『トランスポーター3 アンリミテッド』

『トランスポーター3 アンリミテッド』

原題:“Transporter 3” / 監督:オリヴィエ・メガトン / アクション監督:コリー・ユン / 脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン / 製作:リュック・ベッソン、スティーヴン・チャスマン / 撮影監督:ジョヴァンニ・フィオーレ・コルテラッチ / 美術:パトリック・デュラン / 編集:カミーユ・デラマール、カルロ・リッツォ / 衣装:オリヴィエ・ベリオ / 音楽:アレクサンドル・アザリア / 出演:ジェイソン・ステイサム、ナターリア・ルダコワ、フランソワ・ベルレアン、ロバート・ネッパー、ジェローン・クラッベ、アレックス・コボルド、デヴィッド・アトラッキ、ヤン・サンベール、エリック・エブアニー、デヴィッド・カンメノ、シルヴィオ・シマック、セーム・シュルト / ヨーロッパ・コープ製作 / 配給:Asmik Ace

2008年フランス作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:林完治

2009年8月15日日本公開

公式サイト : http://tp3.asmik-ace.co.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2009/08/15)



[粗筋]

 イギリス特殊部隊出身、裏世界で凄腕の“運び屋”として認知されるフランク・マーティン(ジェイソン・ステイサム)。厳密なルールを己に課し、それを守り抜き――時に敢えて逸脱することで、過酷な世界で生き抜いてきた男である。

 その日は仕事を入れず、数少ない理解者であるタルコニ警部(フランソワ・ベルレアン)と釣りに出かけ、釣果なしで引き上げたあと、自宅で寛いでいたフランクであったが、彼の平穏は突如飛び込んできた黒塗りの車によってあっさりと破られる。運転者は同業者のマルコム(デヴィッド・アトラッキ)であった。銃撃され瀕死の重傷を負った彼のためにフランクは救急車を呼ぶが、何故かマルコムは「車から出ない」と言い放つ。

 意識を失った彼が搬送されたところで、フランクは後部座席に女(ナターリア・ルダコワ)が残されていたことに気づいた。どうやら無傷らしい彼女に様子を訊ねるが、何故か女も「車から離れない」と言い出し、片手を掲げてみせる。そこには、マルコムが嵌めていたのと同じような無粋なブレスレットがある――ようやく危険を察したときには、既に手遅れだった。マルコムを乗せた救急車は爆発、そしてフランクも背後から忍び寄った何者かによって昏倒させられる。

 目醒めたとき、フランクは見知らぬ個室にいた。手首にはマルコムたちが嵌められていたのと同じブレスレット。クローゼットにはご丁寧に、フランクの仕事着と同じ白いシャツに黒のスーツまで用意してある。やがて現れた男――ジョンソン(ロバート・ネッパー)は、こうなった責任は“使えない男”を紹介した君にある、と言った。従って、この依頼を改めて受けてもらう、と。

 ジョンソンはフランクの自宅から彼の愛車まで持ち運んでいた。中には、マルコムの車に乗っていたあの女までついている。単独行動を旨とするフランクであったが、そう主張するとジョンソンは女に銃口を向ける。従う以外に、選択肢はなかった。

 異例だらけ、あまりに不本意で、かつ仕事が終わったあとで生きて帰れる保証のない依頼。フランクはこの難局を乗り切ることが出来るのか……?



[感想]

 これまで本シリーズはルイ・レテリエが監督を手懸けてきたが、彼がハリウッドに招聘されたために、初めて別の監督がメガフォンを取っている。

 しかしこのオリヴィエ・メガトンという監督も、ルイ・レテリエと同様に、リュック・ベッソンにその才能を見出された人物であり、リュックの製作総指揮のもと『EXIT』という異色のスリラーを監督、最近ではリュック率いるヨーロッパ・コープ製作、ザヴィエ・ジャン監督『ヒットマン』において第二班監督を担当しており、リュック・ベッソンの一派と言っていい。人気シリーズでも監督が代わると極端にカラーが変わってしまうことがままあるが、製作・脚本を相変わらずリュック・ベッソンが手懸けていることもあって、基本的な方向性はシリーズ旧作を踏襲している。

 だがそれでも、やはり監督各個のスタイルというのは作品に影響を及ぼすようで、本篇においても、旧作との手触りの違いがある。如実なのは、ユーモアにしてもアクションの見せ方にしても、従来より生真面目さが際立っていることだ。

