『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』

『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』

原題:“Due Date” / 監督:トッド・フィリップス / 原案:アラン・R・コーエン、アラン・フリードランド / 脚本:トッド・フィリップス、アラン・R・コーエン、アラン・フリードランド、アダム・スティキエル / 製作:トッド・フィリップス、ダニエル・ゴールドバーグ / 製作総指揮:スコット・バドニック、スーザン・ダウニー、トーマス・タル / 撮影監督:ローレンス・シャー / プロダクション・デザイナー:ビル・ブルゼスキー / 編集:デブラ・ニール=フィッシャー / 衣装:ルイーズ・ミンゲンバック / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:ロバート・ダウニーJr.、ザック・ガリフィアナキスミシェル・モナハンジュリエット・ルイス、ダニー・マクブライド、RZA、ジェイミー・フォックス / グリーン・ハット製作 / 配給:Warner Bros.

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:松岡葉子 / R-15+

2011年1月22日日本公開

公式サイト : http://www.duedate.jp/

ワーナー・ブラザース試写室にて初見(2011/01/12) ※試写会



[粗筋]

 建築家のピーター・ハイマン(ロバート・ダウニーJr.)は舞いあがっていた。愛妻サラ(ミシェル・モナハン)が臨月を迎えており、彼は間もなく一児の父になる。出張先のアトランタでもずっと我が子の名前に頭を悩ませながらどうにか仕事を片付け、一路ロサンゼルスにいる妻のもとへ戻ろうとした、その矢先に不幸が降りかかった。

 空港でピーターが遭遇したのは、イーサン・トレンブリー(ザック・ガリフィアナキス)という男。到着するなり、ピーターの車のドアを吹き飛ばし、ピーターと自分の荷物を取り違えて去っていった。そうとは気づかずセキュリティを通ろうとしたピーターは、中から大麻が見つかったとして、荷物を没収されてしまう。

 飛行機に乗り込むと、何故かイーサンはピーターの後方座席にいた。離陸ギリギリまでメールを打っていたピーターに、「テロリストと間違われるぞ」と繰り返したために航空警察に本当に勘違いされ、ゴム弾を撃ち込まれた挙句に登場拒否の処置を受けてしまう。

 降ろされるときに財布も身分証も座席に置き忘れたピーターが途方に暮れていると、真っ赤なスポーツカーに乗ったイーサンが声をかけてきた。俳優を自称し、これからハリウッドのエージェントの面接を受けに行くところだった、と嘯くと、ピーターに乗るよう促す。

 傍若無人で非常識な物言いが、最初からピーターの癇に障っていた。東から西へ、アメリカを横断する長旅を共にする相手として、適当とはどうしても思えない。だが、背に腹は替えられなかった。ピーターは意を決して、車のドアを開く。これが、数日間に及ぶ悪夢の始まりに過ぎないとも知らずに――



[感想]

 不思議なほど誤解されがちだが、本当に質のいいコメディ映画は、知性がなければ作れない。中にはノリと勢いで押し通すタイプのものも存在するだろうし、それで面白くなることもあるかも知れないが、普通評価の高いものは、一見お馬鹿を繰り返しているように見えても、描写を反復したり、巧みな伏線を用いて観る者の笑いを引き出すための工夫を欠かしていない。2010年に日本で公開された『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』はまさに、一見バカの積み重ねのように見えて、巧みに練られたプロットが効果を上げた現代コメディの秀作だった。本篇はその『ハングオーバー!』の監督の新作である。

 前作は巧み抜かれた仕掛けが、クライマックスでさながら謎解きのように見事に噛み合う爽快感が逸品だったが、本篇はあそこまで緻密な仕組みはない。そもそも前作のように、行方をくらました花婿を捜す、という明確な謎解きがあるわけではなく、ひたすらにアメリカ大陸を横断し、妻の出産までにロサンゼルスに戻る、という目的に邁進しているので、謎解きめいた興趣はない。

 だが、よく練られたプロットの巧みさは健在だ。粗筋はごくごく序盤、本筋のお膳立て部分に過ぎないのだが、ここまででも充分に入り組んだ展開の果てに、ようやく肝心のシチュエーションまで辿り着いている。エピソードを繊細に補強し、紡ぎ合わせることで本筋まで登場人物を導いているのだ。この緻密さは、そこに注目して鑑賞していると感嘆させられるほどである。

 しかしこの作品はプロット以上に、ザック・ガリフィアナキス演じるイーサンというキャラクターの強烈さが効いている。

 とにかくこんなにインパクトの強い人物も珍しい。初登場時からあり得ない言動を繰り返し、次から次へと事態を悪化させていく。主人公であるピーターは最初から彼を嫌悪するのだが、当初は幾分、ピーター自身の傲岸で短気な性格も手伝っているかのように見えるのに、気づけばひたすらピーターに同情したくなる。トラブルメーカー、という表現では生温い、まさにこいつ自体がトラブルという領域だ――“トレンブリー”(Tremblay)という、“トラブル”(Trouble)を彷彿とさせる名前をつけているのも、そういう人物像を意識してのことだろう。しかも途中で明かされるこの名前の背景を思うと、非常に意味深だ。

 基本はロードムービーなのだが、このイーサンの奇行に振り回され、次第に満身創痍になっていくピーターの姿を眺めていると、むしろサヴァイヴァル映画だ、という気さえしてくる。この男の振る舞いの犠牲にならぬよう、祈りたい心情になってくるはずだ――その派手な災難っぷりに笑わされながらも。

 前作のような謎解きの趣向はない、と記したが、しかしちゃんと驚きは用意している。一種、それまでの出来事の様相を反転させてしまうような“真実”だが、それもまたちゃんとコメディの範疇に含まれている、ブレのなさが見事だ。観ているこちらまで一瞬青褪めるような真実だが、直後にはまた笑いが蘇ってくる。

 正直、全体を眺めれば、笑い話では済まされない事態も数々起きている。そのわりに最後、ぜんぶ美談にしようとするのはどうか、という気もするのだが、その突き抜けた展開もまた本篇の徹底した姿勢の顕れと捉えるべきだろう。

 主役が3人、何度も絡む登場人物が多い前作に比べるとシンプルだが、そのぶんだけメインであるピーターとイーサンふたりの絡みの面白さがこれでもか、と詰めこまれているので、焦点を絞って掘り下げた感がある。『ハングオーバー!』の下世話だが洗練された特徴的なテイストを踏襲しながらも、少し種類の違う笑いを追求した本篇もまた、一見お馬鹿だが疑いなく理知的なコメディ映画である。けっこう卑猥なギャグも含まれているので、受け付けない人もいるだろうが、そのあたりに寛容になれるのなら、きっと快い笑いを味わえるはずだ。



関連作品:

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