『ドランクモンキー/酔拳』

酔拳 (ドランク・モンキー) [DVD]

原題:“酔拳” / 英題:“Drunken Monkey” / 監督:ユエン・ウーピン / 脚本:シャオ・ルン、ウー・シーユエン / 製作:ウー・シーユエン / 撮影監督:チャン・フイ / 照明:リン・チウ / 美術:タン・ユエンタイ / 編集:パン・シウン / 衣装デザイン:クン・チュアンカイ / 武術指導:シュウ・シア、ユエン・ウーピン / 音楽:チョウ・フーリャン / 出演:ジャッキー・チェン、ユエン・シャオティエン、ウォン・チェンリー、ディーン・セキ、シー・ティエン、シュウ・シア、リン・イン、リン・チャオ、シー・フーツァイ、チャン・チン / シーゾナル・フィルム製作 / 配給:東映

1978年香港作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:?

1979年7月21日日本公開

2009年12月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/06/10)



[粗筋]

 ウォン・フェイフォン(ジャッキー・チェン)は武術道場の師範ケイインの息子で、才能はあるがお調子者故にしょっちゅう怠けようとする。

 そんな彼も、とうとう年貢を納めるときが来た。勢いでちょっかいをかけた美人が実は従姉妹で、達人である叔母にこっぴどくお仕置きされてしまう。しかも、その直後に嫌がらせをしていた男を憂さ晴らしに叩きのめしたところ、地元の有力者の息子であったために、道場に乗り込まれてしまう。

 有力者のほうはどうにかやり過ごしたものの、ケイインの怒りは凄まじく、当分のあいだ外出禁止を命じられ、今まで以上に厳しい修行を命じられた。

 だがそれでもフェイフォンは懲りる気配がなく、子分を使って抜け出してしまう。たまりかねたケイインは、ソウ(ユエン・シャオティエン)という達人に息子を委ねることにした。

 みすぼらしい風采で酒飲みのこの奇妙な“師匠”は、しかし確かに武術の達人で、1年間の約束でフェイフォンを預かると、にわか作りのあばら屋に閉じ込めて稽古をつける。

 しかしなおもフェイフォンの性根はひねくれたままだった。策を弄してソウのもとを脱出するが、そこで思わぬ恥辱を味わうこととなる――



[感想]

 多くの日本人が初めてジャッキーの勇姿を目の当たりにしたのがこの作品であった。いわゆるカンフー映画のイメージを覆すような陽性の描写と、優れた身体能力で表現されるコメディ・タッチの動きに驚かされ、その愉しさが一気に支持されたのも理解できる。

 ただ、ジャッキーの作品を製作順に辿っていくと、この境地に至るまでの道程は決して平坦ではなかった。いちど映画界から身を引いていたが、ブルース・リーの死後、新たなカンフー・ヒーローを必要としていたロー・ウェイ監督によって見出され再デビュー、しかし飽くまでブルース・リーの衣鉢を継ぐものを求め似たような傾向の作品を撮ることに固執していた監督に対し、別の方向性を探り続けたために、ジャッキーは監督と対立、切歯扼腕の想いを積み重ねていた。作品の質が向上しなかったせいもあってロー・ウェイ監督の下で撮った映画は配給がつかない、という事態にも陥り、そんななかで“2作限りのレンタル契約”という形で他の製作会社での映画作りが実現した。

 その1作目、『スネーキーモンキー/蛇拳』において、従来の路線を踏まえつつも、相性の良かったコメディ・スタイルを大幅に膨らませた結果、ようやく一定の成果を収めた。そうした流れを踏まえ、カンフー映画にありがちだった陰惨な復讐劇の要素を削ぎ落とし、より陽性の物語を志向して生まれたのが本篇だったわけだ。

 それ故に、順を追ったうえで本篇を鑑賞すると、愉しさもさることながらちょっとした感動が味わえる。苦心の末、ようやくその才能を花開かせた様が、凛々しさ逞しさ以上に美しく映る。強いがお調子者かつ怠け者、という人物像を得て、機敏に駆け巡りながらも滑稽に振る舞う様子はまさに水を得た魚のごとしだ。

 そして、そうして得た格好の人物像を逃すまいとするかのように、本篇の主人公は最後まで言動がほとんどブレない。屈辱的な経験を経て、ようやくまともに修行に励むようにはなるが、この男、最後までどこかお調子者のままなのだ。しかしそれが愛嬌に繋がると同時に、逆に終盤での活躍に不自然さを感じさせなくなっている。

