『シューテム・アップ』

原題:“Shoot'em Up” / 監督・脚本:マイケル・デイヴィス / 製作:スーザン・モントフォード、ドン・マーフィ、リック・ベーター / 製作総指揮:ダグラス・カーティス、トビー・エメリック、ケール・ボイター / 撮影監督:ピーター・パウ / プロダクション・デザイナー:ゲイリー・フルトコフ / VFX監修:エドワード・J・イラストーザ / SFXコーディネーター:コリン・チルヴァース / 編集:ピーター・アマンドソン / 衣装:デニース・クローネンバーグ / 音楽監修:ダナ・サノ / 音楽:ポール・ハスリンジャー / 銃器スペシャリスト:チャールズ・テイラー / スタント・コーディネーター:エディ・ペレス、ジェイミー・ジョーンズ / 出演:クライヴ・オーウェンポール・ジアマッティモニカ・ベルッチ、スティーヴン・マクハッティ、グレッグ・ブライク、ダニエル・ピロン、ジュリアン・リチングス、ラモーナ・プリングル / 配給:MOVIE-EYE

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間26分 / 日本語字幕:風間綾平

2008年05月31日日本公開

公式サイト : http://www.shootemup.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2008/05/31)



[粗筋]

 深夜、場末のバス停、座っている男(クライヴ・オーウェン)がひとり。その前を、大きな腹を抱えた女(ラモーナ・プリングル)が焦りながら走り抜け、路地に逃げ込んでいく。そのあとを追っていく男が、拳銃を抜いてバス停の男を不敵に睨みつけたかと思うと、路地に入っていった。続いて上がった女の悲鳴に、バス停の男は立ち上がり、路地裏に向かう。女は携帯していた銃で応戦しようとしていたが、粗悪な銃で腕も悪く、まるで当たらない。せせら笑う襲撃者を、バス停にいた男は手にしていたもので倒してしまった。

 だがすぐさま追っ手が現れ、男は産気づいた女を建物の中に匿うと、その場で出産させながら、見事な射撃術で応戦する。どうにか子供が産まれ、逃げ延びようとしたが、途中で女は銃弾を浴び絶命してしまう。もともと何の縁もゆかりもなかった女とその産まれたばかりの子供、置き去りに――は、していけなかった。男は赤ん坊を抱えてその場を脱出する。

 途中、イヤフォンをつけたスーツ姿の男(グレッグ・ブライク)の襲撃に遭いながらも辛うじて切り抜けると、自分の手には負えないと、赤子を公園に置いていこうと試みる。しかし、先刻襲撃した男たちを仕切るボス(ポール・ジアマッティ)が狙撃していることに気づくと、ふたたび赤ん坊を回収して逃走した。

 どうやら、あの連中とのカタをつけなければ、子供が平穏に生き延びることは難しそうだ、と察した男は本格的な対決を覚悟し、子供を預けることにする。選んだのは、彼がたまに足を向ける娼館にいる、ドンナ(モニカ・ベルッチ)という女――母乳が出ることを活かしたサービスを行うこの女に一時的に預けて始末をつけようとしたのだが、ドンナはろくに素性を明らかにせず、“スミス”としか名乗らないこの男に不審を抱いており、彼を拒絶した。

 そうこうしているあいだに、襲撃者のボスであるハーツは、赤ん坊の面倒をみながらの逃走、という事実から、男が乳母や母乳の出る娼婦を頼っていると推測し、あっさりとドンナのところまで辿り着く。ハーツはドンナに男――“スミス”の行方を聞き出すため、拷問まがいの手段を取るが、その間にスミスはハーツの部下を一掃、ドンナと赤ん坊もろとも娼館を脱出する。

 通りすがりの一匹狼が背負い込んだ赤ん坊と娼婦の命、果たして“スミス”は無事に護りおおせることが出来るのか――?



