『ターミネーター4』

『ターミネーター4』

原題:“Terminator Salvation” / 監督:マックG / 脚本:ジョン・ブランカトー、マイケル・フェリス / 製作:モーリッツ・ボーマン、ジェフリー・シルヴァー、、ヴィクター・キュービセック、デレク・アンダーソン / 製作総指揮:ピーター・D・グレイヴス、ダン・リン、ジーン・オールグッド、ジョエル・B・マイケルズ、マリオ・F・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ / キャラクター創造:ジェームズ・キャメロンゲイル・アン・ハード / 撮影監督:シェーン・ハールバット,ASC. / ターミネーターメイクアップ&アニマトロニック効果:スタン・ウィンストン・スタジオ / 視覚効果スーパーヴァイザー:チャールズ・ギブスン / プロダクション・デザイナー:マーティン・レイング / 編集:コンラッド・バフ,A.E.C. / 衣装:マイケル・ウィルキンソン / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:クリスチャン・ベールサム・ワーシントンアントン・イェルチン、ムーン・ブラッドグッド、ブライス・ダラス・ハワード、ヘレナ・ボナム=カーター、コモン、ジェーン・アレクサンダー、ジェイダグレイス・ベリー / 配給:Sony Pictures Entertainment

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:菊地浩司

2009年6月13日日本公開

公式サイト : http://terminator4.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/06/05) ※特別先行上映前夜祭



[粗筋]

 サラ・コナーとジョン・コナー母子の尽力によりいちどは回避した、と思われたスカイネットによる人類への核攻撃は、現実のものとなってしまった。

 ジョン・コナー(クリスチャン・ベール)は僅かな歴史のズレを認識しながらも、未来からやって来た父が予言したとおりに抵抗軍に加わり、未来から齎された知識と、母サラから伝授された戦闘技術を糧にしてスカイネットとの戦闘に貢献、絶望的な状況において人々に希望を齎し信頼を集めていた。

 2018年、ジョンはスカイネットのデータを奪う計画のために、部下たちと拠点への潜入を試みる。そこのコンピューターには、ジョンにとって因縁深いバイオロイド――T-800の設計図が記録されていた。

 この作戦でジョンは出動した部下をすべて失ったが、辛うじて発信されたデータを解析した司令部は、その中にスカイネットのマシンのスイッチを切るためのコードを発見する。もしこれが有効なら、戦況は一気に好転するはずだった。ジョンは自ら、コードをテストする役に志願する。このとき司令部がジョンに提示したタイムリミットは4日間。何故なら、その4日の間にスカイネットは、抵抗軍の重要人物を暗殺する計画を立てていたのである。リストの2番目に記載されていた名前は、ジョン・コナーであった。

 ――同じ頃、抵抗軍との戦いにより廃墟となったスカイネットの拠点で、ひとり目醒めた男がいた。その男――マーカス・ライト(サム・ワーシントン)は、見慣れぬ周囲の様相に驚愕し困惑しながら、崩壊した世界を彷徨い始める。

 やがて、かつてロサンゼルスであったはずの土地で、マーカスは初めてスカイネットの人間型兵器“ターミネーター”と遭遇する。そうとは知らずに接近を試み、危うく攻撃されかかった彼を救ったのは、ひとりの少年であった。少年は、戦争の恐怖により失語症に陥った少女スター(ジェイダグレイス・ベリー)を守りながら、LA唯一の抵抗軍を自称し、単身戦い続けていたのである。

 少年の名は、カイル・リース(アントン・イェルチン)。歴史が予定通りに動いていれば、数年後に過去の世界へと送られ、救世主ジョン・コナーの父親となるべき人物。そして、スカイネットの暗殺リストのいちばん最初に名前を掲げられた男であった……



[感想]

