『エリザベス 女王陛下の微笑み』

TOHOシネマズシャンテの入っているビル外壁にあしらわれた、『エリザベス 女王陛下の微笑み』キーヴィジュアル。
TOHOシネマズシャンテの入っているビル外壁にあしらわれた、『エリザベス 女王陛下の微笑み』キーヴィジュアル。

原題:“Elizabeth : A Portrait in Part(s)” / 監督:ロジャー・ミッシェル / 製作:ケヴィン・ローダー / アーカイヴ・プロデューサー:エリック・トーマス、レベッカ・オコナー・トンプソン / 編集:ジョアンナ・クリックメイ / 音楽:ジョージ・フェントン / 音楽プロデューサー:イアン・ニール / 出演:エリザベス2世女王、フィリップ王配、チャールズ皇太子、アン王女、アンドルー王子、エドワード王子、ヴィクトリア女王、ジョージ6世、エリザベス王妃、マーガレット王女、ウィンストン・チャーチル、デイヴィッド・キャメロン、ルイーズ、ザ・ビートルズ、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、レニー・ヘンリー、ロビー・ウィリアムズ、ドーン・フレンチ、デヴィッド・ウォリアムズ、オードリー・ヘプバーン、ノエル・カワード、オプラ・ウィンフリー、J・M・バリー、ジャッキー・チェン / 配給:STAR CHANNEL MOVIES
2022年イギリス作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / 字幕監修:多賀幹子
2022年6月17日日本公開
公式サイト : https://elizabethmovie70.com/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2022/6/17)


[粗筋]
 2022年、エリザベス2世女王は、英国史上最長となる在位70年、“プラチナジュビリー”を迎えた。先王ジョージ6世の早すぎる死により、25歳の若さで即位した女王は、チャーミングな笑顔で国民のみならず世界中を惹きつけながら、第二次世界大戦後の混乱した国際事情のなか、懸命な立ち居振る舞いを見せた。
 本篇は、膨大な記録から厳選した映像をもとに、“世界で最も有名な女性”と言われる彼女の、様々な側面を切り取っていく――


[感想]
 これほど映像資料に恵まれた人物は、世界を探しても多くあるまい。王室に生まれ、25歳にして王座に就いたとき、既に映像メディアは浸透していた。その立場ゆえに、王位継承以前にも記録があり、現在に至ってもなおカメラに追われている。
 折しも在位70年を記念した式典が盛大に行われた年の公開ゆえに、見たことのない映像、プライヴェートに肉迫した映像で、その素顔に迫れることを期待したのだが――率直に言えば、そういう意味では少々期待外れの感は否めない。
 恐らく極めて貴重な映像は用いられている、と思われるが、正直それが伝わりにくい。あまりにも多くの映像がちりばめられていて、その物量のインパクトが、個々の映像の貴重さ、注目すべきポイントに観る側を惹きつけにくくなっているようだ。
 歴史の一場面を切り取った映像もあれば、プライヴェートな表情も細かに挿入されているのは確かなのだが、物量の前に印象がぼやけてしまっている。就任直後や様々なイギリスの大統領とのひと幕、そしてダイアナ妃の事故に際しての反応など、むろん抽出しなければならない部分もあるが、もうちょっと見せ方に一貫性を持たせるべきではなかったか。歴史との関わりは断片的な映像で綴りながら、その時代ごとの私生活、長年にわたって人びとに親しまれてきたその人柄やウイットが窺えるスピーチや会話、表情に焦点を当てるべきではなかったか。もちろん、そういう映像も多数含まれているのだが、残念なほど印象が曖昧になってしまっている。
 解りやすくしようと、章題をつけてテーマごとに映像、エピソードを抽出するスタイルも、散漫な印象を強めてしまったように思う。もっとテーマを絞るか、時系列が把握しやすい並べ方をすべきだったように思う。
 本篇はコロナ禍により、撮影が困難になったことで、俳優やスタッフが一堂に会さずとも制作できる作品を、と考えた結果、生まれた企画であるらしい。在位70年という節目も企画の成立を後押ししたのかも知れない。現代的でファッショナブルな作品を撮ってきた監督らしく、テンポよく洒脱な作りで、その親しみやすさは評価出来るのだが、如何せん、成立背景も含め、悪い意味で軽く見えてしまう。
 貴重な映像がないわけではない。歴史的なひと幕はもちろんのこと、インタビューでエリザベス女王について語っている姿がそのまんま引用されているポール・マッカートニーや、ロンドンオリンピックの際に撮影されたダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドとの“共演”からも抜粋するなど、欲しい映像を的確に抽出している。よくよく探すと意外な人物も映っていたりするのも楽しい。重厚感や、知られざる女王のプライヴェートな姿に迫るような奥行きは味わいにくいが、70年にわたって敬愛されるその魅力を窺い知ることは出来る。なまじ、歴史に深く食い込み、その姿を記録した映像が無数にあるからこそ、さらっとした掘り下げ方が物足りなく思えてしまうのだろう。


関連作品:
ノッティングヒルの恋人』/『チェンジング・レーン
クイーン』/『英国王のスピーチ』/『女王陛下のお気に入り

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