『許されざる者』

許されざる者 [Blu-ray]

原題:“Unforgiven” / 監督・製作・主演:クリント・イーストウッド / 脚本:デヴィッド・ウェッブ・ピープルズ / 製作総指揮:デヴィッド・ヴァルデス / 撮影監督:ジャック・N・グリーン / プロダクション・デザイナー:ヘンリー・バムステッド / 編集:ジョエル・コックス / キャスティング:フィリス・ハフマン / 音楽:レニー・ニーハウス / 出演:ジーン・ハックマンモーガン・フリーマンリチャード・ハリスジェームズ・ウールヴェットソウル・ルビネックフランシス・フィッシャーアンナ・トムソン、フィリップ・ヘイズ、ミナ・E・ミナ / マルパソ製作 / 配給:Warner Bros.

1992年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:?

1993年4月24日日本公開

2008年6月11日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2010/03/22)



[粗筋]

 1880年、ワイオミングにあるビッグ・ウィスキーという街で、ひとつの事件が起きた。スキニーというカウボーイが娼婦を買った際、相手の些細な反応に憤り、彼女の顔をナイフで切りつけたのである。女たちは激昂し、処刑を望んだが、この地で絶対的な権力を誇る保安官のリトル・ビル(ジーン・ハックマン)は牧童たちに、春になってから彼らの馬を娼館の主に差し出すことで決着させてしまう。どうしても納得しかねた娼婦の頭アリス(フランシス・フィッシャー)は、仲間たちからなけなしの金をかき集め、事件に関わった牧童ふたりに1,000ドルの懸賞金をかけた。

 その話は遠くテキサスまで響き、ウィリアム・マニー(クリント・イーストウッド)のもとまで届いた。かつては無法者として鳴らした彼も、クローディアという女性との結婚を機に改悛し、今は亡き妻の墓標を守りつつ、平凡な農夫としてふたりの我が子と穏やかに暮らしている。彼のかつての武勇伝を伯父から聞いてきた、という若者スコフィールド・キッド(ジェームズ・ウールヴェット)から件の懸賞金の話をもたらされ、同道を求められても、応える気はなかった。

 だがちょうどその頃、ウィリアムの家畜に病気が蔓延し、先行きに不安が生じ始めた。子供たちのために、ウィリアムは懸賞金を求めて旅立つ。射撃の腕も乗馬の技術もおぼつかなくなっていたが、背に腹は替えられなかった。

 子供たちの面倒を頼むつもりでいた旧友ネッド・ローガン(モーガン・フリーマン)も同行を申し出、ウィリアムは3人で賞金稼ぎに赴く。だがこの旅には、思わぬ障害が幾つも彼らの前に立ちはだかっていた……



[感想]

 近年、すっかりアカデミー賞ノミネートの常連となった感のあるクリント・イーストウッド監督だが、当初はマカロニ・ウエスタンやアクション映画出身の、乱暴に言えばB級映画の俳優が撮った映画としてやや下に見られていたようだが、それが一気に面目を改めるきっかけとなったのが、アカデミー賞で9部門ノミネート、作品賞をはじめ4部門に輝いた本篇である。

 ちょうど西部劇の制作本数が減っていた時期と重なっていた故に“最後の西部劇”と呼ばれていた――と思っていたが、観る限り、決してそれだけの理由ではない。本篇はかつての娯楽映画、特に西部劇において安易に描かれていた“決闘”や“人の死”に本来あるべき重みを見出し、それを観る者に痛感させるよう、慎重に丹念に描写を積み重ねている。結果として辿り着くのは、娯楽映画としての西部劇の価値観から距離を置く結論であり、その終幕はさながら西部劇にピリオドを打ったようにも映る。“最後の西部劇”という惹句が何処から出て来たものなのかは不勉強故に知らないが、そういう意味合いもあったのでは、と推測される。

 いずれにせよ、これは西部劇によって育てられたヒーローであり、アンチ・ヒーローでもあったクリント・イーストウッドが監督として撮らねばならなかった、という意識をもって臨んだ作品であったに違いない。満を持して作りあげた本篇が高く評価されたことが、その後のイーストウッド監督の着実な歩みに繋がっているのだろう。

 ――と、想像を軸にしてクリント・イーストウッド監督という映画作家のキャリアにおける本篇の重要さを推測してみたが、仮にそんな知識がなかったとしても、また西部劇に一切愛着がなかったとしても、本篇には一見の価値があると思う。

 幾分尺は長めだが、そこに無駄はない。じっくりと作られた間も、丁寧な描写の数々も、終盤の僅か一瞬の決闘に結びついて昇華するように組み立てられている。決して多くは語られない、主人公ウィリアムの過去を匂わせる友人たちとのやり取りや、僅かな仕草、台詞の洗練ぶりだけでも惚れ惚れするし、決して気軽な旅ではないのに、随所にユーモアを滲ませているのも貫禄を漂わせる。

 ウィリアムの旧友ネッドや、彼らと最終的に対決することになるリトル・ビルの、それぞれを演じた名優達の重厚な演技は無論のこと、本篇に巧みな味付けをしているのは、ウィリアムを賞金稼ぎの旅に引きずり出した若者スコフィールド・キッドの存在だ。こちらも過去の行状について映像として描かれることはないが、明らかに自らを傑物と思わせたいあまり、血気盛んで大仰さを装った言動をしているのは明白である。そんな彼との向き合い方が、ウィリアムという男の心情の変化と、終盤で固める覚悟の硬さを強烈に感じさせる。ウィリアムとキッドとの関係性を、2008年にイーストウッドが最後の主演作と謳って監督した『グラン・トリノ』と対比させても興味深い。

 西部劇ならではの、乾いた大地や寂れた街の荒涼たる美しさをきっちりと捉え、物語にはユーモアを交えながらも過酷さと優しさを描き出す。一切間然するところのない、紛う方なき傑作である。私同様に、ここ数年イーストウッド監督が撮ってきた優れた作品群に感銘を受けたような人は、観ておいて損はない――それどころか、必見の1本である、と断言したい。



関連作品:

グラン・トリノ

ワイルド・レンジ 最後の銃撃

3時10分、決断のとき

アパルーサの決闘

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ

グッド・バッド・ウィアード