『レッド・バロン』

『レッド・バロン』

原題:“Der Rote Baron” / 英題:“The Red Baron” / 監督、脚本&製作:ニコライ・ミューラーショーン / 製作:ダン・マーク、ローラン・ペレグリノ、トーマス・レイサー / 撮影監督:クラウス・マーケル / 美術:イヴォンヌ・フォン・ウォーレンバーグ / 編集:オリヴィア・レッツァー / 音楽:ステファン・ハンセン、ダーク・ライハルト / 出演:マティアス・シュヴァイクホーファー、レナ・ヘディティル・シュヴァイガージョセフ・ファインズ、フォルカー・ブルッヒ / 配給:Broadmedia Studios

2008年ドイツ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:岡田壯平

2011年5月21日日本公開

公式サイト : http://www.redbaron.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/05/13) ※試写会



[粗筋]

 第一次世界大戦まっただ中のドイツ軍に、ひとりの優れたパイロットがいた。マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵(マティアス・シュヴァイクホーファー)――敵を殺すのではなく、あくまで撃墜することを任務と捉える彼は、敵であっても敬意を表すべき相手の葬儀には空中から会葬し、撃墜した戦闘機を捜し出して、記念品を回収すると共に、生存者は保護することを忘れなかった。

 間もなく、戦死した元エースパイロットの打ち立てた撃墜記録を破ったリヒトホーフェンは将軍より勲章を授与され、新たなエースパイロットとして認められるようになる。

 だがこのことをきっかけに、彼は自らの認識とはまるで異なる戦争の側面を見せつけられることとなった。ドイツ軍は彼を空軍の指揮官に任命する一方、弟のローター(フォルカー・ブルッヒ)をもリヒトホーフェンの指揮下に加え、兄弟での活躍をアピールすることで、国内の士気を向上させるプロパガンダに利用し始めた。

 そうした上層部へのささやかな抵抗と同時に、自らに近づくことの危険を敵に悟らせるため、リヒトホーフェンは一計を講じた。自らの搭乗機を真っ赤に塗りたくったのである――そしていつしかリヒトホーフェンは“レッド・バロン”の異名を取り、敵から恐怖と敬意とを等しく集める存在になっていった……



[感想]

 本篇の主人公マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵は実在の人物である。日本では一部で赤の代名詞のように用いられている『ガンダム』のシャアや、宮崎駿が飛行機への愛情をふんだんに注ぎ込んだ傑作『紅の豚』のポルコ・ロッソは、彼をモデルに作りあげられたキャラクターということで、私はまったく知らなかったのだが、かなり著名な人物らしい。

 本篇で描かれる彼の人生がどの程度史実に添っているのか、私には判断する知識の持ち合わせもないため、その論点から語ることは出来ないのだが、フィクションとして眺めると、正直もうひとつ物足りない、という印象は拭えないように思う。

 物語に大きな破綻はない。リヒトホーフェンという人物が紳士で、戦闘機の操縦士として高い才能を持ち合わせており、同時に世間知らずの一面があった、というのは解るし、その魅力もしっかりと伝わる。その人物像が狂うような描写はないし、まとまっている。

 ただ、あまりに小綺麗にまとまっていて、突出した印象をもたらさないのが気になる。破綻はないが、その構成要素はごくごくオーソドックスで、リヒトホーフェンの人物像さえ飲み込めてしまうと、その枠をはみ出さないのだ。最初は単純に空中戦を愉しんでいた節があったが、エースパイロットとしての名声を得ると途端に上の人間に利用され、更に認識していなかった戦争の負の面を突きつけられて懊悩する……というくだりはごく真っ当でそつがないが、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 反面、やや整理が足りていない部分もある。リヒトホーフェンには常に行動を共にする同胞や、途中から同じ道に進む弟などが絡んでくるが、それぞれのエピソード、主題との関わりが不充分で、一部にフィクションの人物を組み込んでいるわりには効果を上げておらず、散漫とした印象だ。エピローグ的に綴られるエピソードなど、もっと補強するエピソードを組み込んで整頓するか、逆に大きく刈り込んでしまった方が強い印象を残したはずだ。本篇のような描き方では、手触りがさらっとして、インパクトにも乏しい。鑑賞当日、寝不足気味で集中力を欠いていた私には、いまひとつ取っかかりがなく、眠気を催さずにはいられなかった。

 否定的なことばかり連ねたが、しかし戦争映画、特に空中戦を主題にした映画としては非常に見応えがある。操縦士の表情を追いながら、戦う双方の距離感を巧みに捉えて描き出す圧倒的なスピード感に、重量のあるエンジン音、爆撃音がドラマ部分ののんびりした空気を見事に払拭する。生憎と私は戦闘機まわりの知識も乏しいので、その空中戦シーンがどの程度正確に描かれているのかは不明だが、知らない人間であってもその迫力は間違いなく堪能できる。

 ドラマ部分に突出した感はない、とは言い条、ある程度破綻なくまとまっているので、敵味方の双方から敬意を払われたエースパイロットの視点から描いた戦争映画として、あまり不快な印象を抱くことなく鑑賞できる、という意味では充分な仕上がりだ。

 私自身には正直なところいまひとつと感じたが、マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵という人物像に関心がある人、“戦争”というものをある程度の重量感と清潔感を以て描いている作品が観たい、という人なら愉しめるのではなかろうか。



関連作品:

アビエイター

ワルキューレ

白いリボン