 続篇はたいてい前作を超えられない、という説が根強く残っている映画の世界で、『ターミネーター2』は奇跡的に前作を凌駕し、SFアクションとしてもドラマとしても高いレベルに押しあげた傑作であった。しかしそれから10年を経、スタッフを入れ替えて制作された『ターミネーター3』は、旧作への敬意は感じられるし努力も認められるが、決して多くの人を満足させられる出来ではなかった。

 そんな第3作を受けて、更に5年以上の月日を経て完成された最新作は、だが思いがけず優秀な仕上がりとなっていた。

 旧作でジョン・コナーたちが必死に避けようとしていた破滅の未来は既に訪れ、ジョン・コナーは未来から送られた父の語っていた通り、抵抗軍のリーダー的存在となっている。ただ、ここに登場するジョン・コナーが目撃する“未来”は、聞いていたものと微妙に食い違いを見せている。第2作の時点で微かに浮かび上がってきたタイム・パラドックスは第3作でより如実になり、本篇はその違和感、食い違いにどう対応していくか、という部分で葛藤するジョン・コナーの意識を、重要なパーツとして用いている。これまでのように、未来からの刺客と戦う、というシチュエーションの繰り返しではなく、そうして構築してきた“狂った未来”との戦いに焦点を置いたのが、この新作最大の着眼であろう。本篇はそこにマーカス・ライトという謎を含んだ重要人物と、幾つかの仕掛けを用意することで、ミステリアスなドラマに仕立てることに成功している。

 タイム・パラドックス以外の部分で、この科学技術は少し行きすぎではないか、とか情報の出所が不透明だったり対処が性急過ぎはしないか、と首を傾げるところもあるにはある。だが、過去の経験故に、やがてその素性の判明するマーカス・ライトに対して複雑な反応を示すジョン・コナーや、逆に直感のままマーカスの行動を手助けする登場人物の姿など、それぞれの背景、心情に基づいて悩み、結果それぞれに不自然さのない行動に及んだ結果がクライマックスの衝撃的な展開に繋がっており、些末な疑問点はさほど気にならないほど物語の完成度が高い。

 近未来の戦争映画、という観点からも、本篇は非常に質の高い映像を提示している。

 人間に紛れて標的を襲撃するのではなく、戦場において如何に効率よく目的を果たすか、を考慮したタイプの兵器が、これまでに登場した“ターミネーター”のモチーフをきちんと敷衍した外観、特徴を備えたものとしてデザインされ、画面狭しと暴れまくる様は圧倒的であり、壮絶だ。進歩したVFX技術を存分に駆使しているのもそうだが、音響もかなり拘っており、設備の整った劇場であれば機械の迫り来る爆音で振動すら体感できる。

 また、カメラワークにもちょっとしたこだわりを感じさせるのもポイントだ。如実なのは冒頭、地下施設から地上の様子を確かめに上がっていったジョン・コナーが惨状を目にし、ヘリコプターで現場を離脱しようとして失敗、墜落するまでのくだりで、本篇ではこの過程をほぼワンカットで表現する。ジョンの姿を中心に捉えつつ、彼の視点に近い映像を展開することで、見事な臨場感を演出している。これほど極端な趣向はあまり用意していないが、距離感や位置関係をうまく活かした表現で、緊迫感、恐怖感を表現する技に多く工夫を施し、見応えは充分だ。

 ある秘密が明かされ、様々な要素が合流していくクライマックスも素晴らしい。特に、ここでそっと提示される趣向は、第1作からすべて観てきた者なら、ちょっとした感動を覚えること必至だろう。個人的には、結末での行動についてはもうちょっと伏線を用意するなり、別の工夫を用いることも可能だったと思うし、余韻を作るぐらいの意識が欲しかったと考えるが、しかし充実感も虚しさを含んだ情緒もきちんと孕んだ締め括りは、印象に残る。

 前作の出来に首を傾げ、続篇となる本篇にも期待を抱いていない、という向きは多いだろうが、そういう方にこそ是非とも劇場に足を運んでいただきたい。完成度は遥かに上であり、またきっちりと作りあげられた映像・音響は、劇場でこそ堪能して欲しいのだ。



