『ベクシル 2007 日本鎖国』

監督:曽利文彦 / 脚本:曽利文彦、半田はるか / エグゼクティヴ・プロデューサー:濱名一哉 / プロデューサー:中沢敏明、葭原弓子、高瀬一郎 / 美術:菱山徹 / キャラクターデザイン:安岡篤志、南志安永 / メカデザイン:中山大輔野村和也、南志安永、竹内敦志 / CGスーパーヴァイザー:松野忠雄 / 音楽:ポール・オークンフォールド / 主題歌:mink『Together Again』(avex entertainment) / 声の出演:黒木メイサ谷原章介松雪泰子大塚明夫朴ろ美櫻井孝宏森川智之柿原徹也 / 制作:OXYBOT / 配給:松竹

2007年作品 / 上映時間:1時間49分

2007年08月18日日本公開

公式サイト : http://www.vexille.jp/

ヤクルトホールにて初見(2007/07/18) ※試写会



[粗筋]

 21世紀半ば、日本はハイテク大国として世界に君臨しつつあった。だが、国際的な規制の波に異を唱える日本政府は、驚異的な技術力でもって完全なる鎖国を実現する。

 それから10年を経た2077年。現在日本を技術面で牛耳り、国際的にも影響力の著しい大和重鋼がアメリカ国内に所有する屋敷で、非公式の国際会議が開催されるという情報を得た政府は、対外諜報活動を専門とする特殊部隊SWORDを派遣する。SWORD所属の少尉ベクシル(黒木メイサ)は熾烈な戦闘の果てに逃走した大和重鋼の幹部サイトウ(大塚明夫)の足にしがみつき追い縋ろうとするが、サイトウは何と、自らの足を切り落としてベクシルを振り払う。

 回収した足の鑑定を行った政府は、それが極めて精巧なナノ・マシンによって構成されたサイボーグであることを知り驚愕する。そこに無数に鏤められた、国際条約違反の技術を口実に、政府はこれまで積極的に介入することを避けていた日本への潜入調査を実施する。指揮をするのは、鎖国以前の日本に滞在した経験があるレオン(谷原章介)。プライベートで彼とは恋人同士でもあるベクシルは、任務の決定以来屈託のある彼の様子が気に掛かったが、準備は粛々と進む。任務は、電気的なフィールドに覆われた日本の現在の状態をスキャン可能にするために、内部から信号を打ち出すこと。

 海中からの潜入は成功したかに見えた――が、港では既に足を元に戻したサイトウとその部隊が待ちかまえていた。同僚の死、レオンの尽力によってベクシルは辛うじて難を免れるが、しかし意識を失ってしまう。

 目醒めたとき、彼女はいずこかの民家にいた。何やら妙にベクシル達の事情に通じていると思しいマリア(松雪泰子)の話を遮るように飛び出したベクシルが目撃したのは、意外な光景であった……。



[感想]

 近年の3Dアニメーションの発展は眼を瞠るものがある――その一方で、不思議なことに脚本・演出の面ではいまいち、という印象が強い。わたしにとってその印象の源は『APPLESEED』という作品である。士郎正宗という、漫画界では評価の高い作家の原作に基づくものだが、未完のまま終わっており、映画の中で独自に施したとみられる解釈やシナリオがことごとく破綻していた。技術ばかりが際立って、それを活かす術をまったく身に付けていない、というのが率直な評価であった。

 本編はその『APPLESEED』でプロデューサーを務めた曽利文彦が自ら監督となって作りあげた、オリジナル長篇である。くだんの作品のときよりも更にレベルの向上した3Dアニメーションを駆使しているが、しかし観た印象は、「CGの技術はまだまだ」というのが率直なものだった。ディズニーやドリームワークスのような3DCGで一時代を築きあげつつある制作会社で発表する作品はいずれもモンスターであったりデフォルメされた生物、著しいところでは擬人化された車なんてのもあるが、いずれにせよ“人間”をリアルに描くことは避けている。そこに敢えて挑戦している分よけいに意識させられるのだが、未だ3DCGの技術は人間の繊細な動きを、当の人間に違和感なく見せるところまでは達していない。『APPLESEED』と比べて進歩したと言っても、細かな所作は硬く、ことキスシーンのようなしっとりした場面ではまるでマネキンのように見えるのは如何ともし難い。

 だが、脚本や演出については、前作での反省を踏まえたのか比較的洗練されている。『APPLESEED』あたりはまだまだ自慰的な感しか抱かなかったが、本編は意識の流れや伏線をきちんと構成しており、だいぶ観られるレベルにありまとまっている。内容的にはディストピア・テーマであり、その枠のなかではごく王道の話運びであるが、そこに大きな無理がない。

 ごく細かいことを指摘すれば、いったいどうして短期間であそこまで日本国内が荒廃したのか、逆に中心人物たちがどんな手続きを経てああいう立場に就くことが出来たのか、という点にあまり説得力がないのが気に掛かる。その辺を解説しすぎると却って興醒めとなる場合もあり、必ずしも悪いというわけではないのだが、それを観る側に納得させるほどの骨も力強さも感じないのが問題だ。とはいえ、全体を通しては少なくとも最低限の定石をわきまえているので、観ていて苛立ちを感じることはなかった。

 特に、定石通りとはいえ、物語の鍵を握るジャグという“化物”の扱いは巧い。カタルシスを齎すと共に、シチュエーションに似つかわしくグロテスクな美しさを宿したラストシーンにもきっちりと奉仕している。

 こうした作品でいちばん気になることの多い、一般の俳優を用いた声も、予想していたよりずっと嵌っていた。肝心のベクシルが、特務部隊に所属するほどの人間にしては喋り方が幼すぎる嫌いがあるが、冒険ものという観点からすれば熱血なキャラクターや位置づけからすれば順当な肉付けと言える。また潜入した日本で巡り逢うマリアのクールさとの対比も成り立っているので、全体から見ればいい演技と言えよう。個人的には、折角ふたりを繋ぐキャラクターに谷原章介という美声をあまり活用しきっていないことが惜しまれるが、それはさすがに望みすぎというものだろう。

 随所に細かな疑問が残るし、プロローグ・エピローグに用いたテロップとナレーションがあまりに表現として陳腐・稚拙すぎるなど、やはり普通の映画として捉えると上出来とは言いにくいのだが、トータルではこの手の3Dアニメーションとして珍しく、映像・シナリオとも一定の水準を達成した秀作と評価していいだろう。わたしと同様に3Dアニメーションに対して偏見のある方も、一回ぐらいは観ておいて損はないだろう――評価できると感じるかどうかは別にして。