 第1作では本筋と関係のないカーチェイスでフランクの腕前と、ルールを守るためには人死にも厭わないダーティさを示し、第2作では冒頭で彼の戦闘能力の高さをスマートに披露したあと、第1作と似たカメラアングルから意外な展開へと持ち込み、いずれもユーモアを滲ませている。本篇の序盤でも、いちおうユーモアは盛り込んでいるのだが、第1作冒頭を彷彿とさせる一方で必死さの滲むカーチェイスと、フランクたちの暢気なやり取りの対比は、ブラックユーモアとしてもあまり効果を上げていない。

 アクションについても、リュック・ベッソン印の破天荒さは残しながら幾分リアルな方向に傾いている。前作ではホースを利用したり、部屋の天井から下がったチェーンにぶら下がった敵との格闘を描いたりしていたが、本篇での格闘は、舞踏的ではあるが幾分ストレートだ。フランク自身は途中でジャケットをフックに投げかけたり、着ているものを利用して相手を絞めたり拘束したりと華麗なテクニックを示すものの、敵方は凶器の使い方も攻撃の仕方もシンプルになっている。ジェイソン・ステイサム演じるフランクの肉体美はいっそう洗練され、攻撃の重量感は増しているが、外連味が減ったことを残念に思う向きもあるだろう。

 しかし、アクションそのものの迫力は変わっていないし、何よりカーチェイスの趣向の派手さという部分では決して旧作に引けをとらない。寧ろ、“車から20m以上離れると爆発する”という条件付けのお陰で、車絡みのアクションはこれまでに観たことのないシチュエーションが満載となった。依頼主によっていちど車を奪われ、20mの距離を保つために自転車を駆使し建物の中を突き抜けて追いすがるシークエンスや、クライマックスで畳みかけるように繰り出される曲芸的な趣向は、前作の空中ひねりに匹敵するインパクトがある。ドライヴィング・テクニックのみで追跡者を翻弄するクライマックス手前のひと幕なども出色だ。

 本篇はもうひとつ、登場人物の心理描写が幾分大人びたものになっているのも特徴である。フランクの私生活が軽くだが掘り下げられ、「クールに見せかけて情熱的」とタルコニ警部が評する性格もいっそう顕わになっている。当のタルコニ警部も、地方の警察官には似合わぬ有能ぶりとフットワーク、そして友人フランクに対する理解の深さを示し、そして強靱なフランクを最後まで翻弄する敵役ジョンソンの、ある意味揺るぎない悪辣さも旧作と較べて傑出している。惜しむらくは、ヒロイン格の女が、佇まいこそ魅力があるのだが、これが初めての本格的な演技だったこともあってぎこちなく、いまいち存在感に劣ることだが、彼女は彩りであり作品の艶なので、過剰に際立てなかったのは正解かも知れない。

 ただ、人物が小気味よく描けている分、背景を複雑化しすぎて説明不充分に陥っているのが難点だ。フランクとジョンソンのシンプルな駆け引きのみにならないよう、物語にはもうひとつの勢力が絡んでくるが、そのあたりの説明がぎこちないせいで妙な違和感を齎し、最終的に“アレは必要だったのか?”という疑問を観る側に与えかねない表現になっている。また、これは私自身が首を傾げたことなのだが、フランクが何故ジョンソンの配下からの依頼を固辞したのかが、咄嗟に理解しづらい。最後までそこに触れていないので、振り返って考え直してみると、どうもタルコニ警部と釣りに出かける約束をしていたかららしいと察せられるが、本当に説明をしていないので真相は不明だ。謎を仄めかしたまま残すことで二度、三度と楽しめるように仕向ける、というテクニックと捉えるには、その疑問がドラマ性を膨らませているわけでもないので、微妙な仕上がりと言わざるを得ない。

 全体を見渡すと、スタイリッシュさも破天荒さも留めながら妙にリアルさを志向している部分もあって、その配分が調整しきれず荒削りな印象が強い。しかし、シリーズのらしさはきちんと押さえているし、荒削りであるからこそ奇妙な魅力を醸している。シリーズを愛好しているなら、新鮮な感覚で味わえることの出来る異色作であり、初めて触れる人であっても問題なく楽しめる、正統的なアクション大作に仕上がっている。



関連作品:

トランスポーター

トランスポーター2

EXIT

レッド・サイレン

ヒットマン