『テシス/次に私が殺される』

アメナーバル・コレクターズBOX [DVD]

原題:“Tesis” / 監督:アレハンドロ・アメナーバル / 脚本:アレハンドロ・アメナーバル、マテオ・ヒル / 製作:ホセ・ルイス・クエルダ / 撮影監督:ハンス・バーマン / プロダクション・デザイナー:ウォルフガング・バーマン / 編集:マリア・エレーナ・サンツ・デ・ローザス / 衣装:アナ・クエルダ / 音楽:アレハンドロ・アメナーバル、マリアーナ・マリン / 出演:アナ・トレント、フェレ・マルティネス、エドゥアルド・ノリエガ、ハビエル・エロリアガ、ミゲル・ピカツォ、ニーヴ・ヘランス、ローサ・カンピーロ、オルガ・マルガロ / 配給:Culture Publishers

1996年スペイン作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:伊藤美穂

1997年7月26日日本公開

2005年10月5日DVD日本最新盤発売(アレハンドロ・アメナーバル コレクターズBOXの1本として) [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/10/24)



[粗筋]

 マスコミ情報学院の映像学科で学んでいるアンヘラ(アナ・トレント)は論文のテーマに、“映像の暴力”を採り上げることに決めた。その参考にと、実際に暴力を撮した映像を探し始める。

 自身も同級生で、暴力やポルノを多く蒐集しているというチェマ(フェレ・マルティネス)にコレクションを見せてもらう一方、論文の指導をしてもらっているフィゲロア教授(ミゲル・ピカツォ)にも伝手を当たってもらったが、翌日そのフィゲロア教授が映写室で息絶えているのをアンヘラは発見する。アンヘラはすぐに通報せず、カセットデッキに収められていたテープを衝動的にくすねてしまった。

 自宅に持ち帰ったアンヘラは、テープの内容が教授を死に追いやったのか、と思うと映像を観る気になれず、まず音だけを確かめる――聞こえてきたのは、拷問を受けていると思しい女性の絶叫であった。

 フィゲロア教授の死が発覚すると、チェマはアンヘラの異変に気づいて詰問、彼女が搾取したテープを一緒に確かめる。恐る恐る指の隙間からしか映像を眺めることが出来ないアンヘラに対し、画面を食い入るように見つめていたチェマは、映像に多くの手懸かりが隠されていることを察する。

 ひとつ、映像は撮影当時まだ数の少なかったデジタル・ズーム対応の機材を用いていること。ひとつ、映像は被害者が何かを言っているところを意図的につまんでいる――つまり、犯人は被害者の顔見知りである可能性が高いこと。

 やがてアンヘラは、極めて疑わしい人物を発見する。拷問し、殺害される一部始終を撮影された女性ヴァネッサ(オルガ・マルガロ)と一時期噂になったことがあり、撮影に用いられたと推測されるカメラを所有している男――ボスコ(エドゥアルド・ノリエガ)を。



[感想]

『オープン・ユア・アイズ』、『アザーズ』と映画全体を支配する傑出したアイディアと、それを最大限に活かした雰囲気作りを施した作品で世界的に名を知られるようになったアレハンドロ・アメナーバルの長篇第1作である。

 アカデミー賞外国語映画部門に輝いた『海を飛ぶ夢』はまだしも、前述の2作品で受けた衝撃そのままに本篇を観終えると、微かな違和感を覚えるかも知れない。本篇には、全体を支配するような仕掛けが存在していないからだ。

 本篇はあくまで、スナッフ・フィルムを巡る謎と次第に明かされていく人々の秘密、現れては消えてゆく疑惑と、それらが絡みあって醸成される静かな緊迫感をこそ中心に描いている。

 そのために、解き明かされる仕掛けこそないが、終盤の二転三転する展開からは目が離せない。張り巡らせた伏線がほぐされていくあの快感には乏しいが、描かれていなかった裏が暴かれ、それぞれが目まぐるしく新しい顔を覗かせていく様は、まさしく正統派のサスペンス・スリラーと言えるだろう。

 ただ若干惜しまれるのは、全般に場面場面の尺が長いことだ。終盤はそのお陰で緊迫感がいや増しているのだが、中盤ぐらいまでは間延びしている印象がある。たとえばアンヘラがチェマのアパートで残酷映像を見せられている場面はもう少しテンポよく見せることが出来ただろうし、アンヘラの部屋での恐ろしくも艶っぽいひと幕も、中途半端にだらだらと描いているせいかいささか陳腐さ、古臭さがつきまとう。

 しかし、そういうどこか古典的な演出を心懸けているせいもあるのか、本篇は初の長篇監督作品にも拘わらず、不思議な貫禄がある。まったく人気のない街並、というショッキングな冒頭が忘れがたい『オープン・ユア・アイズ』や、透明で清澄なイメージに彩られた映像で統一された『アザーズ』のようなヴィジュアルの鮮烈さは乏しいものの、往年のサスペンス映画に憧れ、その想いを見事に形にしたかのような演出のテンポとプロットの巧みさは賞賛に値するだろう。

 事件が解決したあと、冒頭に提示された何気ないシークエンスを観客の胸に蘇らせ、複雑な想いをもたらすエピローグも秀逸だ。のちにあそこまで様々なスタイルを披露することまでは予見させないが、1作目にしてその才能をはっきりと観客に知らしめた、堂々たるデビュー作である。



関連作品:

アザーズ

海を飛ぶ夢

バニラ・スカイ

ノボ NOVO

激情