『刑事ジョン・ブック/目撃者』

『刑事ジョン・ブック/目撃者』

原題:“Witness” / 監督:ピーター・ウィアー / 原案:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス、パメラ・ウォレス / 脚本:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス / 製作:エドワード・S・フェルドマン / 撮影監督:ジョン・シール / プロダクション・デザイナー:スタン・ジョリー / 編集:トム・ノーブル / キャスティング:ダイアン・クリッテンデン / 音楽:モーリス・ジャール / 出演:ハリソン・フォード、ケリー・マクギリス、ルーカス・ハースダニー・グローヴァー、ジョセフ・ソマー、アレクサンダー・ゴドノフ、ジャン・ルーブス、パティ・ルポーンヴィゴ・モーテンセン / 配給:Par=UIP / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1985年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1985年6月22日日本公開

2008年6月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/12/02)



[粗筋]

 駅のトイレで、私服警官が殺害された。ちょうど事件当時、個室にいたアーミッシュの少年・サミュエル(ルーカス・ハース)が一部始終を目撃したと証言しており、担当の刑事ジョン・ブックは彼とその母親レイチェル(ケリー・マクギリス)を保護する。

 犯人の一人が黒人であった、というサミュエルに、ジョンは面通しや写真資料を見せて容疑者の絞り込みを試みたが、サミュエルが指さしたのはそのいずれでもなく、警察署内に飾られた、ある新聞記事に映る警官であった。

 サミュエルが示したのは、麻薬捜査課のマクフィー(ダニー・グローヴァー)だった。数年前、薬物の倉庫を検挙し、原料を大量に押収したことで表彰されたが、現在警察の倉庫に押収物の記録はない。横流しして荒稼ぎをした可能性があり、警官はその関係で殺害されたと考えられた。

 ジョンはシェーファー本部長(ジョセフ・ソマー)の自宅を訪ねて報告するが、直後、マクフィーの襲撃を受ける。腹部に銃弾を浴びながらも辛うじて退けたジョンは、シェーファーこそ黒幕であったことを悟ると、急いでサミュエル親子を保護し、車でアーミッシュの集落を目指した。

 親子を自宅に送り届けたあと、そのまま立ち去り、対策を講じるつもりだったが、直後にジョンは負傷のショックで昏倒してしまう。レイチェルは義父のイーライ(ジャン・ルーブス)に助けを求め、ジョンを匿う意を固めた――



[感想]

 アーミッシュとは、キリスト教の教えに則り、アメリカ移民当時の生活を保持し続ける人々のことである。映画の中で描かれているように、その生活様式自体を観光資源にしているぐらいアメリカでは知られた集団であったと見られるが、日本人は本篇が公開された当時に初めて広く知られるようになった。それ故に、アーミッシュと本篇とをセットで記憶している人もあるのではなかろうか――アーミッシュのあいだでは決して好意的に捉えられた作品ではないようだが。

 題材がいわば究極の“スローライフ”(この表現も最近は聞かなくなったが)を実践する人々の生活様式であるだけに、序盤の構造はなかなか展開の早いサスペンスの趣を示しているが、いざアーミッシュの村落での隠遁生活が始まると、途端に話運びが緩やかになり、どうもサスペンスという印象を受けない。いつ追っ手が迫ってくるか、という緊張感は底に漂っているが、『インディジョーンズ』シリーズや『スターウォーズ』などアクションや冒険色の濃い作品に出演しているハリソン・フォードが主演している、というイメージからするとどうも生温い。

 とはいえ、アーミッシュの暮らしぶりを淡々と描いているパートは、殺人事件を軸としたサスペンス、という部分を除いて鑑賞しても興味深い。基本的には産業革命以前の生活を踏襲しているだけなので、歴史ドラマなどで見たような光景が続くのだが、そこにアメリカの一般的な、アーミッシュの人々にとっては野蛮な習慣に慣れ親しんだ男が混ざることで、違和感とおかしみが滲む。

