『シャッター アイランド』

『シャッター アイランド』

原題:“Shutter Island” / 原作:デニス・ルヘイン(ハヤカワ文庫HM・刊) / 監督:マーティン・スコセッシ / 脚本:レータ・カログリディス / 製作:ブラッドリー・J・フィッシャー、マイク・メダヴォイ、アーノルド・W・メッサー、マーティン・スコセッシ / 製作総指揮:クリス・ブリガム、レータ・カログリディス、デニス・ルヘイン、ジャンニ・ヌナリ、ルイス・フィリップス / 撮影監督:ロバート・リチャードソン,ASC / プロダクション・デザイナー:ダンテ・フェレッティ / 編集:セルマ・スクーンメイカー,A.C.E. / 衣装:サンディ・バウエル / 視覚効果スーパーヴァイザー:ロブ・レガート / 音楽監修:ロビー・ロバートソン / 出演:レオナルド・ディカプリオマーク・ラファロベン・キングスレーミシェル・ウィリアムズエミリー・モーティマーマックス・フォン・シドーパトリシア・クラークソンジャッキー・アール・ヘイリー、イライアス・コーティーズ、テッド・レヴィンジョン・キャロル・リンチ、クリストファー・デナム / フェニックス・ピクチャーズ製作 / 配給:Paramount Japan

2009年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG12

2010年4月9日日本公開

公式サイト : http://www.s-island.jp/

TOHOシネマズスカラ座にて初見(2010/04/09)



[粗筋]

 1954年、ボストンの沖合に浮かぶ孤島シャッター・アイランドに、テディ・ダニエルズの姿があった。連邦保安官であった彼はこの地で、牢獄からひとりの女が失踪したと聞き、捜査に赴いたのである。

 陸地から遠く、切り立った断崖に囲まれた地の利を活かし、ここシャッターアイランドには心を病んで重犯罪を行った、治療困難な患者ばかりを扱うアッシュクリフ精神病院が設立されていた。

失踪したのは、レイチェル・ソランド(エミリー・モーティマー)という患者である。我が子3人を自宅裏の池で溺死させ収容されたという彼女は、妄想の世界に生きており、周囲の医師や看護師に近所の住人の役を振り分け、未だ家族と平穏に暮らしていると思いこんでいる。決して危険な患者ではなかったはずの彼女はどこへ、どうやって消えたのか。

 テディと新しい相棒チャック・オール(マーク・ラファロ)は院長であるジョン・コーリー医師(ベン・キングスレー)をはじめ関係者から証言を求め、捜査協力を仰ぐが、しかし病院の人々はあまり協力的な態度を示さなかった。テディは捜査を切り上げて退却する、とまで脅しをかけるが、コーリー医師はのらりくらりとそれをかわす。

 2日目、シャッター・アイランドを強烈な嵐が襲い、テディもチャックも、脱出しようにも出来ない状況に追い込まれた。嵐の中、レイチェルの痕跡を求めて島の探索に赴いたテディは、避難した霊廟のなかで、自らがこの地に赴いた真意を打ち明ける。

 テディには妻がいた。だが彼女、ドロレス(ミシェル・ウィリアムズ)は、テディが捜査にかまけているあいだに、火事によって亡くなってしまう。のちになって、火事の原因は放火と判明した。テディの家に火を放ったのは、レディスという男――彼はいま、他でもない、このシャッター・アイランドに収容されている、というのだ……



[感想]

ギャング・オブ・ニューヨーク』以来、4作目となるマーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオのコンビによる新作である。どちらも決して安易な映画作りをしていないだけに、同じような作品をリリースするはずもないが、それでも従来のイメージで本篇を観ると、恐らく驚き以上に戸惑いを感じるのではなかろうか。

 先行する『ディパーテッド』は終始緊迫した空気の漲るサスペンスであったし、実話をもとにした『アビエイター』も、主人公が次第に狂気に犯されていく流れが本篇に近しい。そういう意味では、こうした作品の延長上に本篇は位置づけられるが、しかしそこにこうも入り組んだ謎解きの趣向を盛り込むことを予想することは難しいだろう。

 アメリカでは初公開時、この終幕に賛否両論が湧き起こったというが、それも宜なるかなと思う。仕掛けとしては決して珍しいものではないが、何度もアカデミー賞にノミネートされているようなスタッフとキャストが繰り出すものとしては異様だ。なまじ、真相解明までのサスペンスフルな描写の質が高く、途中に挿入されるテディの幻覚の部分でさえも歪な美を感じさせるだけに、トリッキーな結末には違和感を抱くのも不思議ではない。

 しかし、さすがに一流のスタッフが手懸けただけあって、こうした大仕掛けの結末を用意した映画にありがちな伏線の雑さ、矛盾を来す描写は見受けられない。私はあらかじめ原作小説を読んだ上で鑑賞したため、奇妙な描写がないか確認しながら鑑賞していたのだが、その意味では破綻がなく、慎重に丁寧に筆を運んでいたのが伝わり、膝を打つこともしばしばだった。

 だが残念なのは、真相を軸にして鑑賞すると、必要なものがあらかた出揃ってしまった中盤の展開に中弛みを感じることだ。前述の通り、描写の質は高く映像美にも優れているが、如何せんこの辺りは序盤の要素の反復に過ぎないので、真相を把握しているとどうしても倦んでしまう。仕掛けが仕掛けだけに再鑑賞を考える人は少なくないと思われるが、2度目、3度目と観ていくごとにどんどん物語としての面白さを減じかねない構成にはもう少し考慮が必要だったと思われる。

 それでも、同傾向の仕掛けを用いた作品群と較べれば、クオリティの高さは疑うべくもない。難渋な結末を解り易く見せるために丁寧に組み立てられた伏線は作り手の練度を窺わせるし、それを支えるために集められた俳優の贅沢さは、マーティン・スコセッシ監督をはじめとする一流スタッフの名前があってこそ可能なものだろう。スコセッシ監督との共同作業で培ってきた表現力を遺憾なく発揮したレオナルド・ディカプリオは無論のこと、それぞれが主演級、或いは重要な役柄を演じられる俳優たちが随所で存在感を示しており、見所が非常に多い。

 真相自体に疑問符を抱いたとしても、その土台の上で描かれたエピローグが醸しだす沈痛だが清々しい余韻の美しさは否定できないはずだ。これほどのスタッフなのだから、もっとストレートなサスペンスと、論理そのもので唸らされるような謎解きを――という期待をしてしまうが、こういう特異な趣向であっても一級のドラマは作れる、と証明した1本である。個人的には、2度まではともかく、3度4度と吟味するのは少々辛いと感じたことから減点せざるを得ないが、初見であれば確実に重厚なサスペンスと、衝撃とを味わうことが出来るはずだ。



関連作品:

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