沈黙が作り出す悲劇のパズル。

 きょう観に行ったのは、母も観たがっていた作品です。そうなると、時間を合わせる都合で、日付を決めたら動かせない……台風の影響で大雨の可能性が示唆されるようになった木曜あたりから、どうしよう、という雰囲気になってましたが、朝の段階ではさほどの降りではなかったので出発。
 ここでやっていたら最優先、と決めているTOHOシネマズ上野にて鑑賞した本日の作品は、東野圭吾原作《ガリレオ》シリーズ9年振りの復活、被疑者の“沈黙”が生み出した悲劇の犯罪に湯川が対峙する沈黙のパレード』(東宝配給)。原作は『容疑者Xの献身』のあと余裕がなくなって読んでませんが、ドラマ、映画はぜんぶフォローしてるので、当然のように観に行った次第。
 大きなアリバイを構築する仕掛け自体は事件序盤で察しがつきましたが、そこに至る展開の緻密さ、そして更なる驚きと哀しみをもたらす背景が秀逸。最悪の被害者と、それに対峙するひとびとの群像劇の様相を呈してますが、登場人物ひとりひとりが際立ってます。特に素晴らしかったのは、事件のきっかけとなる、殺された少女の父親を演じる飯尾和樹と、物語の中心たる事件の現場に住んでいた男を演じる酒向芳――前者は芸人としての色気を捨てた説得力に富んだ表情が、後者は『検察側の罪人』以来の怪演が魅力。他の人物もそれぞれにクセ者揃いで、芝居だけでも見応えがあります。
 劇場版ではシリアスな展開をする《ガリレオ》シリーズの伝統に則った重めの物語ですが、一方でドラマ版の軽さ、謎解きの際の躍動感もちゃんと盛り込んでいて、9年振りだからこその贅沢さも演出してます。そこでなにが面白いんだ、という場面で高笑いするあたりの、湯川の変人っぷりもいい具合に発揮している傍ら、事件を背負い込む友人・草薙を思いやる人間味も醸している。柴咲コウ演じる内海がしたたかに成長した雰囲気を出すのに対し、外見も人間性もあんまり変わっていないように映る湯川ですが、旧シリーズよりも丸くなった印象を受けるのがなかなか興味深い。
 遣る瀬ない展開、どうしても暗澹たる部分を残してしまう結末ながら、徹底して向き合えばこその清々しさも醸し出す締め括りもいい。当初の構想では4時間に及ぶ大作になりかねなかったのを、だいぶ整理して2時間弱に収めたそうですが、その丁寧な整理のお陰で、緊密な秀作に仕上がったのだと思います。シリーズファンはもちろん、それ以外のミステリ愛好家でも満足度の高い1篇。

 最近、母と上野に映画を観に行ったときは、丸亀製麺でテイクアウトを購入して家で食べるのが恒例になってましたが、当初の予報では昼頃に雨脚が強くなる可能性があったため、最寄り駅まで戻って、近くのコンビニを使うつもりでした。
 しかし、予報に反して、降ってはいるけれどかなり小降り。どうしようか、と母と思案し、もういちど決めたからいまさら丸亀製麺まで歩いていくのはめんどー、という結論になって、映画館から駅へと直行するのでした。

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