 実際のアーミッシュからするとあり得ないことらしいが、ジョンとレイチェルのあいだに生まれる仄かなロマンスが、結果として他のアーミッシュたちとのあいだに終始距離感と緊張感とを齎しているのも興味深い趣向だ。「テレビで観た」程度の認識しかなかった乳搾りを手伝い、これは経験のあった大工仕事(演じているハリソン・フォードは本当に経験者らしい)で活躍する彼に、アーミッシュの人々は心を開いているかに見えるが、その一方でレイチェルに対しては快くない噂が流れ、このままジョンと関係を深めれば疎外される、とまで言われている。非現実的な事象ではあっても、こういう形でアーミッシュの価値観を描く手管はなかなかに細やかで巧みだ。

 だが実のところ本篇は、決してアーミッシュの生態を描くことに焦点を合わせているわけではない、と感じた。

 かといって、サスペンスが主体でもない。クライマックス、ジョンのある行動がきっかけで事態は緊迫の展開を迎える。サスペンスを期待していた人にとっては待ち望んだくだり――なのだが、しかし決して尺は長くなく、見せ場は多くない。追っ手のひとりを撃退する場面は数あるサスペンス映画と並べてもあまりに特異、そして追っ手があまりに惨めでかなり印象的だが、ジリジリする緊張やインパクトを求めていた向きの欲求を満たすには不充分というほかない。恐らく製作者もそこは百も承知の上だろう。

 ポイントは、原題にもある“Witness”、つまり“目撃者”なのだ。題名に掲げられているわりには、事件の目撃者であるサミュエル少年が、アーミッシュの集落に舞台を移して以降、ジョンと絡む場面も乏しく記憶に残らないことを訝っていたのだが、本篇でいう“目撃者”は実は彼に限ったものではない――結末にも絡むことなので詳述は避けるが、本篇の鍵は終始、“誰かが目撃している”というシチュエーションにあるのである。

 たとえば、訪れる観光客の好奇の眼差しに晒され続けるアーミッシュの人々。たとえば、強く惹かれ合いながらも集落の他の人々、ひいては神の視線を気にして、決して触れ合うことの出来ないジョンとレイチェル。後者など、クライマックス手前で意外な描写があるが、あそこだけ映像のトーンが違うことから推測するに、“観ているのは映画の観客だけ”ということを暗示しているように思われる。アーミッシュの集落においては間違いなく衝撃的なひと幕であるにも拘わらず、以降この件について誰ひとり触れていないのがその証拠だ。

 何よりも、クライマックスでこの“目撃者”というものが切り札となる。ジョンとアーミッシュの人々との長閑な交流を描き続けた意味は、あのひと幕にこそあるのだろう。武器を取ることはおろか自らの拳で争うことも躊躇う人々の集落において、あの瞬間、“視線”が最大の武器に変貌する。そのことを感じ取った瞬間に、本篇のカタルシスは訪れる。

 まるでアーミッシュの人々の生活のように地味で長閑、という印象が色濃く、サスペンスとしては物足りない、という感想を観た直後は抱いたが、いやいやどうして、さすがに『午前十時の映画祭』の厳選された50本のうちに加えられるだけのことはある、非常に吟味し甲斐のある秀作であった。



 最後にひとつ、余談。

 キャスト一覧に記したように、本篇にはヴィゴ・モーテンセンが出演している。まだ駆け出しなので当然端役なのだが、その位置づけが面白い。

 目撃者であるサミュエルの母・レイチェルの義理の父イーライが息子のように可愛がっているダニエルという男性の弟、なのである。

 ……面白い、というより説明がめんどくさい。なまじ説明できない関係ではないので書いてしまいたくなるが、ヒロインの知り合いでお話には直接絡みません、で済ませられる程度の人物である。万一、ファンだけど出ているのは知らなかった、という方がいるなら、期待せずにご覧いただきたい。油断していると気づかないかも知れません。



関連作品:

小さな命が呼ぶとき

X-MEN:ファイナル ディシジョン

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