『明日に向って撃て!』

『明日に向って撃て!』

原題:“Butch Cassidy and the Sundance Kid” / 監督:ジョージ・ロイ・ヒル / 脚本:ウィリアム・ゴールドマン / 製作:ジョン・フォアマン / 製作総指揮:ポール・モナシュ / 撮影監督:コンラッド・L・ホール / 美術:フィリップ・M・ジェフリーズ、ジャック・マーティン・スミス / 特撮:L・B・アボット / 編集:ジョン・C・ハワード、リチャード・C・メイヤー / 衣装:エディス・ヘッド / 作詞:ハル・デヴィッド / 音楽:バート・バカラック / 出演:ポール・ニューマンロバート・レッドフォードキャサリン・ロス、ストローザー・マーティン、クロリス・リーチマン、チャールズ・ディアコップ、ジェフ・コーリィ、サム・エリオット、ヘンリー・ジョーンズ / 配給:20世紀フォックス

1969年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:保田道子

1970年2月9日日本公開

2009年7月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/11/08)



[粗筋]

 19世紀末、“壁の穴強盗団”と呼ばれる集団を率い、各地の銀行を荒らし回っていたふたりの無法者がいた。知恵者であり、一同のリーダーであるブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)と、早撃ちに長けたサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)。

 大金を稼いでは一気に使い果たし、自由気ままに暮らしていたふたりだったが、世間は少しずつ、彼らにとって暮らしづらいものに変容していた。彼らが荒らし回ったばかりに、銀行は警備を厳重にし、金品を運ぶ列車を襲撃しても収入は乏しい。そのうえ、彼らに金品を強奪された会社が、採算を度外視して各地から凄腕の保安官や探偵を呼び寄せ、ブッチとサンダンスを殺すまで追い続けるように命じたのだ。

 約2日間にわたる追撃から辛うじて逃れたものの、所在を嗅ぎつけられればまた同じことの繰り返しになる。議論の末、ふたりは新天地に活路を求めることにした。サンダンスの恋人エッタ・プレイス(キャサリン・ロス)も伴い、ふたりが目指したのは南米、ボリビア

 だがそこは、ブッチが喧伝し期待していたような、楽園では決してなかった……



[感想]

 間違いなく、きちんと通して観たのは初めての経験だ。だが不思議なことに、そういう印象は受けなかった。

 映画道楽に嵌るようになっておよそ10年が経過したが、そこで巡り逢った、自分が好きな類の要素やムードの萌芽が、この作品の随所に見いだせるのだ。様々な要素をひっくり返したうえで、クライマックスの舞台を似たようなデザインにした『誘拐犯』という作品は、未だ私の最も好きなガン・アクション映画のひとつであるし、ロバート・レッドフォードの風貌や喋り方は恐らく初期のブラッド・ピットの演技の原型になっている。そして、犯罪を扱いながらも脳天気でユーモアに彩られ、それでいて哀愁をまとった個性的な語り口は、近年のイギリス産クライム・コメディへと繋がるものを感じさせる。

 西部劇を意識して鑑賞するようになったのも比較的最近のことだが、それでも本篇の特異な作りは理解できる。荒野や馬を駆っての移動、早撃ちなど定番の要素は連ねながら、血腥さに乏しく、主人公ふたりの言動も一般の西部劇と較べて妙に醒めている、というか脳天気だ。映画を離れてスタンダードと化した挿入歌『雨に濡れても』の流れる場面や、アメリカを離れる意を固めた3人がニューヨークで戯れ、南米行きの船の中でくつろぐくだりなど、西部劇とは思えないのどかさ、優雅さがある。

 どちらかと言えば力によるところの大きかった西部劇というジャンル映画の中において、ブッチ・キャシディサンダンス・キッドの佇まいはあまりに異色だ。知恵で生き抜いてきた風を装うブッチには、こういう物語の登場人物としては考えられない種類の“後ろ暗さ”があり、彼に較べるとよほど西部劇の主人公らしいサンダンスにも意外な弱点があり、また妙に機転の利かない部分がある。洒脱で、どこか現実を軽んじているような応酬を繰り返しながら、不器用に苦境を潜り抜け、間の抜けた失敗を連発して、いつしか退っ引きならない状況へと追い込まれていく姿には言いようのない哀愁と同時に滑稽さが滲む。こんな不思議な雰囲気で物語を牽引するコンビは、恐らく本篇以前もそうだろうが、このあとにもほとんど例は思い浮かばない。このふたりの人物像こそが本篇の魅力のすべてであり、西部劇に限った話ではなく、映画史全体を俯瞰してみても稀有な存在と言えるのではないか。本篇で一躍スターとなったロバート・レッドフォードが、自らが主催する映画祭に“サンダンス”の名前を冠するほど役柄に愛着を持ったのも当然と思えるほど、素晴らしい光芒を放っている。

 飄々と描いているように見えて、心理的な伏線を巧みに張り巡らせた挙句辿り着く絶望的なクライマックスも、だが悲愴感はない。ストップモーションで迎える終幕は、音声で末路を暗示しているとはいえ僅かな希望が残っているようにも見え、何よりも直前のやり取りからは、それまでと変わることのない日々が繰り返すような趣さえあり、エンドロールと共に流れる空気は奇妙な清々しささえある。

 確かな西部劇の匂いを放ちながらも、まったく異なるムードをまとい、唯一無二と言っても過言でない余韻を残す作品である。この作品の影響下にあると考えられる映画は幾つか思い浮かぶが、こんな領域に到達したものは恐らくひとつとしてない。

 ……なんだか、今まで巡り逢えなかった初恋の人にようやく辿り着けた気分だった。



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