『HERO [劇場版]』

監督:鈴木雅之 / 脚本:福田靖 / 製作:亀山千広 / 企画:大多亮 / エグゼクティヴプロデューサー:清水賢治、島谷能成、飯島三智 / 統括プロデュース:石原隆 / 撮影:蔦井孝洋 / 美術:荒川淳彦 / 照明:疋田ヨシタケ / 録音:柿澤潔 / 編集:田口拓也 / 衣装:佐藤愉貴子 / 音楽:服部隆之 / 出演:木村拓哉松たか子、大塚寧々、阿部寛勝村政信小日向文世八嶋智人角野卓造児玉清松本幸四郎石橋蓮司古田新太正名僕蔵田中要次、伊藤正之、鈴木砂羽奥貫薫MEGUMI眞島秀和国仲涼子綾瀬はるか中井貴一イ・ビョンホン、ペク・トビン、森田一義 / 配給:東宝

2007年作品 / 上映時間:2時間10分

2007年09月08日日本公開

公式サイト : http://www.hero-movie.net/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2007/09/08)



[粗筋]

 変わり者揃いの東京地方検察局城西支部のなかでも、特に異彩を放つのが久利生公平(木村拓哉)である。高校中退のため学歴は中卒、背広を着るのを嫌いジーンズにジャンパーといった軽装で勤務し、趣味はテレビ通販グッズの購入。しかし事件捜査に対する真摯さとその信念の強さにおいて傑出しており、トラブルのために城西支部から沖縄に飛ばされ、その後地方を転々としていたが、鍋島次席(児玉清)の熱心な後押しにより、6年振りに城西支部に復帰した。

 基本的に同僚たちの様子は同じだったが、幾つか変化もある。検事の中村美鈴(大塚寧々)は事務官の末次(小日向文世)のパートナーとして社交ダンスの世界に足を踏み入れていたし、子煩悩で知られていた芝山検事(阿部寛)は妻から離婚訴訟を起こされ苛立っている。前に在籍していたときから久利生の担当事務官を務めていた雨宮舞子(松たか子)は、久利生が復帰してからずっと不機嫌を貫いていた。

 牛島(角野卓造)は離婚訴訟に夢中で集中力に欠く芝山に配慮して、彼が基礎に持ち込んだ案件の法廷を一件、久利生に託す。容疑者がいっさいを自供した傷害致死事件で、審理はスムーズに運ぶと思われていたが、いざ審理が始まった途端に、被疑者・梅林圭介(浪岡一喜)が自供を撤回、無実を主張しはじめた。

 被疑者の弁護に当たっているのは元検事で、現在は驚異の無罪獲得率を誇る敏腕として知られる蒲生一臣(松本幸四郎)。何か不可解なものを感じながらも、久利生は淡々と事実関係の確認に赴く。
 そんな彼の様子を、背後から窺う者があった。捕まえて接触してみれば、それは政治家の汚職など大規模な事件を扱う東京地検特捜部の検事・黛雄作(香川照之)という人物の差し金であった。彼が梅林の事件に関心を示したのは、その一件が現在黛の追う汚職事件において、疑惑を持たれている人物のアリバイと密接に絡んでいたからなのである。

 その人物とは、花岡代議士(森田一義)――それは久利生が前任地で最後に手懸けた大きな刑事訴訟事件の背後に存在した、黒い噂の囁かれる人物であった……



[感想]

 デビュー以来高い人気を誇る木村拓哉の出演作でも特に評価が高く、終了後も根強く人気を維持していたのがこの『HERO』である。2001年に放送され、全話通しての平均視聴率が30%を超えた、というのは近年では稀な数字である。それというのも、作品が木村拓哉の人気や確固たるキャラクターに頼ることなく、主役・久利生公平を取り巻く人物像もユーモラスに生々しく作りあげ、人物同士の滑稽なやり取りや細かな小ネタをふんだんに鏤め、基本的に1話完結の形で作品を綴っていき、面白さと取っつきやすい雰囲気とを構築していったからだろう。木村としては珍しく、5年を経てスペシャル・ドラマとして、更に1年後の今年に劇場版として、続編への出演を承諾していることからも、人気と共に作品の備えた雰囲気の良さを窺わせる。

 劇場版においても、やたらと物語を派手にしたり深刻にしたりすることなく、テレビドラマ版の雰囲気を丁寧に敷衍して崩していない。劇場版ということでキャストは豪華になっているし、絶対に必要と感じないのにわざわざ韓国・釜山まで赴いている場面も存在するにはするが、一般的なテレビドラマの劇場版にありがちな派手さや、物語としての豪華さには向こうとしていない。

 だが、そうしてオリジナルの空気を壊さないことが、本編の場合はいい具合に作用している。現実に地検の支部のメンバーが6年も不動のままであるはずがないのだが、本編のレギュラー・メンバーは見事なほどテレビシリーズのときと変化がない。シリーズ版では事務官の末次だけが嵌っていた社交ダンスに、いつの間にかパートナーとして中村美鈴検事が加わっていたり、不倫中でも子供への電話は欠かさない子煩悩であった芝山貢検事が妻との離婚調停中で、最愛の子供に電話口で「キモい」と罵られるなど、時間が経過しているだけの変化は多少なりとも存在するが、関係性も基本的な人物像にもブレがなく、このあいだ初めてシリーズを観た人でも、久し振りに接したという人でも違和感は覚えないことだろう。

 他方で、事件の背景として昨年放送されたスペシャル・ドラマにて語られた事件に触れるひと幕もあるが、そこでのみ描かれた事実が事件の鍵を握るということもなく、詳細をすっきり忘れていても問題なく楽しめる。これもシリーズの、途中からでも作品に入り込めるという基本を押さえており、スタッフが豊潤な予算を与えられながら、本質的に変わらないことを志向してきたことが窺える。背後にどれほど大きな事件が絡もうとも、そちらに何らかの因縁があろうとも、しかし久利生も地検城西支部の面々も変化はない。寧ろ、事件の流れが彼ららしさを際立たせるように構成されている点にも注目すべきだろう。

 その徹底した姿勢ゆえに、どうしても「わざわざ劇場で観る意味はあるのか」という、通常の映画でもありがちな陥穽に引っ掛かっていることは否めない。しかし、少なくとも単純に水増ししただけではない規模と豪華さはちゃんと備えており、シリーズの劇場版としては充分な完成度を達成している。テレビシリーズを本放送当時であれ劇場公開に合わせた再放送であれ楽しめた方であれば観てまったく損はない。