『スネーキーモンキー/蛇拳』以上に、アクションを用いたユーモアも研ぎ澄まされている。市場での若干デンジャラスないたぶり方に、父のお仕置きから免れようとする姑息な方法。更にソウという師匠に命じられる異様な修行法など、実のところ凄まじい身体能力を要するのだが、そういうことをあまり意識させず、ただただ面白がらせてくれるジャッキーの技倆には、振り返って考えるとひたすらに感服させられる。アクション俳優ならではの“見せ方”に対する工夫の細やかさは、ロー・ウェイ製作のもと彼が他のスタッフと作りあげた『蛇鶴八拳』『カンニング・モンキー/天中拳』でも顕著だったが、本篇での表現は間違いなくその極みにある。

 だが何よりも素晴らしいのは、題名にも用いられた“酔拳”という技だ。酔えども重心は乱れず、トリッキーな動きで敵を翻弄しつつ着実に打撃を与える。この技、実在はしているようだが、そのユーモラスさに焦点を合わせ、ここまで魅力的に描ききった、その点だけでも評価に値する。個々の動きにちゃんと意味を付与し、それが戦いのなかで活きるという外連味に、更にひねりを加え、長いクライマックスにメリハリをつけ、カタルシスさえ演出しているのだから、恐れ入るほかない。

 カンフー映画というものの予備知識などなく単品で鑑賞しても面白い、だからこそ日本での爆発的なジャッキー人気に繋げられた本篇であるが、彼の出演作を製作順に辿って鑑賞すると、それが偶然ではなかったことが窺える。弛まぬ努力と工夫が結実した、あとから思えば約束された成功の最初の頂に位置した作品が本篇だったのだろう。

 惜しむらくは、オリジナルの音声が一部失われており、DVDではあちこちに英語版音声を流用していることだ――ジャッキー・チェンというスターを語る上で重要な位置にある作品なのだから、何とか復原するか、広東語で再収録するなどして欲しいと思わずにはいられない。



 物語的にも描写的にもほとんど間然する余地のない本篇だが、しかし個人的にはひとつ、最初はどうしても腑に落ちない点があった。主人公に、ウォン・フェイフォンという人物を選んだことである。

 この人物、日本人の大半には馴染みが薄いはずだが、中国では非常に有名な、実在したカンフーの達人である。人間的にも優れていた彼は、多くのフィクションで採り上げられる、定番のヒーローでもあったらしい。ジャッキーと共に世界でその名を知られたマーシャル・アーツ俳優ジェット・リーが代表作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズで演じているのも同じ人物である。

 ただ、本篇でのウォン・フェイフォンは、そうした英雄的な人物像などかけらも窺えない。粗筋でも上の感想でも触れたとおり、お調子者で基本的には怠け者、そのうえ最終的に身につけるのが、酔えば酔うほど強くなる拳法である。“ワンチャイ”シリーズでも登場するようなお馴染みの弟子たちなどまだ姿も見えず、そんな彼がのちに英雄になる、という仄めかしさえしていないので、何故わざわざ“ウォン・フェイフォン”に設定したのか疑問に思えた。

 しかし、よくよく考えてみると、本国でこの作品がジャッキー出演作として最大の成功を収めた要因のひとつは、この設定にあったとも考えられる。お馴染みのヒーローを、ユーモラスで愛嬌のある人物として捉え、新解釈で描き出した、という点でまず関心を惹いたからこそ動員に繋がった。

 そこからヒットに至ったのには前述のようなジャッキーの努力、魅力が大いに貢献しているのだろうが、観客に興味を持ってもらえる見せ方、という部分から試行錯誤を怠らなかった、ということなのかも知れない。

 あくまでも憶測である――が、そのくらいの可能性を考慮しておかないと、先に“ワンチャイ”を観てしまった私には、正直受け入れがたいぐらい両者の人物像には隔たりがある。ウォン・フェイフォンという人物と、彼の中国・香港産フィクションにおける扱いについて、少しぐらい勉強したほうがいいのかも知れない……いや、本篇だけ楽しみたいのなら、別に気にする必要などないのは確かなのだが。



関連作品:

スネーキーモンキー/蛇拳

蛇鶴八拳

カンニング・モンキー/天中拳

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇

ベスト・キッド