『アース』

原題:“earth” / 監督:アラステア・フォザーギルマーク・リンフィールド / 脚本:デヴィッド・アッテンボローアラステア・フォザーギルマーク・リンフィールドレスリー・メガヒー / 製作:アリックス・ティドマーシュ、ソフォクレス・タシオリス / 撮影:リチャード・ブルックス・バートン、アンドリュー・シラビーア、マイケル・ケレム、牟田俊大、他 / 編集:マーティン・エルスバリー / 録音:ケイト・ホプキンス / 作曲・指揮:ジョージ・フェントン / 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 / 出演:ホッキョクグマアフリカゾウ、ザトウクジラ、アムールヒョウ、ライオン、チーター、ホオジロザメ、ゴクラクチョウ、アネハヅル、他 / ナレーション:パトリック・スチュアート / 日本語吹替版ナレーション(コンダクター):渡辺謙 / 製作:BBCワールドワイド、グリーンライト・メディア / 配給:GAGA Communications

2007年ドイツ・イギリス合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:風間綾平 / 吹替版翻訳:桜井文

2008年01月12日日本公開

公式サイト : http://earth.gyao.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2008/01/12)



[粗筋]

 約50億年前、ひとつの隕石が衝突したことで、地球の地軸は太陽に対して23.5度傾くことになった。この出来事が、のちに地球上に極めて多様な生命が誕生するのに大きく寄与することとなる。冬に一ヶ月以上太陽の昇らない時期のある南北の極地は氷によって閉ざされながら、そのことで遠大な“渡り”を行う動物たちの凄絶なドラマを作りだす。一年を通して温暖な赤道近辺には世界中の動物の種が大半棲息し、華々しい生を謳歌する――

 いま、この豊饒の惑星を北から南へ縦走して、各地の過酷な、或いは特異な環境に適応して生き延びる動植物の姿を辿ってみよう。そして、この星に何が起きているのかを、心に刻みつけておこう――



[感想]

 ここ数年、大自然をテーマにしたドキュメンタリーが隆盛となっている。その端緒となったのは、渡り鳥を至近距離から撮影して、謎の多かった移動の行程をつぶさに捉えてアカデミー賞の候補ともなった『WATARIDORI』あたりに見出すことが出来るだろうが、こうした流れの決定打となり、ジャンルとして定着することを成功させたのは、2003年製作の『ディープ・ブルー』であった。本編はその共同監督のひとりアラステア・フォザーギルをはじめ、同作のスタッフを中心に力を結集して作りあげた、大自然ドキュメンタリーである。そして現時点でその頂点に立った作品と捉えて差し支えあるまい。

 こうしたドキュメンタリーは往々にして、映像的に迫力はあるものの、物語のような具体的な筋道に欠くため、観ているうちに退屈を催しがちだ。凄まじさと歴史的な意義を認めても、観ていて決して面白いものではない、という評価をそれ故に下している人も少なくないはずである。『ディープ・ブルー』にしてもその轍を免れていない。

 まず本編が優秀であるのは、1時間38分という尺からするとヴォリュームを感じさせるものの、しかしその間まったく飽きさせない点である。多数の動植物、自然遺産についての映像を無秩序と言っていいほど大量に蒐集しているが、それを“北から南へ辿っていく”という趣向を軸に、出来事をリンクさせて語っていくことで、観る側の関心を絶え間なく惹きつける。まず北極におけるホッキョクグマの生態を描いたのちに、やや南下してシベリアなどの寒冷地で渡りをするトナカイと、それを狙うホッキョクオオカミの姿を捉える。そんな彼らが通る、動物にとっては過酷すぎる針葉樹林の様子と、その中で暮らす絶滅危惧種アムールヒョウの貴重な姿……といった具合に、連携が非常に伝わりやすい。

 また、視点をいずれかの種に固定することなく追っていくことで、極地ほど過酷となる生存競争の凄まじさをスリルとして際立たせ、全体の語り口に巧みなメリハリを施していることも、観る側の興味をうまく繋げている。映像の取捨選択にしても、過酷な命のやり取りを描く一方で不意にユニークな姿を押さえてみたりと、ツボを心得ている点にも注目していただきたい。とりわけ、雨期を迎えて豊饒の地となったオカバンゴ大湿地帯で、惑いながら水溜まりに踏み入るヒヒたちの仕種や、求愛行動のために必要な舞台を整えるため熱心にゴミを取り除くゴクラクチョウの姿などは、いっとき観る者の気持ちを和ませる。

 だが、それでも本編のテーマは、環境のあまりに性急すぎる変化への警鐘であることは変わりない。特に象徴的な存在であるホッキョクグマの姿をオープニングとエンディングに盛り込むことで、全体での起承転結もきちんと作りだし、何故環境保護の必要性が訴えられているのか、を極めて解り易く描いている。

 実際のところ、自然における生命体の相互関係というのは決してシンプルには解体できないし、一筋縄ではいかないものだが、少なくともその流れを平易に説いて蒙を啓く、という役割を存分に果たす内容となっていることは間違いない。

 堅苦しい話を抜きにしても、弾道テスト用のカメラをカスタマイズして撮ったチーターの狩りの一部始終や、高感度カメラを用いたライオンの群れによるゾウの狩り、またヒマラヤ山脈を越えて渡りを行うアネハヅルの姿など、粘り強い活動が実を結ぶ貴重な映像群のインパクトと、その洗練された語り口だけでも充分に楽しめる。設定した主題に酔い痴れることなく、無関心な観客でさえも最後まで釘付けにすることも可能なエンタテインメントに仕立てていることこそ、本編を自然主題のドキュメンタリーの頂点と評する所以である。

ディープ・ブルー』などと同様に、長いスパンで鑑賞されていく作品となっていることは疑いないが、やはりこれもDVDなどにて家庭で鑑賞する前に、一度ぐらいは劇場で触れておいて損はないと思う。次第に氷に覆われていく極地の姿や、砂嵐の中を進むアフリカゾウの迫力などは、大きなスクリーンと優れた音響設備があってこそ、実感に結びつくに違いない。