『スティング』

『スティング』 スティング 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]

原題:“The Sting” / 監督:ジョージ・ロイ・ヒル / 脚本:デヴィッド・S・ウォード / 製作:トニー・ビル、マイケル・S・フィリップス、ジュリア・フィリップス / 製作総指揮:リチャード・D・ザナック / 撮影監督:ロバート・サーティース / 美術:ヘンリー・バムステッド / 特殊効果:アルバート・ホイットロック / 舞台装置:ジェームズ・ペイン / 編集:ウィリアム・レイノルズ / 衣装:イーディス・ヘッド / 音楽:マーヴィン・ハムリッシュ / 出演:ロバート・レッドフォードポール・ニューマンロバート・ショウチャールズ・ダーニング、アイリーン・ブレナン、レイ・ウォルストン、サリー・カークランド、チャールズ・ディアコップ、ダナ・エルカー、ディミトラ・アーリス、ロバート・アール・ジョーンズ、エイヴォン・ロング、ハロルド・グールド、ジョン・ヘファーナン、ジャック・キーホー、ジェームズ・スローヤン、アーチ・ジョンソン / 配給:CIC / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

1973年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1974年6月15日日本公開

2009年7月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/11/04)



[粗筋]

 僥倖のあとに、悪夢は訪れた。詐欺師のジョニー・フッカー(ロバート・レッドフォード)が簡単な仕事のつもりで仕掛けた相手が懐に隠し持っていたのは、何と11,000ドルの大金。

 欣喜雀躍したフッカーだったが、その直後、調子に乗って分け前をすべてルーレットに投じてしまい、一瞬で失ってしまった。更に、一緒に仕事をしていたルーサー・コールマン(ロバート・アール・ジョーンズ)はこの仕事を最後に堅気になる、と言う。

 だが最悪なのは、フッカーたちが掠め取ったのが、暗黒街の大物ドイル・ロネガン(ロバート・ショウ)の経営する店の売上だったことだ。そのことを嗅ぎつけた地元の刑事スナイダー(チャールズ・ダーリング)にたかられ事態を知ったフッカーが駆けつけたときには、ルーサーはロネガンの手下に殺害されていた。

 自らも狙われているという危機感以上に、ルーサーを殺されたことへの憤りの勝ったフッカーは、ロネガンに復讐することを誓う。そのためにフッカーは、ルーサーが殺される直前、「詐欺師を続けるつもりなら、彼に学べ」と言われたヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン)というヴェテランを訪ねた。どうしても、ロネガンを大掛かりなペテンにかけたい――FBIから追われているゴンドーフははじめこそ協力を渋ったが、最終的には「復讐を求める奴は、満足することを知らない」とうそぶきながらもフッカーと組むことを決める。

 さっそく、ゴンドーフは仲間を呼び寄せ、共に計画を練り始めた。極めて用心深いロネガンだったが、ひとつだけ付け入る隙があった。列車での移動中のポーカーである。イカサマを仕掛け手堅く勝つよう仕向けているが、フッカーたちはそこを中心に、大掛かりな罠を築き始めた。

 売上をくすねたルーサーの仲間も血祭りに上げようと目論むロネガンの部下と、脅した際に偽金を掴まされ逆上するスナイダー刑事に狙われ、危ない橋を渡りながら、フッカーたちは着実に網を張り巡らせていく……



[感想]

 最近はあまり聞かなくなったが、フィクションの世界には“コン・ゲーム”というジャンルがある。詐欺による金品の搾取や、そこに至るまでの騙し合い、腹の探り合いを描くものだ。近年この名前をめっきり聞かなくなったのは、こうした壮大な仕掛けを誰もが満足する形で描くことの難しさもあるのだろうが、本篇のような間然することの出来ない傑作があったせいも大きいのだろう。

 演出は古めかしいが、しかしこれは恐らく発表当時を基準にしても幾分古めかしさを装って製作したものではなかろうか。時代は1930年代に設定されており、その空気に表現を合わせたような節が見受けられる。

 そもそも本篇での詐術は現代では通用しない、まさにこの頃でなければ成立しないアイディアがほとんどなのだ。今のような電子取引などない時代だからこそ成立する冒頭のトラブルが悲劇を引き起こし、そうして始まった壮大な罠の取っかかりは、列車の中で催される高レートのポーカー賭博という、これまた交通機能の発達した昨今では少々考えにくいシチュエーションを設定している。特に後半での仕掛けなど、現代ではほぼ実行不可能だろう(わりと最近の作品で似たような細工を用いたものがあったが、あれは舞台設定が特異だったからこそ成立している)。仕掛けを思いついたのが先か、時代設定が先だったのかは不明だが、それらが隙もなくぴったりと嵌っていることが、本篇の大きな魅力となっている。

 そうは言っても、ある程度こうしたトリックやどんでん返しのあるフィクションに慣れ親しんでいる人間ならば、察しのつく仕掛けが大半なのだが、本篇の秀逸なところは、その埋め込み方や演出に繊細な工夫を施していることだ。例えば、計画序盤のポーカーの場面、多くの人はゴンドーフがロネガンのイカサマに対抗策を用意しているだろう、と察しはつくが、それでも巧みに不安な描写を盛り込み、ふたりの応酬に緊迫感を添えて、ギリギリまで観る者を牽引する。

 そして、この列車での駆け引きのあと、フッカーがロネガンに接して以降の描写がまさに圧巻だ。当初は彼の視点から鑑賞している、という観客が多いだろうと想定される中で、フッカーはまるで底意のあるような立ち回りを見せ、急に本心が窺い知れなくなる。そんな彼の周囲を、偽金を掴まされ逆恨みするスナイダーや、ロネガンがフッカーの顔を知らぬまま差し向けた暗殺者がうろつき、事態はいっそう混迷を極めていく。更に随所で謎めいた表情や描写が挿入され、到達点は明白なはずなのに、果たして無事に着地できるのか、と観ながら最後までハラハラさせられる。最後のどんでん返しにしても、見抜くことは決して不可能ではないが、読み解けたとしても失望するどころか、あまりに鮮やかな“手管”に感服し、脱帽するに違いない。

 仕掛けの発想もさることながら、それをどう活かすかがポイントである、というのを痛感させられる、実に堂に入った演出、表現こそが、本篇をして未だ“コン・ゲーム映画の金字塔”として君臨させているのだろう。謎解きや大掛かりなトリックのある作品は、いったん終わりまで観てしまうとあとは面白くない、という意見の人も多いようだが、そういう方にこそ本篇は2度、3度と観ることをお薦めしたい。罠や仕掛けを承知の上で鑑賞すると、如何に丹念に台詞が練られていたのか、どれほど巧妙に観客の足許を狙っていたのか、に気づかされるはずだ。

 観終わってみると、各パートの冒頭に掲げられるイラストにさえ、何らかの狙いがあったように感じられ、何度観直しても愉しみの尽きそうもない傑作である。時が経つにつれ演出の古めかしさは強く意識されるようになるだろうが、きっとそれでも、人々に「面白い」と言わせ続ける作品になるだろう――それだけの力強さを感じる。



関連作品:

スパイ・ゲーム

ラスト・キャッスル

二重誘拐

大いなる陰謀

オーシャンズ11

オーシャンズ12

オーシャンズ13

マッチスティック・メン