『おっぱいバレー』

『おっぱいバレー』

原作:水野宗徳(リンダパブリッシャーズ・刊) / 監督:羽住英一郎 / 脚本:岡田惠和 / 撮影監督:西村博光 / 照明:三善章誉 / 美術:北谷岳之 / 録音:柳家文彦 / 編集:松尾浩 / 衣装:水島愛子 / バレーボール指導:大林素子 / 音楽:佐藤直紀 / 主題歌:Caocao『個人授業』 / 出演:綾瀬はるか木村遼希、高橋賢人、橘義尋、本庄正季、恵隆一郎、吉原拓弥、青木崇高仲村トオル田口浩正市毛良枝光石研石田卓也大後寿々花福士誠治 / 制作プロダクション:ROBOT / 配給:Warner Bros.×東映

2009年日本作品 / 上映時間:1時間42分

2009年4月18日日本公開

公式サイト : http://www.opv.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/04/23)



[粗筋]

 1979年。国語教師・寺嶋美香子(綾瀬はるか)は、戸畑第三中学校に赴任するなり、教頭(光石研)から男子バレー部の顧問になるよう要請される。

 どうせ見ているだけだから、と気軽に引き受けた美香子だったが、この男子バレー部、学校でも評判の“おバカ”部だった。試合の経験どころかろくに練習もしたことがなく、思春期丸出しに常日頃からエッチなことばかり考えている。

 それでも何とかまともに顧問らしくしようと練習を始めるが、バレー部員たちの有様は美香子の想像を超えていた。何せ、女子バレー部にさえ無得点で負けてしまうほどなのである。せっかくバレー経験のある1年生が入ってくれた矢先だったのに、あまりのていたらくに失望してさっさと辞めてしまう。

 前にいた学校で苦い経験をしている美香子は、今度ばかりは失敗するまいと思い、彼らを奮起させようと「あなたたちが頑張るなら、先生、何でもするから」と言ってしまうが、これが大きな間違いだった。途端、バレー部員たちは目を輝かせて、こう答えた。

「じゃあ、ぼくたちが試合に勝ったら、おっぱい見せてください!!」

 当然、最初はとんでもない、と断った美香子だが、部員に小さな声で「嘘つき……」と呻かれて、曖昧に頷いてしまった。歓喜し、目的はよこしま極まりないがひとまずはやる気を出し始めたバレー部員たちに、美香子は複雑な笑みを浮かべる。

 だが、まだまだ課題は残っていた。だいたい、現時点でバレー部員はたった5人。試合をするためにはあと1人必要なのだ。まずは、彼らに見切りをつけた1年生を連れ戻さなければならない――



[感想]

 近来稀に見るインパクトのある題名だが、中身は非常に端正な青春映画である。

 綾瀬はるか演じるヒロイン・美香子に、「試合に勝てたらおっぱいを見せて欲しい」と頼む男子バレー部員たちの言動は終始不埒で破廉恥だが、そこに不自然さはない。物言いがあっけらかんとしていて、モチベーションの在処がとても明確になっている彼らの姿は筋が通っていて、むしろ清々しいほどだ。それに、彼らの思考や行動について、似たようなことを考えた経験がまったくない、と言い切れる男子はまずいないだろうし、女性の側でも(許容は無理でも)理解は出来るだろう。

 対する美香子の方も、設定はとてもリアルだ。本人は色っぽいことで男子の関心を惹こうとするタイプどころか、天才的な思いつきや、青春映画にありがちな、鬱陶しいほど教育に情熱を燃やすキャラクターですらない。消極的で周りに流されやすく、過去の経験から「嘘つき」呼ばわりされることを嫌っている。なるほど、こういう人なら生徒に押し切られて、不本意な約束をしてしまうだろう、と理解できる人柄を形作っている。

 きっかけは品性に欠くものの、男子生徒たちは決してそれ以上の要求をしない。こんな方法で生徒たちのやる気を煽るのは間違っている、と理解しながら、たとえ不純な目標であっても努力することに目醒めた生徒たちを前に、美香子も必死に悩む。賭けをした両者のそんなフェアな精神もまた快いが、一方で生徒たちはまた別にエッチな約束を仕掛けたり、呆れるような行動に及んでいるし、先生は教育者としてではなく女として「おっぱいを見せる」という約束に拒絶反応を示し、何とか反故に出来ないか、消極的に働きかけてみたりする。そんな、嘘偽りのない反応を埋め込んでいるのもリアルで、作り手の誠実さを感じる。

 やる気を出させるために「おっぱいを見せる」などという約束を用いるのは、やはり現実の教育において考えるととうてい妥当とは言いがたい手段で、如何に押しが弱い人間でもどうにか拒絶できなかったのか、と思えるのだが、しかしそれで苦々しい印象を与えないのは、間違っていても“教育”と真剣に向き合っているのは確かだからだ。

 観ていて腹が立つのはむしろ、バレー部員に対する前任者たちの姿勢のほうだろう。のちのち語られる事情からすれば、誰かが手助けしてやればあそこまで度外れて無気力な“お馬鹿”連中には成り下がらなかっただろうに、放置した挙句に見下しているのだから。たとえ厭々でも、とにかく向き合い、生徒たちのやる気に救いを見出した美香子のほうがずっと真摯だ。自分のやっている方法が正しくない、と承知しながらも努力した彼女の姿勢は、決して間違ってはいない。この微妙なバランスで保たれた意識が本篇を、大筋ではオーソドックスな青春映画の体裁を取っているにも拘わらず、一線を画した作品にしている。

 一方で、延々「おっぱい」「おっぱい」と喚き続けている男子生徒たちのキャラクターにリアリティを持たせるため、原作が現代の出来事であったのを、まだ性に対して距離があり憧れのほうが大きかった1970年代に設定しなおし、シチュエーションそのものにも配慮していることもまた好感触だ。この変更のお陰で、各場面に似合った往年のヒット曲をBGMに組み込み、更にあの頃の性知識のアイコン的存在だった深夜番組『11PM』のタイトルバックを盛り込むなどして、軽薄で陽気なムードをいっそう膨らませることに成功している。性についての知識に接する機会が多くなってしまった若い世代にとっても、過去の話だという感覚が伝わるだけに、本篇の内容にリアリティを感じることが出来るはずだ。

 全体的な展開は予想通りだが、細かな台詞や表現には工夫があり、最後まで退屈させない。締め括りにしても、決して常識からはみ出さず、ギリギリのところで清々しい結末を用意しており、最後までその姿勢は真摯だ。設定故の面白さをきちんと引き出しながら、青春映画として、教育を題材にした映画として、良心を保った快いコメディである。題名を窓口で口にするのが恥ずかしい、と感じる人もいるだろうが、観た人間は解ってくれるはずなので、安心して叫んでいただきたい――いや、叫ぶのは駄目か。



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