『ザ・ムーン』

『ザ・ムーン』

原題:“In the Shadow of the Moon” / 監督:デイヴィッド・シントン / 提供:ロン・ハワード / 製作:ダンカン・コップ / 撮影監督:クライヴ・ノース / 編集:デヴィッド・フェアヘッド / 音楽:フィリップ・シェパード / 出演:バズ・オルドリン、アラン・ビーンジーン・サーナン、マイク・コリンズ、チャーリー・デューク、ジム・ラヴェルエドガー・ミッチェル、ハリソン・シュミット、デイヴ・スコット、ジョン・ヤング / DOXプロダクション&パッション・ピクチャーズ製作 / 配給:Asmik Ace

2007年イギリス作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:林完治 / 字幕監修:阪本成一(宇宙航空研究開発機構

2009年01月16日日本公開

公式サイト : http://themoon.asmik-ace.co.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/17)



[粗筋]

 アポロ計画が月面着陸を目標に設定した背景には、宇宙開発においてソ連に有人飛行で先を越されてしまったことが大きく影響していた。それを踏まえ、当時のジョン・F・ケネディ大統領が1960年代中に人間の月面着陸と地球への帰還を実現すると宣言、このことが実際の計画に携わるスタッフに重くのしかかってきたのである。

 月面着陸、という人類史上初の試みは手探りで行われた。空軍出身のパイロット達は自ら設計・建造にも携わったが、当初は打ち上げ直後に炎上・爆発を繰り返し、有人飛行の実現ですら、生前のケネディ大統領が予告した1960年代のギリギリ、1968年まで待たなければならなかった。

 そして、1969年7月。政治的意図から計画された月面着陸は、だがこのとき、決してアメリカだけの財産ではなくなっていた……



[感想]

 1969年から1972年までの短い期間に繰り返し行われたアポロ計画に携わった宇宙飛行士達へのインタビューと、NASAに所蔵されていた貴重な映像によって構成されたドキュメンタリーである。

 先頃公開された『ミーアキャット』と較べるとごく正攻法で、やや断片化させつつも基本的にインタビューや映像を時系列に添って並べているのみであり、格別物語の形にまとめているわけではない。それだけに、多くのドキュメンタリーと同様に、1時間40分に及ぶ尺はいささか長ったらしく感じられる。こと、個人的な事情だが、鑑賞した日は早朝まで起きて作業をしており、寝不足の状態で鑑賞するにはかなりきつい仕上がりであった。

 だが、それでも完全に眠らずに見通すことが出来たのだから、インタビューの内容自体や採り上げた映像の数々が如何に強烈なインパクトを秘めていたのかが解るだろう。ケネディ大統領の宣言通り60年代に月面着陸を行うというプレッシャーに、敗色濃厚なベトナム戦争のなかでアメリカ国民に達成感をもたらすべく急がれたという計画。飛行士達自ら設計や整備に携わったという、宇宙開発初期ならではの手探り感。そして実際の月面着陸における役割分担やそのプロセスなど、系統立てて簡潔に語られたことの少ない事実が、あまり観たことのない映像を添えて綴られており、興味は尽きない。月面に存在する山稜の映像であるとか、最初の月面着陸ののち乗員達が立てたアメリカ国旗らしきものが、月着陸船の噴射によって吹き飛ばされている様子がちらっと画面の端に映っているあたりなど、細かく見所はたくさんある。

 宇宙飛行士は、その訓練の特異性もあるのだろうが、現役を退いたのちも宇宙開発事業や関連事業の要職に就いていることが多いようだが、他方でかなりスピリチュアルな言動が多くなり、飛び立つ前よりも信仰に対して敬虔になったり、宇宙開発からまったく身を引いて環境保護や緑化活動など、地球の自然に関わる仕事に就いている人が見受けられる。宇宙から地球を眺めれば……云々と説明するのはたやすいが、しかし当事者達の証言を積み重ねていった本篇の終盤で改めて語られると、非常に納得できる。ある飛行士の、「あの3日間は素晴らしい冒険だったが、地球に戻ってきてからは毎日がハッピーに思える」という言葉が重みを備えているのは、本篇の語り口が月旅行という出来事の本質に軽くでも触れることに成功しているからだろう。

 最後に、一部で語られている「月面着陸は行われていなかった」という説を宇宙飛行士達が一笑に付すくだりまで含めて、100分という手頃な尺ながらきちんと詰め込むべきものを詰め込んである。様式はストレートだが、素材の良さを充分に活かし、アポロ計画の成り行きを魅力たっぷりに伝えることに成功している、良質のドキュメンタリーである。