『罪とか罰とか』

『罪とか罰とか』

監督・脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ / 企画:榎本憲男 / 撮影監督:釘宮慎治,J.S.C. / 照明:田辺浩 / 美術:五辻圭 / 装飾:龍田哲児 / 編集:高橋幸一 / VFXスーパーヴァイザー:石井教雄 / 音楽:安田芙充央 / 主題歌:Sowelu『MATERIAL WORLD』(DefSTAR RECORDS) / 出演:成海璃子永山絢斗段田安則犬山イヌコ山崎一奥菜恵大倉孝二安藤サクラ市川由衣徳井優、六角精児、串田和美佐藤江梨子麻生久美子、大鷹明良 / 配給:東京テアトル

2008年日本作品 / 上映時間:1時間50分

2009年02月28日日本公開

公式サイト : http://www.tsumi-batsu.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/03/05)



[粗筋]

 芸名・円城寺アヤメ(成海璃子)はグラビアアイドル……なのだが、5年活動して未だ芽が出ない。一緒にスカウトされた元同級生の耳川モモ(安藤サクラ)は、お色気路線ながら順調に露出を増やしているのに、アヤメの仕事はごく少ない。やっと、モモが表紙を飾るお色気雑誌で久々にグラビア掲載されたと思ったら、ひとりだけ上下逆さまに印刷されている始末。

 コンビニで掲載誌を確認していたら、店長(徳井優)に立ち読みを注意され、買って帰ろうとしたら財布がなく、苛立ち紛れに万引を図るも逃げ切れず、あえなく御用となった。迎えに来たマネージャー・風間涼子(犬山イヌコ)がアヤメをどつき、店長に平謝りするなか、通報で駆けつけた警官は妙な提案をしてきた。

 ――かくてアヤメは、万引の罪を帳消しにしてもらうために、1日署長に就任することになる。マネージャー共々、まったく要領が解らず戸惑うアヤメを迎えたのは、何と彼女の元彼、恩田春樹(永山絢斗)であった。

 交際しているときから警察を目指していた春樹だが、実はこの男にはもう一つの顔がある。愛するあまり、相手を殺してしまうという悪癖があり、アヤメと付き合っているあいだに8人を手にかけていたのだ。とうとう自分まで襲われて、別れることになったのだが、そのあとも殺人を繰り返していたらしい。しかも、アヤメが1日署長に就くその日にも。

 そんな彼氏との再会だけでも大事件なのに、しかしこの1日署長のお仕事には、更に大きな波乱が待ち構えていた……。



[感想]

 監督のケラリーノ・サンドロヴィッチは音楽、舞台でその名を知られた人物だが、生憎とそちらの活動に触れたことのない私にとっては、何よりも『時効警察』の脚本・演出担当のひとり、というイメージが強い。そのイメージだけで観に行った本篇、そういう意味では見事に期待通りだった。

時効警察』はミステリのフォーマットを利用しながら、警察の活動や世界観などに独自性が色濃く、他のドラマではあり得ない事件の内容や展開が魅力であったが、本篇はそれが更に先鋭化されている。

 そもそもプロローグ部分ではヒロインの成海璃子がギリギリまで登場せず、段田安則が演じる加瀬吾郎という男が災難に遭うまでを描いている、という点でも意表をついているが、この序盤だけでも奇怪な描写がふんだんに鏤められている。あまりにとんでもない状況が積み重なった挙句、ようやく成海璃子の登場、そして1日署長として勤める警察署に赴くわけだが、ここがまたとんでもない有様だ。

 しかし序盤の不条理な顛末のあとだと、どれほど警察署の中が無茶苦茶で、警官が非道な真似をしていても、妙に納得できてしまう。しかも、破天荒に現実を戯画化しているだけでなく、その細かな言動に笑いの種を仕込み、幾つかはあとあと別の形で昇華する、という工夫さえ凝らしているのだ。こうした手法は『時効警察』でも頻繁に用いられていたが、それを更に研ぎ澄ませている。単独でも充分に笑えた描写を、あとになって思わぬタイミングで蒸し返して混ぜっ返す。重層的に組み立てられた笑いが、クライマックスに近づくと、より奇妙なシチュエーションを可能にして、稀有なカタルシスに繋がっていくのだ。普通の映画ではまず得られない快感さえ味わえる。

 ただ、本篇の不条理さはおおむね、現実に存在する毒の部分を誇張しているため、人によっては拒絶反応を起こすかも知れない。かく言う私も、警察が横暴で身内の犯罪に必要以上に寛容でも許せるのに、成海璃子演じるヒロイン円城寺アヤメのグラビアが上下逆さまに刷られた件についての出版社の反応はどうしても納得がいかず、居心地の悪い思いをした。あのケースは、載っているグラビアアイドルを笑いものにしていい場面ではない。一般人や編集者の数人程度ならまだしも、あそこまで総出で悪意を剥き出しにするのはさすがにやり過ぎだ。

 しかしこの点については、あとあと妙なところで決着をつけているのがまた憎らしい。描写の一つ一つが、最後にはブラック・ユーモアであってもちゃんとオチをつけていく、その計算高さは天晴の一言に尽きる。

 些末な登場人物でさえも個性を確立し、その場限りの笑いに供したり、あとで再登場させて軽く笑いを演出したりする技も巧みだ。だがそんな中で、事態に翻弄されくるくると表情を変え、しまいにはとんでもないオチをつけていくヒロイン・成海璃子の存在感がやはり出色である。アヤメの設定年齢より実際はずっと若いはずだが、どこか疲れ果てた“イケてない”グラビアアイドルを完璧に体現しきり、自然体のままコメディエンヌとなっている。

 アクの強さゆえに万人にお薦めすることはまず不可能だが、たとえば『時効警察』が好きだった人であれば遠慮なく劇場に足を運ぶよう進言できるし、フィクションとして作り込まれているのであれば毒も不道徳もOK、と言い切る方ならまず楽しめるだろう。そしてハマれば、きっと繰り返し観たくなる……はず。ただ個人的には、小ネタを再確認するために2度目ぐらいならいけるだろうが、3度目となるとちょっときついのでは、という印象も受けた。しかしそれも、伏線の大半が笑いに奉仕しているが故であり、緊密に作られた作品であることは間違いない。