『DO YOU LIKE HITCHCOOK? ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』


『DO YOU LIKE HITCHCOOK? ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』DVD商品ページ。

原題:“Ti Piace Hitchcock ?” / 監督:ダリオ・アルジェント / 脚本:ダリオ・アルジェント、フランコ・フェリーニ / 製作:カルロ・ビキシオ、ジョアン・アントニ・ゴンザレス、ファブリツィオ・ザッピ / 製作総指揮:クラウディオ・アルジェント、ミゲル・アンヘル・ゴンザレス / 撮影監督:フレデリック・ファサーノ / プロダクション・デザイナー:フランセスカ・ボッカ、ヴァレンティナ・フェローニ / 編集:ウォルター・ファサーノ / 衣装:ファビオ・アンジェロッティ / 音楽:ピノ・ドナジオ / 出演:エリオ・ジェルマノ、キアラ・コンティ、エリザベッタ・ロチェッティ、クリスティーナ・ブロンド、アイヴァン・モラレス、エドゥアルド・ストッパ、エレナ・マリア・ベリーニ、オラシオ・ホセ・グリガティス / 映像ソフト発売元:INTER FILM
2005年イタリア、スペイン合作 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開公開
2006年11月3日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2021/7/10)


[粗筋]
 イタリアのトリノでひとり暮らししながら、大学で映画製作を学んでいるジュリオ(エリオ・ジェルマ)が暮らすアパートの向かいの一室で、ザルボニという年輩の女性が殺害される事件が起きる。
 アルフレッド・ヒッチコック監督作品を愛好していたジュリオは、ザルボニ夫人の死によりひとり娘のサシャ(エリザベッタ・ロチェッティ)に多額の遺産がもたらされる、という事実を知って、娘が反抗に関わりがあるのでは、と疑う。
 だが、サシャには友人といた、というアリバイがあった。ジュリオはまさしくヒッチコックの『見知らぬ乗客』よろしく交換殺人が行われた、と推理する。興味本位で、事件現場に潜入して様子を窺っていたジュリオだが、そのことをサシャに気づかれ、探りを入れられる。
 果たして犯人はサシャなのか? ジュリオは馴染みのレンタルビデオ店でサシャのアリバイを証明した友人フェデリカ(キアラ・コンティ)住所を探り出すと、彼女を追跡し始めた……


『DO YOU LIKE HITCHCOOK? ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』本篇映像より引用。
『DO YOU LIKE HITCHCOOK? ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』本篇映像より引用。


[感想]
 あまりデータがないので断言は出来ないが、クレジットなどから推測するに、もともとテレビ映画として企画・製作された作品らしい。それゆえにか、全体に低予算の趣がある。
 だが、正直なところ、テレビ映画であろうと劇場用作品であろうと、出来がいいとは言いにくい。
 ホラーの名匠ダリオ・アルジェントとサスペンスの神アルフレッド・ヒッチコックの融合、という触れ込みだが、そのつもりで観るとサスペンスとしての雑さが目についてしまう。せっかくの『裏窓』を彷彿とさせるシチュエーションなのに、主人公は肝心の場面を目撃していない――というのはちょっとした肩透かしと受け入れても、まだ状況が不明瞭ななかで安易に“交換殺人”説を唱える主人公の感覚が理解できない。封印されていたはずの犯行現場にあっさりと立ち入ったり、特に見込みもなくストーカーまがいの行動をするくだりなど、むしろ主人公のほうが危なっかしくて、サスペンスとは違うヒヤヒヤのほうが募る。
 全篇を観たあとで展開を振り返っても、不自然なところが多く、釈然としない。そもそも、決して複雑な背景ではなく、まともに捜査していれば、主人公など絡まずとも警察が犯人を逮捕していた、としか言いようのない内容なので、空騒ぎの印象が強い。フィクションとして、警察を意識的に無能に描いていた、と寛容に捉えても、主人公の行動、容疑者や犯人の行動にあまり整合性がなく、全般に釈然としないのだ。
 特に勿体ないのは、ダリオ・アルジェントらしいグロテスクな魅力に彩られた見せ場が、あまり有効に働いていない点だ。どこが、とは敢えて書かないが、シーンとして対を組んだ趣向は興味深いが、それらのシーンが事件の全体像を俯瞰して眺めるとほぼほぼ無意味なのである。むろん、それでも名場面として活きる場合もあるのだが、そもそもそうした展開に至る主人公の振る舞いに一貫性、整合性が乏しいので、カタルシスとしても不充分だし、見せ場としてもあまり快くない。
 ヒッチコックを標榜するにはサスペンスとして不格好な作品だが、その代わり、ダリオ・アルジェントらしさは感じられる仕上がりでもある。意味深なプロローグもそうだし、血飛沫が舞う殺人シーン、細かに挿入される謎めいたカットの趣もアルジェント一流の《ジャッロ》の薫りが立っている。予算が少ないからなのだろう、決して派手な見せ場もカメラワークもないのだけど、制約の強いなかだからこそ、アルジェントの個性が際立っているのかも知れない。
 ぎこちない語り口も含め、アルジェント作品が好きなひとなら楽しめると思う。しかし、ヒッチコックというタイトルに期待するのは御法度だ。


関連作品:
歓びの毒牙(きば)』/『わたしは目撃者』/『4匹の蝿』/『サスペリア PART2 <完全版>』/『シャドー』/『スリープレス』/『デス・サイト』/『ジャーロ
サスペリア・テルザ―最後の魔女―』/『ダリオ・アルジェントのドラキュラ
スパニッシュ・アパートメント
見知らぬ乗客(1951)』/『裏窓』/『サイコ(1960)』/『めまい(1958)』/『北北西に進路を取れ』/『

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