[感想]

 ……これは本当に素晴らしい。

 とにかく、みっちりと実の詰まったアクション映画である。冒頭、ニンジンを囓るクライヴ・オーウェンのアップでいきなり度胆を抜くと、ほとんどすぐさまアクション・シーンに突入する。しかもその荒唐無稽でパワフルなことといったら。壁も窓枠も無視して縦横無尽にかけずり回り、やって来たゴロツキどもを文字通り薙ぎ倒していく。しかも、銃撃戦のさなかで女のお産を手助けするのだから、無茶苦茶も極まりない。当然のように臍帯は発砲して切り落とす。

 この冒頭シーンでたっぷり魅了すると、あとはそのテンションを落とすことなく、最後までアイディアをふんだんに盛り込んだアクション・シーンを畳みかけてくるのだ。トイレに落とした銃を、敵がやってくるまでに乾燥させようとしたり、ロープで吹き抜けを滑り降りながら階段の敵を薙ぎ倒し、カーチェイスでは敢えて正面から衝突して、相手の車に乗り移り内側から一掃する。息をつく暇をちゃんと用意しつつも、ダレることなど想像しようもない連続技にただただ痺れるほかない。

 あまりに破天荒な展開ながら、しかしそれに説得力の備わるキャラクターをきちんと主人公に据えているのも巧い。途中の会話で次第に明らかになっていくのだが、この男は実にキレやすい。虫の好かない人間に対してはとことん悪意を向ける。作中でも、障害者専用の駐車区画に駐めた健常者の車を選んで盗み、ウィンカーを出すことなくむやみに車線変更をする車を追って事故に遭わせ、人目を惹きつけるための手段として、子供に暴力を振るう親の尻をぶつ、といった具合に恐ろしく容赦がない。そんな男だからこそ、狙われた赤ん坊を放り出すことが出来ず好んで戦いに赴く。金がないので、途中で些少ながら補充したことを除けば、基本的に武器は倒した部下から奪い取る。拳銃よりも、好んで食する堅く細いニンジンのほうをまともに常備しているのがまた素敵だ。これまでシリアスな作品の多かったクライヴ・オーウェンがこのひと癖あるヒーローを見事に演じている。

 そんな彼と戦いを繰り広げる敵側のボスも実にいい味を出している。極めて頭の切れる男だが“スミス”に比肩するくらいキレやすい。その方向性が反社会的であるために、“スミス”といい対比になっている。その一方で、どれほどのトラブルに見舞われていても、携帯電話に妻からの着信があればすぐに出て、そちらを優先するのだ。名バイプレイヤーとして知られるポール・ジアマッティだが、これほど楽しそうに演じているのを見たのは初めてという気がする。

 この、どちらか単体でも充分に主役として成り立ちそうなキャラクターの組み合わせが、本篇の追跡劇とアクションとに知的かつ凶暴なスリルを齎している。よくよく検証すれば、あまりに過程が不透明だったり、動きが物理法則を超越している場面もあるのだが、キャラクターとアクションごとの趣向があまりに魅力的で、ほとんど気にならないのだ。

 血飛沫は派手に舞い、幾つかのアクションの趣向はお子様にはとうてい魅せられない代物でもあり、生真面目な方にはお薦めしづらい。しかし、クエンティン・タランティーノロバート・ロドリゲス、『リベリオン』や『アドレナリン』といった、振り切れたアクション映画を愛好する向きなら、とことん痺れる仕上がりになっている。

 本当によく実が詰まっていて、本筋の戦いが幕を下ろしたあとも更にもうひと幕用意されている。あり得ない状態から、そこまでに提示されたキャラクターをきちんと活かし、かつ重要なアイテムを用いて派手に締める。このサービス精神の豊かさはただ事ではない。

 プログラムでも指摘されているように、随所にアメリカの社会情勢に対する皮肉も盛り込まれているが、しかしその上で「だからどうした?!」と言わんばかりに突っ走る、その姿勢が実に堪らない。

 観終わった途端に、もう一度観たい、という気持ちにさせてくれる作品はそうそう多くない。本篇は稀有の例外であり、アクション映画好きの魂を震わせる、驚異的に振り切れた1本である。充実感と共に席を立ったときには、きっとあなたも大好きになっているはずだ――ニンジンが。