『伝染歌』

監督:原田眞人 / 企画・原作:秋元康(講談社・刊) / 脚本:羽原大介原田眞人 / 製作:北川淳一 / 撮影監督:藤澤順一,J.S.C.、向後光徳,J.S.C. / 美術:福澤勝広 / 照明:上田なりゆき / 編集:上野聡一 / 衣裳:宮本まさ江 / 音楽:硨島邦明 / 出演:松田龍平大島優子秋元才加伊勢谷友介小嶋陽菜前田敦子堀部圭亮小山田サユリ遊人高橋努、西山知佐、矢島健一矢柴俊博中村靖日池津祥子木村佳乃阿部寛、AKB48 / 制作プロダクション:エンジンネットワーク / 配給:松竹

2007年作品 / 上映時間: 2時間8分

2007年08月18日日本公開

公式サイト : http://www.densen-uta.jp/

シネマート六本木にて初見(2007/08/29)



[粗筋]

 いささか厳しい指導のために周囲からは“鬼あんず”と呼ばれている、女子高のトライアスロン部主将・夏野あんず(大島優子)はある日、親友の香奈(前田敦子)が放課後の教室でひとり、歌を歌っているのを見つける。声をかけると彼女は太刀を手に、「お先に」とあんずに呼びかけて、自らの首を切った……

 同じ頃、コンビニでの販売を中心とするサブカルチャー雑誌『MASACA』の編集部員である長瀬陸(松田龍平)は、趣味で赴いたAKB48のイベント会場で、“歌った人間を自殺に導く歌”の噂を知り、編集長であるチーフM(堀部圭亮)に調査を提案する。チーフMは承諾し、陸を先輩編集部員・太一太一(伊勢谷友介)と組ませて、実際の自殺者の周辺などを探るよう命じた。

 陸と太一は早速香奈の葬儀に赴く。ふたりは香奈の友人らしき一団を見つけてあとをつけるが、遅れてやって来たひとりの少女が彼女たちに因縁をつけ、突如として口論が巻き起こる。ここぞとばかり口を挟み取材を始める陸たちだったが、香奈の友人たち――つまりあんずたちは聞く耳を持たず、さっさとその場を立ち去る。ただ、あとからやって来て、あんずたちを「香奈を虐めていたんじゃないのか」と問い詰めていた少女だけは陸たちに付き合った。この少女、松田朱里(秋元才加)は実はAKB48の一員で、客席にいる陸のことをちゃんと記憶していたのだ。個性的な陸と太一の言動にも興味を覚えたらしい朱里は、自分から進んでふたりの“取材”に容喙する。

 一方のあんずも、トライアスロン部員たちの動揺を前に、香奈の死の背景を調べずにいられなくなった。死の直前に香奈が接触していた男――コージはどうやら他の生徒にも声をかけ、かなりのプレイボーイぶりを発揮していたらしい。彼が何か知っているのでは、と思い踏み込んでみると、そこには同様に真相を求めてやって来た陸たちの姿と、だいぶ前に自ら命を絶ったコージの骸があった。

 あんずたちが警察に第一発見者として取り調べられるのを望まないことを見越したチーフMは、電話で指示を求めた陸に対し、実験に協力することを条件に彼女たちをその場から逃がすよう言う。“死を招く歌”と言われる『僕の花』は十年ほど前に発表されたものだが、カラオケボックスで歌うことが出来る。そこで彼女たちに歌わせて、本当に自殺してしまうのか試してみよう、というのだ。

 全面的に賛成は出来ない陸をよそに、太一は言葉巧みに少女たちを納得させて、現場からの脱出を手引きする。逃げ遅れた陸とあんず、そして朱里をよそに、太一たちは早速カラオケボックスで『僕の花』を歌う。戦場からも生き延びた剛の者である太一は自殺などしないと豪語し、少女たちの防波堤になることを宣言していたが……



[感想]

 企画・原作が『着信アリ』の秋元康、出演が彼もプロデュースに携わる秋葉原地区密着型のアイドル・ユニットAKB48のメンバー中心――となると、まるっきり対象限定のゆるい作品に仕上がっていそうな印象を受けてしまう人も多いだろう。こう書いているくらいだから、私自身そういう先入観があったのだけれど、実際に鑑賞してみるとなかなかどうして、想像よりも遥かにしっかりした“映画”となっている。

 ホラーとして怖いか、と訊ねられると、首を捻らざるを得ない。率直に言えば、大して怖いという気にはならないのだ。むしろ、生々しいけれどユニークな人物造型と、はっきりと笑いを狙った描写が際立って、恐怖の描写というのはあまり記憶に残らない。ありがちな虚仮威しもほとんど用いていないので余計に、怖かった、という印象が希薄になっているようだ。

 代わりに本編には終始、不穏な空気がつきまとっている。陽気だけれどどこか拠り処を欠く女子高生たちの姿と、個性的だが底に危うさをちらつかせる『MASACA』編集部の言動とが、怪奇現象の数々とは別の次元で薄気味悪いものを感じさせるのだ。この雰囲気はホラーというより、一種の青春群像劇のそれに近い。

 そうして捉えると、作品全体が青春、モラトリアムにある人々特有の“ゆらぎ”を描くことを中心としている、と理解することが出来る。上の粗筋のあと、強気に「自分は死なない」と断言していた太一も死に赴き、あんずの級友も、意外な事実を道連れに死を選ぶ。そこには確かに“死を招く歌”の呪いのようなものもちらついているが、しかしそれ以上に彼らの不安定な自意識というものが窺える。話の文脈に囚われている限り――また製作者も敢えてそう促している気配があるように――あくまで奇怪な呪いの影響を受けて死を選択したように映るが、その実、呪いを切り離しても彼らの死には動機が成立するように描き出されている。こうした点が、ユーモラスな人物や出来事の描写だけでは生じ得ない、ホラーとしては特異なムードを作りだしていると言える。

 ホラーらしい間の演出や定番のガジェットに囚われることなく盛り込まれた描写の数々は、本編に文芸作品のような香気を齎すことにも成功している。カメラワークや色遣いにさえ、一般のホラーにはないこだわりや趣向がふんだんに盛り込まれており、その点からも一風変わった印象を受ける。直接的ではないとはいえ流血や凄惨な状況の描写があるのに、そこから過剰なショックを与えることを避け、あくまで雰囲気で恐怖を盛り上げようとしているため、近年コンスタントに新作が供給される日本のホラー映画の中でも飛び抜けて絵に品がある。そのうえ、練達の監督らしく構図にも配慮が行き届いているから、映像自体にもインパクトが備わっているのだ。

 怖かったか? と訊ねられたら、正直首を傾げるほかない。だが、面白かったか? と問われたなら、確信と共に頷くことが出来る。よくよく検証すれば話運びにはいちいち穴があり、さすがに説明不足の感が否めない箇所も多いのだが、そういうところを検証することまで含めて、終始「楽しい」と感じられる、良質の娯楽映画であり、深みも備えた芸術品であると思う。私はもうホラーには慣れ親しみすぎてこういう評価をせざるを得ないものの、或いはホラーに馴染みの薄い一般観客ならばそれなりに恐怖も味わうことが出来るだろう――絶対、とは言わないけれど。

 いずれにせよ、もしただのアイドル映画だと捉えて回避しているのなら、それはちょっと勿体ないぞ、と申し上げるぐらいのことはしておこう。アイドル映画としても優秀であるが、その枠に収まるような代物でないことだけは確かだ。