『ショーシャンクの空に』

『ショーシャンクの空に』

原題:“The Shawshank Redemption” / 原作:スティーヴン・キング / 監督・脚本:フランク・ダラボン / 製作:ニキ・マーヴィン / 製作総指揮:デヴィッド・レスター、リス・グロッツァー / 撮影監督:ロジャー・ディーキンス / 美術:テレンス・マーシュ / 編集:リチャード・フランシス=ブルース / 衣装:エリザベス・マクブライド / キャスティング:デボラ・アクィラ / 音楽:トーマス・ニューマン / 出演:ティム・ロビンスモーガン・フリーマンウィリアム・サドラー、ボブ・ガントン、ジェームズ・ホイットモア、クランシー・ブラウン、ギル・ベロース、マーク・ロルストン / 配給:松竹富士

1994年アメリカ作品 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:岡田壯平

1995年6月3日日本公開

2008年6月11日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:bk1amazonBlu-ray Discbk1amazon]

午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/02/12)



[粗筋]

 アンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)がショーシャンク刑務所に収容されたのは、1947年のことだった。若くして銀行の副頭取という地位にあった彼は、だが妻とその愛人であるゴルフプロに38発もの銃弾を撃ち込み死に追いやったとして、終身刑が言い渡されたのである。

 最初の1年間、彼はなかなか周囲に馴染まなかった。洗濯係としての労役中、自らを襲おうと待ち構えているボグス(マーク・ロルストン)らから必死に身を守りながら、孤独に時を過ごしていたアンディがようやく初めて話しかけたのは、やはり殺人による罪で終身刑を言い渡され、刑務所の中で“調達係”として地位を築いていたレッド(モーガン・フリーマン)であった。

 レッドは、刑務所に居ながらどこか違う雰囲気を醸し出すアンディに興味を惹かれたが、アンディは変わらずに周囲と微妙な距離を保ち続けた。そんな彼を取り巻く状況が一変したのはそれから更にあと、刑務所の屋根の改修作業が行われたときのことである。

 クジ引きで当選した――実際はレッドが手を回して選ばせた――囚人たちが作業をする背後で、看守のハドリー主任(クランシー・ブラウン)が、死んだ兄から多額の遺産を分け与えられたものの税金で大半を奪われることを同僚たちに嘆いていると、アンディが不意に口を挟み、合法的に遺産を守る方法を教えたのである。アンディは書類作成にも手を貸す代わりに、修繕作業に携わった囚人たちに、よく冷えたビールを提供するよう請う。

 この一件により、アンディはノートン所長の目に留まり、それまでブルック(ジェームズ・ホイットモア)という長期刑を課された囚人がひとりで担当していた図書係に任命された。そこでアンディは、囚人たちの資産運用、確定申告の手伝いを求められるようになる。かつて孤独を貫いていた男は、いつしかショーシャンク刑務所において、何者も代わりがたい地位を築いていた――



[感想]

 自らも熱烈な映画ファンとして知られるスティーヴン・キングの小説は多く映画化されている。名作の誉れ高い『スタンド・バイ・ミー』や、最近でも『アトランティスのこころ』、『ドリームキャッチャー』といった作品が採り上げられている。だが、彼の作品を扱って最も高い評価を得ている映画監督は、フランク・ダラボンである、と言い切っていいだろう。6ヶ月連続刊行で話題となった『グリーン・マイル』を巧みに整頓して優秀な感動のドラマに仕立て上げた手腕、原作にはなかった結末を添えて観る者を奈落の縁に叩きこむ傑作に変容させた『ミスト』――前者を評価する人には後者はあまりに残酷すぎ、後者を認める人には前者は微温的に過ぎる、という風に割れると思われるが、つまりそこまで徹底した作りとなっている証明であり、作品の主題を見事に活かして映画として昇華させる手腕は確かと言えよう。

 だが、後年のこの2作品よりも、初めての本格的な顔合わせとなった(実際にはダラボン監督が初めて手懸けたオムニバス映画の原作がキングであったが、単独で手懸けたのはこの作品が初となる)本篇のほうが、映画愛好家の記憶には残っており、今後も代表作として語り継がれるのは本篇であろう。それほどに本篇の完成度は著しく高い。

 とにかく、どんな見方をしても退屈をさせることがなく、唸らされる脚本の巧みさが驚異的だ。素直に希望や感動を与えるドラマとして鑑賞しても充分な満足感が得られるが、そういったものをあまり望まず、緊迫した筋運び、終盤でひっくり返されるカタルシスを求めるような観客であっても、本篇には脱帽するはずだ。

 出だしからこの巧さは実感できる。主人公であるアンディが投獄されるきっかけの事件と裁判から物語は始まるが、そもそも彼が罪を犯したのか否か、肝心な部分は敢えて避けて描いている。素直な人は彼の人柄と表情から無実を確信してしまうような描き方をしているが、疑り深い人からすると、既に何らかの仕掛けがなされているように感じられる。そういう意識を植え付けることで、以降の淡々とした筋運びに終始、緊張を生み出す細工を施しているのだ。語り手がアンディではなく、彼と友情を築くことになる終身刑の囚人レッドである、という点も、目敏い者からすると疑いの材料となっており、視点の置き場所にさえ抜かりがない。

 そして、エピソードや伏線の配置、提出の順番に至るまで、見事に一分の隙もない。些末な行動や世間話のひとつひとつに、観客の抱く印象を操るための仕掛けが施してあり、クライマックスで生じる膝を打つような逆転劇の伏線が隠されている。

 監督はその後に製作したキング原作の映画ひとつひとつが、どんな順序で鑑賞しても、観客に新しい衝撃を与えられるよう、細心の配慮を施しているのではなかろうか。私の場合はテレビで『グリーン・マイル』を鑑賞し、あとで『ミスト』を鑑賞した、という順番だったが、この2作品の予備知識があると、本篇のクライマックスでの返し技は意表をつかれる思いだった。発表順に観た人ならば、『グリーン・マイル』のストレートさに驚き、あとに繰り出された『ミスト』の結末には人によって怒りさえ抱くだろう――さすがにあれは少々刺激が強すぎる、とも思うが、観る者に何らかの衝撃、強い感動をもたらそうとする意思は、この作品から一貫しており、そのことに感嘆させられる。

 いずれも本篇ののちにオスカーに輝いた名優ティム・ロビンスモーガン・フリーマンの重厚な演技合戦に、主題を深化させ結末に仄かな苦みも添える好演を示したジェームズ・ホイットモアの演技も味わい深く、人物描写においても完成度は高い。

 今回私が鑑賞したのは、評論家の推薦及び一般観客の投票で選出した名作映画を週替わりで再上映する“午前十時の映画祭”という企画でのことだったが、本篇はその一般観客の投票において1位を獲得したという。斯様に映画ファンに強く愛されるのも頷ける、“珠玉”という表現の相応しい1篇である。



関連作品:

ミスト

ドリームキャッチャー

ミスティック・リバー

インビクタス/負けざる者たち