『ソフトボーイ』

『ソフトボーイ』

監督:豊島圭介 / 脚本:林民夫 / プロデューサー:筒井竜平、廣瀬雄、遠藤日登思 / 撮影監督:藤石修 / 美術監督:清水剛 / VFXスーパーヴァイザー:西村了 / 照明:磯野雅宏 / 装飾:松下利秀 / 編集:日下部元孝 / 衣裳:澤いずみ / キャスティング:山口正志 / 録音:松本昇和 / 音楽:Yoshizumi / 出演:永山絢斗賀来賢人、波瑠、大倉孝二加治将樹中村織央斎藤嘉樹西洋亮加藤諒松島庄汰、タイラー、平山真有、鎌田奈津美いしのようこ広澤草白石みき綾田俊樹堀部圭亮上野由岐子はなわ山口紗弥加 / 制作プロダクション:ハートビート・ピクチャーズ / 配給:東映

2010年日本作品 / 上映時間:1時間53分

2010年6月19日日本公開

公式サイト : http://www.softboy.jp/

丸の内TOEIにて初見(2010/06/25)



[粗筋]

 佐賀県の牛津学園高等学校に通うオニツカ(永山絢斗)にとって、親友ノグチ(賀来賢人)はいつもトラブルを持ち込む厄介者だった。その話を初めて聞いたときもオニツカは、ノグチが行き当たりばったりで口にしていることはすぐに理解出来た。

ソフトボール部をやろうぜ!」

 自分はちっぽけな人間でいたくない、ヒーローになりたい、と切望するノグチは、男子のソフトボール人口が極端に少なく、佐賀県の高校にはクラブがひとつも存在していないことを発見した。つまり、部を結成すれば、自動的に全国大会に出場出来る! ヒーローになれる!

 既にやる気満々のノグチに引きずられて、ソフトボール部結成の人捜しを手伝わされるオニツカだったが、話はそう簡単に進まなかった。それというのも、牛津学園高校は家庭科の専門学校という特徴のために、男子生徒の数が極端に少ない。片っ端から声をかけても、気づけばあっさりひとまわりしているほどだった。

 だが、勢いづいているときのノグチには異様な運が傾いてくる。あるときは脅し、あるときは宥め賺し、折しも春、入学したての後輩も半ば騙すように組み込み、気づけば試合出場に必要な9人を揃えてしまう――未だやる気のないオニツカも含めて。

 元高校球児である澤山先生(大倉孝二)を無理矢理顧問に仕立て、部としての体裁は整った。さあ全国大会だ、と意気込んだはいいが、しかしそうは問屋が卸さない。全国大会出場のためには、きちんと大きな壁が立ち塞がっていた……



[感想]

 この作品、監督の名前を見て「え?」と首を傾げた人は、恐らく私と趣味が合う。本篇を手懸けた豊島圭介監督は、実話怪談シリーズの映像化『怪談新耳袋』のテレビ版・劇場版ともに関わり、盟友である清水崇監督と共に『幽霊VS宇宙人』というカルト映画を競作するなど、かなり特徴的なキャリアを築いている人物だ。或いは、『怪談新耳袋』原作に登場する心霊スポットに、ギンティ小林らとともに特攻していくシリーズ『怪談新耳袋殴り込み!』シリーズでその顔を記憶されている方もあるかも知れない。

 そういうキャリアからすると、こういう『ウォーターボーイズ』の系譜と位置づけられる、若者たちの無謀で爽やかな挑戦を描いた青春もの、というのはかなりイメージが食い違っているように思える。逆に上記のような来歴を見ると、ストレートなものを期待している人だと腰が引けてしまうかも知れない。

 だが、心配はご無用、と申し上げておく。手触りは非常に快い、良質の青春映画に仕上がっている。

 そもそも、怪談を題材とした映画は、その場その場で驚かすのではなく、恐怖をじわじわと醸成する技術が求められるわけで、それを敷衍すると、友人の言動に対する苛立ちや、級友に抱く仄かな恋心、そしてそれが思うように結実しない切なさを描く技術にも繋がっていく。冒頭と結末、一部にナレーションを用いてはいるが、ほぼ全篇で具体的な説明はないものの、オニツカという少年の煩悶が実にストレートに伝わってくる。

 しかし、監督が本篇の依頼を受けた理由が「脚本が面白かったから」と言っている通り、本篇はまず物語の完成度が非常に高い。際立ったキャラクターと、やたらにテンションが高く大袈裟なストーリー展開で、クライマックスに怒濤の如く感動を呼び起こす類の作品かと最初は思わせるが、話が進むごとに、人物の性格や配置が恐ろしく緻密に行われていることに気づくはずだ。主人公オニツカは基本的にノグチに対する複雑な感情で動かされているが、ノグチの言動の奔放さはそのままドラマの柱として機能する。青春ものドラマではお馴染みの、細かに胸を震わせるようなエピソードも、複数の人間関係を駆使してひねりを加えている。

 練習最初の段階で本物の女子ソフトボール選手上野由岐子を何故か看護師の制服で登場させたり、いわゆるGメン歩きのまま職員室に突進して入口でつかえたり、試合の直前に思わせぶりな描写を入れたり、と派手なお遊びも多い一方で、本篇の底に流れる意識はとても現実的だ。そもそも県に一校しか存在しないからあっさり全国大会に出場させてもらえるのか、と言われればそんなはずもなく、まして技術が伴わなければヒーローどころかまともな試合にもならないし、一朝一夕の努力で、もっと多くの努力をしてきたチームに対抗出来るはずがない。そういう現実への真摯な態度が、ユーモアの衣をまとって柔らかに、だが重くのしかかる終盤は、『ウォーターボーイズ』のような、意識して虚構性を強めた作品とは違った手触りがある。

 何よりも象徴的なのは結末だろう。青春ものの定石を大きく裏切っているため、観客の期待如何によっては失望するかも知れないが、実は心理的な伏線が随所に用意されているので、きちんと向かい合って鑑賞すると非常に腑に落ちる。むしろ、安易な結論に否を突きつけ、別の方向からインパクトを齎そうとする志の高さには、胸のすくような想いさえ抱くはずだ。

 近年増えた青春映画の定石を辿っているように見せかけて、極めて緻密な構成と正統派の演出で魅せる、快いエンタテインメント。よく練られた作品を欲する向きには、監督の先行作や、有り体の青春映画めいたイメージに惑わされることなく、いちどご覧になっていただきたい。

 ――といったプッシュをもっと早めにして、少しでも集客に貢献出来れば、と思っていたのだが、多忙のために保留してしまったのが悔やまれてならない。豊島監督に“心霊サディスト”のイメージしかない諸兄にも、本篇が映像ソフト化された暁には是非とも観ていただきたい。監督に今後も『怪談新耳袋殴り込み!』のような一部マニアを喜ばせる作品を撮り続けていただくためにも。



関連作品:

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