『ザッツ・エンタテインメント』

『ザッツ・エンタテインメント』

原題:“That's Entertainment!” / 監督、脚本&製作:ジャック・ヘイリーJr. / 製作総指揮:ダニエル・メルリック / 編集:バド・フリードゲン / 音楽:ヘンリー・マンシーニ / 出演:フランク・シナトラフレッド・アステアビング・クロスビージーン・ケリーデビー・レイノルズミッキー・ルーニージェームズ・スチュワートライザ・ミネリエリザベス・テイラー / 配給:松竹富士 / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1974年アメリカ作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:岡枝慎二

1975年3月22日日本公開

2009年9月9日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/02/16)



[粗筋]

 1974年、メトロ・ゴールドウィン&メイヤー・スタジオは創立50周年を迎えた。

 長い歴史の中で様々なジャンルの映画が撮られてきたが、特にMGMが力を注ぎ、一時期絶大な人気を誇っていたのが、ミュージカル映画である。

 無声映画からトーキーに移行して間もなく、ミュージカル映画は誕生した。音声が加わったことで大スターの訛が問題になり、急遽ブロードウェイから人材を集めていったことが、その隆盛のひとつの契機となったのは間違いない。

 撮影所で25周年記念パーティが催された際、当時の大手スタジオのスターをすべて合わせたのに匹敵するほど多くのスターを擁していたと言われるMGM――その最盛期を支えたフランク・シナトラフレッド・アステアジーン・ケリーたちが、50周年を迎え、当時の記憶を語る……



[感想]

 昨今、ミュージカル映画は極めて稀となった。『シカゴ』がミュージカル作品としてアカデミー賞に輝いたのを始め、『ドリームガールズ』『ヘアスプレー』『マンマ・ミーア!』『バーレスク』といった作品が発表されているが、年に1本程度のことで、到底隆盛とは言い難い――辛うじて火が保たれている、という程度だろう。

 だが、本篇を見ると、かつてミュージカルがハリウッド映画の花形であったことを窺わせるとともに、どうしてそれほどに人々を惹きつけたのかがよく解る。

 ドキュメンタリーめいた叙述の中で、粗筋に記したような必然の流れが語られているが、それ以上にミュージカルという方法論が求める構成美が、映画という表現手法と非常によく合ったのだろう。優れた音楽に歌唱力、ダンス、ステージ、そしてそれを見せるための演出、それらがきっちりと噛み合わなければ、観客を虜には出来ない。ハイライトばかりを陳列しているので失敗例は解らないが、少なくともその傑作が備える驚異的な総合力の高さはきちんと理解できる。

 そして、ミュージカル映画は他のジャンル以上に、スターの存在が不可欠だったようだ。大勢のエキストラと壮大なセットを用いた、豪華な映像もその魅力だが、大抵はスターがいて、場面や物語を牽引する。歌声は別の人物が当てる、ということも多かったようだが、翻って、それほどに画面映えする人材が求められていた、ということでもあるのだろう。

 この文脈で理解を進めていくと、どうしてジーン・ケリーの『雨に唄えば』が名作として愛されているのか、フレッド・アステアという名前を未だに耳にするのか、非常によく解る。

雨に唄えば』という曲が実はMGMのミュージカル初期から歌われていた、という事実も驚きだが、そうして連ねられた歴史の頂点でジーン・ケリーが見せるひと幕の華麗さは圧倒的だ。アクロバティックな振付も身につけ、遂には監督まで兼ねて作品をコントロールしていった彼は、まさにミュージカル映画の寵児だったということが本篇からは読み取れる。

 しかし、本篇に登場する綺羅星の如きスターたちの中で、誰よりも鮮烈なインパクトを与えるのは、フレッド・アステアだ。

 基本的にこの作品はテーマによってブロック分けを行い、その中であるひとりのスターにスポットを当てて紹介する、といった構成にしているが、フレッド・アステアはほぼ全篇に跨って幾たびも顔を覗かせる。その、ごく最初の登場シーンである、『踊るニュウ・ヨーク』という作品のなかで見せるステップにまず度胆を抜かれる。コール・ポーターの『Begin the Beguine』をバックに、MGMミュージカル初期のスターであったエレノア・パウエルとひたすらに踊り続けるだけなのだが、その完璧すぎるほどの完璧さを前にすると、言葉を失ってしまう。のちのパートでは、帽子掛けを相手に、無機物に命を吹きこむかのような素晴らしい演技を披露したかと思えば、先進的な視覚効果技術を用いて、あり得ないシチュエーションで、隙のないダンスを見せつける。才能だけでなく、シチュエーションに丹念な工夫を凝らし、努力も欠かさなかったというこの人物が、不世出の存在として敬意を集め、未だに折に触れその名を取り沙汰されるのは当然のことだろう。

 こうした、ミュージカルがどれほど往時の映画界で光芒を放っていたかが解る一方で、よくよく行間を眺めると、別の発見もある。

 MGM50周年を記念して製作された、という本篇だが、登場する作品は50年代ぐらいまでで、それ以降のものにはほとんど言及がない。そして、往年のスターたちが当時の思い出を物語るその背後には、もはや廃墟にも等しいほどに朽ちたセットの姿がある。このことから、ミュージカルが50年代を最後に、急速に衰退してしまったことが察せられる。誰もそういう状況に具体的に触れることはないが、だからこそいったんそう感じてしまうと、表情やユーモアを交えた語りにも悲哀を嗅ぎ取ってしまう。

 しかし、そうした暗い一面に敢えて触れず、ひたすらにミュージカルの華麗さ、愉しさに注目し、その魅力を存分に伝えている本篇は、総集篇としても入門篇としても見事に役割を果たしている、と言える。事実、基本的にミュージカルにはあまり関心のない私が、今は本篇で紹介された作品の全貌を確かめたくて堪らなくなっている。本篇のあとにフレッド・アステア出演の名作『バンド・ワゴン』をプログラムに持ってきた“午前十時の映画祭”の仕事ぶりが心憎いくらいだ。



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