『ウルフマン』

『ウルフマン』

原題:“The Wolfman” / 監督:ジョー・ジョンストン / 脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー、デヴィッド・セルフ / オリジナル脚本:カート・シオドマク / 製作:ベニチオ・デル・トロ、シーン・ダニエル、スコット・ストゥーバー、リック・ユーン / 製作総指揮:ビル・カラーロ、ライアン・カヴァノー、ジョン・モネ / 撮影監督:シェリー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:リック・ハインリッヒ / 編集:ウォルター・ムーチ、デニス・ヴィークラー / 衣装:ミレーナ・カノネロ / 特殊メイク効果:リック・ベイカー / キャスティング:プリシラ・ジョン / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:ベニチオ・デル・トロアンソニー・ホプキンスエミリー・ブラントヒューゴ・ウィーヴィング、サイモン・メレルズ / ストゥーバー・ピクチャーズ製作 / 配給:東宝東和

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:林完治 / R-15+

2010年4月23日日本公開

公式サイト : http://wolfman-movie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2010/04/23)



[粗筋]

 1891年イギリス。アメリカで舞台俳優として活躍し、先日までロンドンの舞台に立っていたローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ)は、兄・ベン(サイモン・メレルズ)の婚約者を名乗る女性からの手紙を受け取って、25年振りに郷里であるブラックムーアに馬車を向けた。

 兄の婚約者グエン(エミリー・ブラント)の手紙では、ベンが行方不明になったことしか記されていなかったが、生家タルボット城で久方ぶりの再会を果たした父ジョン・タルボット卿(アンソニー・ホプキンス)は、つい今朝方、ベンが遺体となって発見されたと告げる。屍体安置所に赴いたローレンスが見たのは、あまりにも無惨に凌辱された兄の姿であった。

 ベンの遺品には、近隣に居ついたジプシーから購入したと見られるメダルが紛れていた。死の直前にジプシーの居留地に立ち寄った、と推測したローレンスは、事情を探るためにある晩、奇妙な熱気に満ちたその場所を訪ねる。

 折しもその晩は、満月。ブラックムーアには、満月の夜に謎の殺人鬼が徘徊する、という伝説が残っている。そしてまさにその夜、ジプシーの居留地を、ひとつの影が襲撃し、一帯を阿鼻叫喚の地獄図絵に変えた。

 人々が逃げ惑う中、復讐心を胸に宿したローレンスは影に追いすがったが、首筋に噛みつかれ、瀕死の重傷を負ってしまう。生死の境を彷徨ったのち、無事に恢復したかに見えたローレンスであったが――しかしこのとき彼は既に、死にも勝る忌まわしい呪いを、その身に受けていた……



[感想]

 古今東西、いわゆる“狼男”をモチーフにしたフィクションは枚挙にいとまがない。最近の映画だけでも、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』や『アンダーワールド:ビギンズ』がある。ただ、これを怪物として、謎の多い存在性や、その強大な力がもたらす恐怖に焦点を当てて描く作品というのは案外少ないように思う。まさにそれが基本のスタイルなればこそ、意識しようとしまいと避けてしまう傾向にあるのかも知れない。

 本篇はそういう現代にあって、ある意味愚直なほど正統的なスタイルで“狼男”を扱っている。その一点のみからでもまず珍重されて然るべき作品と言えよう。

 それ故に、当然と言うべきか、本篇は道具立ても物語も古めかしい。時代背景は、機械文明が定着しつつある一方で“切り裂きジャック”という殺人鬼が現れ、多くの胡乱な怪物、怪人の存在が語られていたヴィクトリア朝期のイギリス。舞台は古城と、樹々の鬱蒼と生い茂る森。そして物語は、闇に徘徊する影に怯え、自らを蝕む狂気におののき、衝撃的な真実に驚愕させられる、という具合に展開する。まさにオーソドックスな“怪奇映画”の組み立てである。

 私はこういう選択をしたことを評価するが、一種懐古主義的な発想として拒絶する考え方もあるだろう。それは否定しないが、少なくとも本篇が、古典的な怪奇映画の再現を試みつつ、そこに現代の高い技術と表現力とを徹底的に盛り込もうとした意欲と達成度は認めるべきだと思う。

 かつてはモノクロであったり、書き割りによって作られていた映像は、ロケとCGを併用することで、虚構性を色濃くしながらも、より強烈なムードをたたえたものになった。同様に、狼男の表現も、当代屈指の特殊メイクアップ・アーティストであるリック・ベイカーによって、往年の狼男像を押さえつつも更にリアルになり、更に変身する過程ではCGを用いて、生々しくもおぞましい変貌の様子を見事に描いている。

 だが、最も特筆すべき点は、俳優陣の芝居の捉え方だろう。この作品における俳優たちの演技は、心なしか舞台上で披露しているような趣がある。序盤では幾分、それこそ“芝居がかっている”ように感じられるが、作品全体が志向する古色蒼然たる雰囲気にはこの重みがそぐわしい。自ら製作にも携わったベニチオ・デル・トロもそうだが、舞台映えのする重厚感を出せる役者が揃った印象があるのも、そうした演技重視の姿勢の顕れだろう。とりわけ、デル・トロと『羊たちの沈黙』におけるレクター博士の演技が未だ鮮烈なアンソニー・ホプキンスとの応酬は、観ていて圧倒されるほどである。

 どうせ現代に新たな“怪奇映画”を創出するなら、もう少し新機軸や意表をつくアイディアが欲しかった、という嫌味は拭えないし、あまりに折り目正しくクラシカルな作りは、恐らくあまり多くの観客の関心を惹かないだろう。そこがどうにももったいないが、翻って、新奇さばかりを狙ったようなエキセントリックな作品が多すぎる、たまには本物が観たい、と感じていた、恐らくは幻想怪奇ものを愛する諸氏にとっては、長年の渇を少しでも癒してくれる清涼剤になるはずだ。



関連作品:

ロード・トゥ・パーディション

007/消されたライセンス

チェ 28歳の革命

チェ 39歳 別れの手紙

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ウェス・クレイヴン's カースド

ドッグ・ソルジャー

アンダーワールド:ビギンズ

ウルヴァリン:X-MEN ZERO