『劇場版 怪談レストラン』

『劇場版 怪談レストラン』

原作:松谷みよ子(童心社・刊) / 監督:落合正幸 / 脚本:米村正二 / 企画:古賀誠一、森下孝三 / 撮影:五木田智 / 照明:花岡正光 / 美術:山崎輝 / 装飾:高橋俊秋 / 編集:深沢佳文 / アニメーションパート演出:佐藤宏幸 / キャラクターデザイン&作画監督:高橋晃 / アニメーション美術監督:倉橋隆 / 音楽:coba / 主題歌:超新星『愛言葉』 / 出演:工藤綾乃森崎ウィン剛力彩芽冨田佳輔さくらまや片桐はいり村松利史田中卓志山根良顕、長友光弘、西村雅彦 / 声の出演:白石涼子優希比呂浅野真澄土井美加大谷育江西村ちなみ阪口大助麻生美代子平田広明 / 製作プロダクション:オスカープロダクション、東映アニメーション / 配給:東映

2010年日本作品 / 上映時間:1時間40分

2010年8月21日日本公開

公式サイト : http://www.kaidan-restaurant-movie.com/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2010/09/09)



[粗筋]

前菜:死神メール

 山桜町では最近、“死神メール”という都市伝説が広まっている。差出人不明、数字だけの文面のメールが届き、4通目が届いたとき、その人は死神に連れて行かれるという。山桜小学校に通う少女・佐久間レイコ(浅野真澄)のもとにもそれが相次いで届き、同級生の大空アコ(白石涼子)と甲本ショウ(優希比呂)のふたりは彼女を助けるために一緒に知恵を絞る……

メインディッシュ:怪談レストラン……ができたわけ

 山桜中学校に通う少年・皆神カオル(森崎ウィン)のもとにも、“死神メール”が届いた。心配するクラス委員・高瀬ジュン(剛力彩芽)にも構わず、まともにメールに取り合おうとしないカオルの前に、“怪奇探偵”を名乗る少女・天野ハル(工藤綾乃)が現れる。彼女は“死神メール”の呪縛から抜け出す方法を思いつくが、カオルは何故か真逆の内容でメールを返信してしまった。すると間もなく、3人の前に本当に死神が出没する。

 辛うじて逃げ出すことに成功した3人は手懸かりを求め、“死神メール”に添付されていた写真に映っている場所――“怪談レストラン”を目指した。道中、ハルは実は自分の妹・マイ(さくらまや)もまた“死神メール”が原因で失踪したらしいことを打ち明け、カオルもまた、失踪した友人・黒川リュウ(冨田佳輔)がいなくなる直前、様子がおかしかったことを告げる。

 道に迷った挙句、訪れた経験があるジュンが「こんなところになかった」という場所に忽然と現れた“怪談レストラン”に、ハルたちは意を決して踏み込んだ。出迎えたのは、闇のギャルソン(西村雅彦)。彼は、「この部屋に謎を解く鍵がある」と、3人をひとつの扉の向こうへと導いた……



[感想]

 松谷みよ子監修による人気の児童向け怪談シリーズの実写映画である――が、その知識だけで観に行くときっと違和感を覚えるだろう。

 本篇が公開されるより前に、2009年の秋から翌年春頃にかけて、アニメ版がテレビで放送されている。本篇はそのアニメ版と同じ世界観を志向して製作されており、だから導入と“前菜”と銘打たれたパートがアニメで作られているのだ。ほぼ間を置かずに発表されているだけに、本来のターゲットである低年齢層は同じものとして観に来る可能性が高いのだから、この配慮は正解であろう。

 ただ、残念ながら、そういう気遣い以外の部分はほとんど失敗している。あまり褒めるところがない、というのが正直なところだ。

 全般に不自然な描写、説明不足が多すぎる。どうしてわざわざ天野ハルを山桜中学校ではない何処かの生徒にしてしまったのか、彼女の突然の登場について何故あまり周囲は詮索しないのか。“死神”の行動の原則も不明だし、肝心の“怪談レストラン”に踏み込んでからの展開もあまり筋道が通っていない。

 細かく唐突に登場する幽霊、妖怪の類や、お笑いタレントを中心としたその配役については枯れ木の賑わいと許容も出来るが、いちばん大切な謎解き、ストーリーの骨格を支えるための伏線がほとんど盛り込まれていない、或いはやたらに解りにくいのが特に問題だ。“死神”登場の背景についてはいちおうそれなりにアイディアもテーマもあるように見受けられるが、それが明かされたときの衝撃や感動を醸成するための工夫がないので、まったく効果を上げていない。そもそもあまりにさらっと提示されるので、驚きにさえ繋がっていない。

 ほとんど演技初体験の若手ばかり起用しているために演技にも説得力がない――とは言い条、この作品については俳優を責めるのは酷だろう。ストーリー自体に骨がないのだから、いくら熱演したところで説得力などさほど持ち得ない。この物語の最後に“友情は強い”なんて言われても、「お前ら今日の放課後逢ったばっかりで、全員揃ったのはついさっきじゃないか!」と画面に突っ込みたくなるだけだ。

 私の印象からすると本篇は、たとえば作中に登場するお化け・妖怪の類にどういう場面を与えるか、登場人物にどういう行動をさせるか、という大まかな要素を先に連ねて、ろくに取捨選択もせず、それを1本の話に詰めこもうとしたように思われる。アニメ作品や原作本のイラストレーションと一致させているお化けたちはある程度出さねばならないにしても、映画独自の登場人物や事件の推移についてはもっとスリム化するなり、物語を補強するためのエピソードを予め組み込むなりすべきではなかったか。特に、主人公である天野ハルの“怪奇探偵”という設定や、彼女が持っている風変わりなアイテムに多少なりとも説得力を添えるために、本筋以外にもうひとつエピソードを用意するべきだっただろう。

 監督の落合正幸は『世にも奇妙な物語』やハリウッドでの『シャッター』など、ホラー作品の経験が多いだけに、幾つか「これは子供にはきついかも」と思える、目の醒めるような描写も散見する。また、アニメパートについては、テレビ版のように色彩のはっきりとした背景を用いず、敢えて色鉛筆の線を残すような幻想的な描き方をすることで、本筋である実写パートのプロローグ、という雰囲気をうまく醸しだしている。そうした美点もあるのだが、上に挙げた以外にも、CGの合成が随所で雑であったり、間の取り方が奏功していなかったりと、欠点が多いためにほとんど帳消しにされてしまっている。

 それでも間違いなくアニメ版への敬意は感じる(だからこそ、アコやショウといったアニメ版のキャラクターを実写で登場させなかったのだろう)ので、アニメ版に親しんでいる人間ならいちおうは楽しめるだろう。しかし、アニメ版をまったく知らない、単純に“怪談”という単語に興味を惹かれただけの人は、止めておいた方が無難だ、と申し上げておく。



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