あまりにも過酷な対話。

 相変わらず作業がキツキツです。しかし、そうしているあいだにも映画は新たに封切られ、いつの間にか上映を終えている。多くは「縁がなかった」と諦めるにしても、ぜんぶ観逃すのは忍びない。気持ちのリフレッシュも兼ねてお出かけです……通常は木曜か土曜に行くのですが、今週は木曜が祝日、土曜日は別の用があるので、ここしかなかったのです。
 曇り空ながら家に帰るくらいの時間までは雨は降らない印象、しかし行き先は日比谷。ここは、いつも使っている駐車場が埋まっていると移動距離、所要時間が大幅に変わってしまう。安全策を取って、今回も電車で赴きました。
 TOHOシネマズシャンテにて鑑賞した本日の作品は、アメリカの高校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者、それぞれの両親が教会で対話を試みる極限の心理劇対峙(2021)』(Transformer配給)。ロッテントマトのスコアが高い、とか各国の映画祭で受賞・ノミネート多数、とかそんなのはどうでもよくて、この設定にひたすら惹かれて「観に行かねば」と思い続けていた1本でした。
 ……危うく泣くところでした。これは凄い。
 ある意味で、もっとも会いたくない者同士の対話。事件から既に6年の時が過ぎ、その中で両者が抱えた苦悩が、最初は手探りの会話から覗き、やがては迸るような衝動と共に露わになる。それぞれに、我が子の行為、我が子を襲った悲劇に、様々なかたちで向き合いながらも、生じた大きな空白を埋められずにいるのが窺え、穏やかでありながら強烈にヒリヒリします。
 圧巻は後半です。次第に噴き出していく双方の感情、しかし同時に、それぞれが事実を知ろうとして、しかしどこまで追求しても終わりがないことを悟り絶望していることもお互いに気づいてしまう。やがて生まれてくる気配、そしてある意味当然で、そしてどうしようもなく遣る瀬ない結末。
 そこで語られる双方の心情がいずれも頷けてしまうだけに、本当に苦しい。しかも、本篇の対話を経ても決して解決にはならないし、どうしようもないしこりは残る。けれど、終盤で言葉にされる理解と決断は、それ自体が、苦悩に満ちた世界に差すひと筋の光となっている。
 序盤、中心人物である4人が会合を催す聖公会のセッティングを妙に繊細に、神経質に描いているのが最初は不思議なのですが、そこから既に始まっている配慮、警戒までもがきちんと舞台装置になっている。ほぼひとつの部屋で繰り広げられ、たったのひとコマも回想シーンなど用意していない。なのに、その向こうに横たわる事件と、横たわる苦しみが覗いてくる、観ていてとても辛い、しかしだからこそ言葉のひとつひとつが沁みてくる傑作。現時点で、今年のマイベストのなかに加わる、と言い切れるくらいに。

 鑑賞後、きょうはつけ麺を食べたい心境だったので、前々から所在地はだいたい把握していたけどいちども脚を運んでいなかったお店へ。途中、お腹が反乱を起こしかかったのをどうにか静めて、なんとか辿り着き、無事食事にありつきました。

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