 以下、少々長めの余談。

 冒頭に述べたような理由で、発表当初はほとんど期待されておらず、私自身も苦い気分になった本篇だが、実は私は、ある情報が漏れた段階から、逆に期待を募らせていた。

 一時期、本篇は脚本担当に、ジョナサン・ノーランポール・ハギスというふたりの名前を連ねていたからである。

 スタッフにまで注意をするような人でないと、いずれもピンと来ない名前だろうが、両者のこれまでの仕事を知っている人なら、この組み合わせにちょっと感心するはずだ。前者はクリストファー・ノーランを世界的に知らしめるきっかけとなった『メメント』の原案と共同脚本、そして2008年の映画界を震撼させた大傑作『ダークナイト』でも共同脚本を担当した人物である。後者は『クラッシュ』でアカデミー賞に輝き、ダニエル・クレイグを戴いた新生ジェームズ・ボンドのシリーズに協力してその質を一気に高めた功労者だ。

 いずれもサスペンスとドラマ性を融合した、優れた作品の脚本を手懸けた実績があるのである。シリーズの先行作がどんな出来であろうと、このふたりが携わるのなら希望は持てる。この情報を目にした時点から、私は逆に本篇の公開を待ち望んでいた。

 しかし、いざ公開が迫って、改めてスタッフ一覧をチェックしてみると――ふたりの名前が無くなっている。

 ハリウッド映画では、スタッフが入れ替わることは珍しくない。監督不在の時につけられるアラン・スミシーという名義は有名だし、かなり突っこんで脚本に手を入れたにも拘わらず、スタジオや監督との意見の食い違いからクレジットから名前を外されたりすることも多いという話だ。

 故に、当初告知されていたスタッフが姿を消していても別に不思議はない――ないのだが、私としては失望を禁じ得なかった。このふたりの名前が消え、残ったのは出来に不満を残した前作の担当者のみである。

 この時点で少々不安が募ったのだが、アメリカでの公開前後あたりから好評が聞こえ始めて、結局は「期待してもいいだろう」という判断に落ち着いた。実際観た作品は充分期待に応えるものだったし、パンフレットにおけるクリスチャン・ベールのインタビューを読んで、この出来映えに納得できる理由を発見した。

 ポール・ハギスについては不明だが、どうやらジョナサン・ノーランはある段階で脚本執筆に加わっていたらしいのである。クリスチャン・ベールもやはり前作の内容には疑問を抱いていたクチで、提示された続篇の脚本にも当初は不満があったのだが、ジョナサン・ノーランの改稿を経たものに納得して出演を承諾した旨が記されている。

 あくまでもクリスチャン・ベールの談話の中でのみ名前が出ているだけだし、ここでジョナサン・ノーランが手懸けた部分がどの程度残っているかは解らない。ただ、シリアスで緊密に作られたシナリオや、きちんと練られた仕掛けなど、前作にはない、或いは前作よりも秀でた部分は、彼の仕事の片鱗が影響している、と思われる。

 まだ劇場に足を運ぶことを躊躇っているという方は、本篇のスタッフに一時期ジョナサン・ノーランポール・ハギスという名前が連なり、完成作にこそ刻印はされていないが、非公式ながらクリスチャン・ベールが言及したことを念頭に、もういちど検討していただきたい。これで気持ちが靡くような方なら、ある程度は納得のいく出来映えになっている。

 ……しかし、もし本篇の完成度が一時期参加していた脚本家の腕に因るものだとしたら、むしろ気懸かりなのは今後であろう。あくまで噂だが、本篇は新たな3部作を企図して制作されたと言われている。仮に本篇と同じスタッフがふたたび携わったとして、果たしてこのストーリーの完成度も踏襲できるかどうか。

 一瞬でも希望を持たせたのだから、もし新たに3部作を構成する意欲があるのなら、今度は是非ともハッピーエンドで飾って欲しいものである――色々な意味で。



関連作品:

ターミネーター3

ダークナイト