意味が分かると怖い話の本当の意味をあなたは解っているだろうか。

 意味が分かると怖い話、というのがあります。

 ただ漠然と読んだだけでは雑談、しかしその背景が解ると怖い、という、言ってみればひねりを利かせたショートショートみたいなものですが、まとめサイトがあったり、iPhoneのアプリとしても製作されていたり、と一部でかなり人気を博しています。私もけっこー好きで、時々その手のサイトやスレッドを読み耽って時間を無為に過ごしてしまうことがままある。

 先日もそんな感じで、その手のスレッドを手繰っていたのですが、ちょっと首を傾げることがあった。

 問題は、この文章。


ある産婦人科で赤ん坊が生まれた。

その夜看護婦が赤ん坊の様子を見てみると、なんと赤ん坊は死んでいた。

病院は事実を隠蔽するため、すぐに身寄りのない赤ん坊を身代わりに用意した。

出産のとき母親は意識がなく、自分が産んだ赤ん坊をまだ見てはいない。

そして見た目が瓜二つな赤ん坊を選んだため、見破られることはないはずだった。

次の日、母親は赤ん坊と対面するなり鬼の様な形相で叫んだ。

「こいつは私の赤ちゃんじゃない!!」

 意味が分かると怖い話、という類はコピペで拡散していき、貼りつけた当人も本当の意味を知らず、解釈が曖昧なまま広がっていくこともある。上に引用したネタは、そのスレッドでは“母親が赤ん坊を殺した”という説が一般的ですが、しかしそれで合っているのか、という点で議論をしていた。

 私もこれは、“母親が殺した”説は正しくない、と思っているのですが、当該スレッドをずーっと読んでも、私と同じ解釈は見当たらない。他に挙げられた解釈は、あまりに想像を膨らませすぎていて、ネタとしては面白いけど、それが正解だとしたら、文章に抜けが多すぎる。

 最初にネタを投下した人物、或いはコピペと言いつつ引用の時に自分でテキストを打ち直して無自覚に改竄してしまった人物、または意図的に変えてしまった人物がいたりして、そもそも文章が本来の意図通りなのか、書き手の文章力は確かなのか、という疑問が生ずる以上、いくら解釈しても正解とは限らない、という問題は承知している。ただそのうえで、私はこれがほぼ意図をきっちりと再現した文章と仮定して、いちおうは筋道の通る解釈がひとつだけある、と思うのです。

 それは何かというと、





 母親が“鬼”だった、という解釈です。

 つまり、視点人物に“鬼のような形相”と書かせたものは、母親の本当の顔であり、“ような”ではなく“鬼そのもの”の顔だった。生まれた子供も、客観的に人間のように見えても“鬼”なのですから、産婦人科の人々にとってはともかく、人間の子供にすり替えられていれば母親には解るでしょう。

 もっと言えば、“鬼”という言葉は本来“亡霊”、つまり“死んだもの”を指す言葉だった。人間の目からは死んでいるように見えたとしても、それは“鬼の子供”の正しい状態だった可能性がある。

 これは上に引用した文章が完全な状態で、ヒントはすべて出揃っている、と判断した場合、過不足なく条件を満たす解釈になる――と思うのですが如何でしょう。少なくとも、検索をかけてもだいたいのところで正解とされている“母親が殺した”説は、“出産のとき母親は意識がなく、自分が産んだ赤ん坊をまだ見てはいない。”という一文と矛盾してしまう。母親の正体はともかく、この一文は母親のアリバイを証明するものなので、もし母親が殺したとするならこの文章は邪魔、逆にどこかにそうした可能性を窺わせる文章があって然るべきです。

 ……まあ、いずれにせよ、最初にこの文章をアップした人間が解らない以上、答は藪の中ですし、結局は問題文がどの程度創作者の狙いを正しく反映しているかによるので、いくら考えても無駄ではあるのですが。とりあえず私は、母親が殺した、という説よりはこっちのほうがまだましだと思う。



 意味が分かると怖い話の類は、正解がよく解らないもの、説明されても腑に落ちないもの、更にはそれっぽく装っただけの無意味な代物まで混在しているので、正解を探す愉しさがある一方、付き合ったぶんだけ徒労に終わることも多い。

 そういう可能性まで踏まえて考えるのも愉しさのひとつではありますが――出来れば作り手に、どこかに「これ!」という正解をちゃんと落としておいて欲しい、と思うこともしばしばです。これでけっこう時間を無駄にしている人は少なくない気がします、私も含めて。

 それでも、膝を打つような話を求めて読み漁ってしまうのは……結局、基本的にはミステリ好きだからなんだろーなー。