあとも「なぜこの事件が、あのタイミングで始まったのか」ということが納得できず、それ故に評価を割り引いてしまった人がいるかも知れないが、よくよく物語の描写、それも恐怖と直結しない、さり気ない出来事に思いを馳せていただきたい。驚くほど明瞭に、そのきっかけが描写されているのだ。

 そして、そうした事実を検証したあとに題名をもういちど確認すると、更に唸らされる。これ以上相応しいタイトルは、なかなか見つからない。

 全年齢対象で子供に対して強いトラウマを与え、ホラー映画初心者なら充分すぎるほど恐怖を堪能できる一方で、ホラー映画に慣れた人、『SAW』のような知的興奮を求める者にも感銘を与える。『SAW』は傑出したワン・アイディアながら、その趣向ゆえにどうしても受け手が限られる欠点があったが、本篇にはその制約さえもない。それでも『SAW』が好き、という人は少なからずいるだろうが、幅広い層にアピールしうる、という意味で、本篇はジェームズ・ワンリー・ワネルの代表作になるだろう。そして、オーソドックスに徹しながら完成されたホラー映画として、お手本に出来そうな1本である。



関連作品:

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