『女優霊』

女優霊 [DVD]

監督&原案:中田秀夫 / 脚本:高橋洋 / 製作:仙頭武則 / 撮影監督:浜田毅 / 美術:斉藤岩男 / 助監督:日垣一博 / 音楽プロデューサー:高木健次 / 音楽:河村章文 / 出演:柳ユーレイ、白島靖代石橋けい根岸季衣、李丹、大杉漣高橋明、菊池孝典、サブ、小島なおみ、芹沢礼多、日比野玲、小林宏史、飯島大介、染谷勝則、吉田祐健 / 映像ソフト発売元:バンダイビジュアル

1995年日本作品 / 上映時間:1時間16分

1996年3月2日WOWOWにて放映

2010年11月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

テレビ放映にて初見(2005/07/01)

DVD Videoにて再鑑賞(2010/11/28)



[粗筋]

 村井(柳ユーレイ)にとって初めてとなる映画の撮影中に、それは発見された。

 撮影済のフィルムをスタッフで確認しているとき、撮ったはずのない映像が流れたのだ。どうやら未現像のつもりで使用したフィルムに、撮影されたまま現像されていなかったものが混ざっていたらしい。村井の記憶を微かに刺激するその映像には、主演女優と思しき人物の背後で、脈絡もなく哄笑する、白い服の女が映りこんでいた。

 その未現像のフィルムで撮影された映画のことがどうしても気にかかった村井は、撮影所でも古参の六さん(高橋明)に話を持ちかけ、映画の素性を探らせる。

 一方、この頃を境に、村井の撮影現場で奇妙な出来事が起きるようになった。出演する女優たちが演技の途中で何かに気を取られ言葉を詰まらせ、村井自身もスタジオの照明用通路や、自宅の風呂からあるはずのない物音を聴く。出演者のひとり、黒川ひとみ(白島靖代)の移籍問題に絡んで撮影所に踏み込んできた女社長は、奇妙な気配を感じ取るなり、ひとみにお守りを託して、一目散に逃げ去っていった。

 そしてある日、遂に撮影現場で、死者が出てしまう……



[感想]

 90年代末から2000年代初頭にかけて、日本では多くのホラー映画が製作された。海外でも高く評価され、ハリウッドでリメイクされるのみならず、一部はハリウッドに招かれてホラー映画を撮影、清水崇監督は自らの『呪怨』をリメイクした『THE JUON―呪怨―』で日本人監督としては初の北米興収第1位を獲得するなど、好成績を残す作品も現れた。サム・ライミ監督の新作『スペル』を筆頭に、その影響を滲ませた作品も現れるなど、ここ最近のホラー映画に齎した影響も少なくない。

 そうしたムーブメントの始まりにあるのが、鈴木光司の小説を映画化し大ヒットを遂げた『リング』にあるのは間違いないが、この『リング』を撮影した監督・中田秀夫と脚本・高橋洋のコンビが、それよりも前に撮影したホラー映画が本篇であった。

『リング』はホラー映画の主軸たるモンスター像に大きな影響を及ぼしたが、しかしこうした日本産ホラー映画が『リング』から引き継いだのはむしろ、化物をダイレクトに見せたり、その出没の驚きから生じさせる恐怖ではなく、じわじわと不気味な気配を漂わせ、そこから滲み出す恐怖を描き出す手法であった。実際、その後日本では多くのホラー映画が製作されたが、『リング』の貞子に匹敵するモンスターは『呪怨』の伽椰子ぐらいしか登場せず、結局アイコンとなるモンスターを創出することは出来なかった。だから――というよりは、むしろはじめから限界のあったこの手法を追い求めた作品よりも、恐怖の演出手法を踏襲し、膨らませた作品のほうに良作が生まれ、あとに引き継がれていったように思える。最近になって復活した『怪談新耳袋』シリーズでも、一部ではモンスター的な“恐怖”の象徴を出しているが、やもするとギャグになってしまうそうした作品よりも、雰囲気を膨らませる作品のほうが印象に残っている。

 だが、そういう風に考えていくと、のちのいわゆるJホラーにより大きな影響を及ぼしたのは、『リング』ではなく本篇だった、と解釈するべきかも知れない。

 本篇のタイトル・ロールである“女優霊”はプレ貞子とも言うべき、黒髪に白いワンピース、というやがてJホラーのお家芸のようになるスタイルを用いているし、終盤での活躍ぶりは『リング』に先駆けている、とも言えるが、どちらかと言えば唐突なクライマックスの展開よりも、そこに至る異様な雰囲気の醸成は、既に貫禄さえ感じさせるほどで、のちの日本産ホラーの手法はあらかた網羅している、と言ってもいい。

 独特のカメラアングルで、片隅に奇妙な空間を作ったり、登場人物の唐突な視線の移動で何かが「見えている」というのを感じさせたり、他人よりも異界のものを感じる力があると思われる人物が謎の振る舞いをして現場から立ち去るというくだりがあったり……いずれも、のちのツボを押さえたホラー映画ならば確実に採り上げているような表現ばかりだが、その雛型と言えるものが本篇には大量に見出される。

 もうひとつ注目すべきポイントと言えるのが、本篇が一種の“幽霊屋敷”的な主題のもとに組み立てられている、ということだ。撮影所というのは常に人が出入りするオープンな場所だが、怪談の舞台にもなりやすい。そこに根付いた怨念が、たまたま発見した者の周囲に怪事を齎す、という作りは、海外のホラー映画のパターンを踏襲すると共に、日本の古典的な怪談映画の流儀を発展させたものとも捉えられる。これが『呪怨』の佐伯家のような形で受け継がれていった、と考えると、やはり本篇こそ本当の、近年製作される国産ホラーの原点と呼んでいいのではないか。

 そして本篇の描写にはほとんど無駄がなく、撮影所の日常をうまく描き出しながらも空気の醸成は完璧だ。のちに製作された作品には、やり過ぎてもはやただのギャグになってしまったり、雰囲気を出そうとして白けた印象を残すものも多く、このクオリティを実現した作品のほうが実のところ珍しいように思う。

 そう考えていくと、のちのJホラーの原点であると同時に、いきなり提示された、頂点のひとつと断じていいだろう。もし国産ホラーの怖さ、面白さを体感したいと思うなら、下手な新作に触れるよりはまず本篇を鑑賞した方が早い。



関連作品:

ラストシーン

ザ・リング

ザ・リング2

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