『ロビン・フッド』

『ロビン・フッド』

原題:“Robin Food” / 監督:リドリー・スコット / 原案:ブライアン・ヘルゲランド、イーサン・リーフ、サイラス・ウォリス / 脚本:ブライアン・ヘルゲランド / 製作:ブライアン・グレイザーリドリー・スコットラッセル・クロウ / 製作総指揮:チャールズ・J・D・シュリッセル、マイケル・コスティガン、ジム・ウィテカー、ライアン・カヴァナー / 撮影監督:ジョン・マシソン,BSC / プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス / 編集:ピエトロ・スカリア / 衣装:ジャンティ・イェーツ / 音楽:マルス・ストライテンフェルト / 出演:ラッセル・クロウケイト・ブランシェットマックス・フォン・シドーウィリアム・ハートマーク・ストロングオスカー・アイザックダニー・ヒューストン、アイリーン・アトキンス、マーク・アディマシュー・マクファディンケヴィン・デュランドスコット・グライムス、アラン・ドイル、ダグラス・ホッジ、レア・セドゥー、ロバート・パフ、ジェラルド・マクソーリー、サイモン・マクバーニー / 配給:東宝東和

2010年アメリカ作品 / 上映時間:2時間20分 / 日本語字幕:松浦美奈

2010年12月10日日本公開

公式サイト : http://www.robinhood-movie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2010/12/10)



[粗筋]

 12世紀末、エルサレムへの遠征から帰還するさなか、獅子心王リチャード1世(ダニー・ヒューストン)が矢に倒れた。10年に及ぶ行軍で疲弊しきった十字軍は帰途、各所の城を襲い糧食を得ながら祖国を目指しており、その城攻めのさなかの悲劇であった。

 悲報と王冠とを携えた使者に選ばれたロバート・ロクスリー卿(ダグラス・ホッジ)は、だがその道中、何者かの襲撃を受け、瀕死の重傷を負う。王冠までも奪われそうになったが、そこに偶然居合わせた男たちが、すんでのところで取り戻した。

 男たちのリーダーは、ロビン・ロングストライド(ラッセル・クロウ)、通称“ロビン・フッド”。十字軍に射手として従軍していた男だが、リチャード1世が斃れる直前、歯に衣着せぬ言動が災いして罰を受け、王の死を知るとすぐさま軍を離脱していた、いわば逃走兵であった。今際のきわにあるロクスリー卿から王冠と、父のウォルター・ロクスリー(マックス・フォン・シドー)のもとから勝手に持ちだした剣、そして遺言とを託されたロビンは、危険を承知しつつも、ロクスリー卿を装ってロンドンへと向かう。

 危うい場面もあったが、どうにか王冠を王宮へと届けたロビンと仲間たちは、その場でジョン王(オスカー・アイザック)が誕生したどさくさに脱出した。そしてロビンは、仲間たちを驚かせることを口にする――剣と遺言を、ロクスリー家の領地ノッティンガムに届ける、というのだ。

 約束を違えては、今後悪運に見舞われる、という根拠のない予感に囚われての行動であったが、しかしその決断はロビン・フッドを、予想もしない運命へと導いていく……



[感想]

 リドリー・スコット監督の安定感は尋常ではない。アカデミー賞に輝いた『グラディエーター』以降、ほぼ毎年と言っていいペースで新作を発表しているが、その多くが賞レースに絡み、或いは多額の予算を注ぎ込みながらも破綻のない、高い完成度を示している。

 ただ、そんななかで並べてみると、本篇は若干の物足りなさを禁じ得ない。同じリドリー監督の『キングダム・オブ・ヘブン』のような、歴史スペクタクルでありながら時勢に対するメッセージを感じさせるような奥行きも、壮大な運命の悪戯や極めて深遠な謀略を思わせるものも乏しく、やや重量に欠いている印象なのだ。

 とは言い条、ストーリーの仕上がりは非常に丹念で、説得力は充分に備えている。ロビン・フッドといえば、様々なかたちで語られている架空の英雄だが、本篇は冒頭、機を見るのに敏感で肉体的にも優れた人間だが決して大衆のため、名誉のために、といった大義名分を掲げて動く意志のなかった人物として描かれた彼が、如何にして伝説に名を刻む英雄となっていったのか、その過程を納得のいく形で作りだしている。

 出生の秘密や祖国の危機、というガジェットはいずれもごく有り体なので、凡庸に映る一方、だからこそ決して不自然さはない。むしろ、その出生の秘密には、若干ユニークな部分もあり、定番を押さえつつもそこかしこに工夫が認められる点にも着目したい。本篇の中でロビン・フッドは運命が約束した勇者だが、決して高貴な血筋ではないのである。

 伝説を彩る脇役たちの造形にもそつがない。最後までひたすらに愚かなジョン王、その乳兄弟でありながらフランスと密通しイギリスを弱体化させるべく策を弄するゴドフリー(マーク・ストロング)など明々白々な悪役たちの噛み合わせもさることながら、先王から仕える老練さを示して王の暴走を懸命に制御しようとするマーシャル(ウィリアム・ハート)、そして何よりも、意外な提案をしてロビン・フッドを驚かせ、彼に秘められた過去を告げて英雄への道筋を示すウォルター・ロクスリーなど、それぞれ名優揃いだけに存在感も出色ながら、そのオーラに匹敵するよう人物像がよく練られているのが解る。全体像はシンプル、凡庸とも言えるが、しかしパーツはいずれも重厚だ。英雄の誕生譚は様々あれど、本篇の説得力は並ではない。

 戦闘シーンの重量感も驚異的だ。中世の戦場に本当に身を置いているかのような感覚に陥る冒頭の城攻めに、民衆の動揺と襲撃者の狂気が伝わるノッティンガムの事件、とりわけクライマックス、ドーヴァー海峡での決戦は圧巻の一言に尽きる。騎兵たちのまっただ中の視点で肉弾戦を捉え、時として空中から全体像を鳥瞰するかと思えば、要所要所で海面や水中からの映像も組み込み、多角的に壮絶な戦いの様子を捉えている。乱戦ぶりに、個人の描写は疎かになっているようにも映るが、しかしだからこそその中に主要人物が飛び込む様に血が沸き立ち、ロビン・フッドの活躍に痛快さを味わうことが出来る。弓矢の名手として知られるロビン・フッドを主人公としているわりに見せ場が少ないことにこの段階までは不満を抱く人もあるだろうが、西部劇さながらの、一瞬だが鮮やかな一撃に溜飲を下げるはずだ。

 それでももっとメッセージ性が、伝説の英雄のより鮮やかな活躍が欲しかった、と感じるのは否めないが、水準は大幅にクリアしているし、むしろ“もっと”と念じてしまうこと自体が、完成度の高さを証明している、とも言える。本当に出来の悪い作品であれば、もっと無数のツッコミどころが見いだせるものなのだから。

 映画館で鑑賞する価値のあるスペクタクルを見事に築きあげた、上質の叙事詩である。やはり、こういう壮大な戦闘のあるコスチューム劇こそ、映画館で観るのに相応しい。



関連作品:

ワールド・オブ・ライズ

ブラックホーク・ダウン

キングダム・オブ・ヘブン

グリーン・ゾーン

キック・アス