『ミーアキャット』

『ミーアキャット』

原題:“The Meerkats” / 監督・構成:ジェームズ・ハニーボーン / ナレーション脚本:アレキサンダー・マッコール・スミス / 製作:トレヴァー・イングマン、ジョーオッペンハイマー / 撮影監督:バリー・ブリットン、マーク・ペイン・ギル / 編集:ジャスティン・クリシュ / 音楽:サラ・クリス / ナレーション:ポール・ニューマン / 日本語版ナレーション:三谷幸喜 / ヤッフル・フィルムズ&BBCナチュラル・ヒストリー・ユニット製作 / 配給:GAGA Communications

2008年イギリス作品 / 上映時間:1時間23分 / 日本語字幕:松浦美奈 / 吹替版翻訳:岸田恵子

2009年01月10日日本公開

公式サイト : http://meerkat.gyao.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/10)



[粗筋]

 南アフリカカラハリ砂漠の草薄い原野にぽつぽつと開いた穴のなかから、顔を見せたほんの10cm程度の小さな生き物。成長しても30cmにしかならない小動物ミーアキャットの、生後僅か3週間の個体・コロである。

 ミーアキャットはマングースの仲間とされる哺乳類で、ひと組のつがいを中心に大家族を形成、見張りや狩りなど役割を分担して、過酷な自然を生き延びている。生まれたばかりの子には、兄や姉がそれまで得てきた知恵を与え、新しく役割を引き継ぐ能力を得ると共に、いざとなればひとりでも我が身を守らなければいけない状況に置かれても生きていけるように教育する。

 コロもそんな風に教育を施される――が、どんな生き物でも兄弟の中にひとりくらいは変わり者がいるもので、コロは他の兄弟よりも好奇心旺盛で落ち着きがなく、無鉄砲気味。油断すると群れをはぐれて遠くまで行ってしまい、監督役のお兄さんに面倒をかけてしまう。コロは早く学ぶ必要があった。ミーアキャットが大家族でコロニーを築いて暮らすのには理由がある。はぐれたミーアキャットが生き延びられるほど、カラハリ砂漠は甘くないのだ……



[感想]

 近年常に2・3本は公開されるようになった自然ドキュメンタリーであるが、このジャンルは映画として観たときに、必ずしも楽しめるとは言えないのが難しいところである。豊富に集めた映像素材の中から見応えのあるものを鏤め、迫力を演出したとしても、それが観客の歓心を惹き続けるきっかけになるとは限らないからだ。本質的にストーリーを構築しづらいこのジャンルは、牽引力を保つのが困難なのである。そんななかで、“家族”を軸にした物語をフィクション的に構築して、1篇いっぱい観る側を牽引することに成功、高く評価されたのが『皇帝ペンギン』だった。

 本篇はそれに触発され、ひとつの生物に着目してストーリーを構築する形で作られている。さすがにスタイルを継承しただけあってより洗練されており、作中ほとんど退屈させられることがない仕上がりとなっているが、驚かされるのは、そこに不自然さを感じさせない映像の量だ。BBCはこれまでにも『ディープ・ブルー』『アース』と優秀な自然ドキュメンタリーを製作しているが、それらを支えた圧倒的な素材の多さは本篇の完成度にも寄与している。

 本篇で特に驚かされるのは、まさにミーアキャットの視点としか言いようのない撮影の仕方だ。目線の高さで撮られた映像の数々を前にすると、視点人物として扱われているコロやその家族に自然と感情移入してしまう。ミーアキャットの目で見るキリンの大きさ、迫り来るコブラの姿など、彼らの感覚をリアルに追体験しているように思えてくるのだ。その視線のリアリティが、物語の完成度を補強している。

 しかし、そういう映画好きの目線を抜きにしても、本篇はただ観ているだけで楽しめる映像が揃っている。巣穴の中で固まって暖を取っている姿や、日向ぼっこをしているときに、あまりの暑さでへたり込んでしまう様子、そして大人も子供も問わずじゃれ合っているさまなど、思わず口許が緩んでしまうくらいに愛らしく、同時にとても親近感を覚える。その行動は猫や犬を彷彿とさせる部分もあるが、教育の存在やコミュニティの重要性など、人間に似たところが非常に多い。容姿や仕草も充分にキュートだが、そうした近しさが心地好さを観る側に齎すのだろう。

 この作品のストーリーは、コロと名付けた個体が大人になっていく過程を辿っている。仲の良かった兄が天敵に殺されたり、長すぎる干魃で家族全体が窮地に陥ったりと展開に緩急もあり、終盤においては、それまでの描写を踏まえて成長を実感させる伏線の妙まで凝らしているほどで、物語としての完成度がシンプルながら非常に高い。また、決してダイレクトではないが、きちんと自然の厳しさを盛り込んでいて、描き方も公正だ。

 見事な匙加減で丁寧に作りあげられた、年齢の区別なく楽しむことの出来る優秀な1本である。相当な数の映画を観てきた目からも唸らされる出来だが、しかしやはりここは製作者に敬意を表するためにも、是非とも子供たち、そして家族勢揃いで観ていただきたい作品だと申し上げておこう。



 本篇は、先頃亡くなった名優ポール・ニューマンがナレーションを手懸けた、実質的な遺作ということでも話題となったが、私が訪れた劇場では日本語吹替版のみの上映だったため、生憎最期の“演技”は確かめられなかった。吹替版のナレーションを担当したのは脚本家の三谷幸喜だったが、素朴でちょっと愛嬌のある語りは思いの外作品の雰囲気に嵌っている。もし敢えてポール・ニューマンの声に聴き惚れたい、という想いが強いとか、そういう事情がないのであれば、字幕に注意を奪われる恐れのない吹替版で鑑賞することをお勧めしたい。