『アンストッパブル』

『アンストッパブル』

原題:“Unstoppable” / 監督:トニー・スコット / 脚本:マーク・ボンバック / 製作:ジュリー・ヨーン、トニー・スコット、ミミ・ロジャース、エリック・マクレオド、アレックス・ヤング / 製作総指揮:クリス・シアッファ、リック・ヨーン、ジェフ・クワティネッツ / 共同製作:アダム・ソムナー、スキップ・チャイソン、リー・トリンク、ダイアン・サバティーニ / 撮影監督:ベン・セレシン / プロダクション・デザイナー:クリス・シーガース / 編集:クリス・レベンゾン,A.C.E.、ロバート・ダフィ / 衣装:ペニー・ローズ / キャスティング:デニース・チャニアン / 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ / 出演:デンゼル・ワシントンクリス・パインロザリオ・ドーソン、イーサン・サプリー、ケヴィン・ダン、ケヴィン・コリガン、ケヴィン・チャップマン、リュー・テンプル、T・J・ミラー、ジェシー・シュラム、デヴィッド・ウォーショフスキー / プロスペクト・パーク/スコット・フリー製作 / 配給:20世紀フォックス

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:林完治

2011年1月7日日本公開

公式サイト : http://www.unstoppable.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/01/07)



[粗筋]

 鉄道員になってから僅か4ヶ月のウィル・コルソン(クリス・パイン)が新任の車掌として最初に向かったのは、ペンシルヴァニア州北部にあるミンゴ操車場。ここでウィルは、勤続28年のベテラン鉄道員フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と組むことになった。

 まだまだひよっこだというのに責任者の待遇、しかもコネで入社したウィルに対して、フランクの風当たりは終始強い。だがウィルの苛立ちは、そんなフランクの態度ばかりに起因するものではなかった。折しもこの日、行われた審問は、ウィルにとって酷な裁定を下していたのである。

 手続の不備や貨車の過剰連結、細かなミスを繰り返しては鋭くやり込められ、いつしか険悪な雰囲気になっていたふたりのもとに、列車指令室のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)から、路線より退避するよう指示が届いた。ウィルたちが出発したミンゴ操車場とちょうど反対側にあるフラー操車場で、人為的ミスにより貨物列車777号が無人のまま路線を進行しているのだという。

 通常であれば、幾つかの安全機構により、無人で発進したところで一定の距離を走れば自然に止まるはずだったが、幾つもの怠慢とミスが重なった結果、777号は惰行運転することなく、力行に入っていた――実に時速100kmを超える速度で走り続けているのである。

 777号が牽引する貨車は39両、全長にして800mにも及ぶ。しかもその数両は、極めて毒性の高い溶剤を大量に積んでいた。機関車を運行するディーゼル燃料と共に火が点けば、周辺の街を壊滅させるほどの破壊力を秘めた、いわば“走る巨大ミサイル”と化した777号を止めるために、鉄道会社の運行部は既に幾つかの策を講じていたが、ウィルたちが連絡を受けた時点で、すべて失敗に終わっていた。

 すんでのところで777号をやり過ごし、ほっとひと息ついたウィルをよそに、フランクは勝手に行動を始めていた。貨車を切り離し、機関車をバックで走らせ、777号を追い始めたのである。後ろから接続して、777号を減速させるために――



[感想]

 兄のリドリー・スコットが歴史や戦争をテーマに、大規模かつ壮大なシチュエーションでのアクション描写が長けているのに対し、弟であるトニー・スコットは比較的近い時代を舞台に、限定されたシチュエーションで、サスペンス的な味付けを施したアクション描写に優れている、といった印象がある。兄弟で同じ製作会社を運営しているせいもあるのだろうが、映像のスタイリッシュさと、人物像の完成度、そして仕上がりの安定感を保ちながら、棲み分けも明確に出来ていることに驚かされる。

サブウェイ123 激突』からほぼ1年程度の間隔を置いて発表された本篇は、そんなトニー・スコット監督の個性が見事に明示された作品である。

 専門用語が頻出するので小難しそうに思えるかも知れないが、骨子は非常にシンプルだ。要は、無人で暴走した列車の脅威と、それを止めるための奮闘ぶりをサスペンスフルに描いた作品であるが、制止するための工夫はいずれも普通に思いつくものばかりで、決して派手なひねりはない。

 登場人物は非常に絞り込まれているが、彼らの人物像も至って定石通りだ。デンゼル・ワシントン演じるベテラン鉄道員の境遇はほぼ型通りだし、クリス・パインが扮する新人のほうは若干ひねりはあるが、あくまで応用に過ぎない。それが生み出すドラマの情感は、この類の映画ではもはやお馴染みのものと言っていいだろう。

 こう並べ立てると酷く凡庸な代物のように感じられるかも知れないが、そうではない。むしろ本篇は、敢えて物語の骨格や登場人物の背景をシンプルにすることで、観客がそうした雑音に惑わされることなく、暴走する機関車の迫力と恐怖とを体感できるように仕向けているのだ。

 製作者たちは「777号こそこの作品の主役だ」と表現しているようだが、まさにその通りで、本篇の777号の存在感は圧倒的だ。大量の貨車を繋いだままじわじわと加速し、線路際で待つ少女の前を轟音を蹴立てて走り、閉鎖された踏切に取り残された車を木っ端微塵にしてもその勢いは衰えることを知らない。様々な方法で表現されたその破壊力は、観ながら客席に押さえつけられるような心地がする。

 その恐怖を、列車指令室の女性や鉄道会社の幹部が、情報を付け加えて更に煽りたてる。大量に積まれた化学薬品、機関車の馬力を熟知している指令室の女性と何処か軽視している本社運行部長の温度差などなど、最終的に暴走機関車と直接対峙するふたりが追いつくまでのあいだに、その脅威を観るものにより印象づける。シンプルながら情報の出し入れのタイミングが絶妙なのだ。

 そうして、爆走する機関車の描写のスピード感の表現が素晴らしい。もともとトニー・スコット監督は空撮をふんだんに採り入れ、多くのカットを用いることで作品のスピード感を演出するのが得意だが、そのスタイルが本篇の題材と見事に噛み合っている。まさに、トニー・スコット監督らしさが横溢する面白さが本篇の魅力なのだ。

 決着も予想通りだし、後味はスッキリ、いっそ何の余韻も残さないほどだが、すべて為すべきことを完璧にやり遂げているからこそだ。一点の曇りもない、真性のエンタテインメント大作である。



関連作品:

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サブウェイ123 激突

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