目に映る世界が壊れていく。

 いよいよ梅雨も本格化して、週末辺りから雨の予報が続きます。バイクでのお出かけは、たぶん今日でしばし打ち止めになる。それ故に、多分に“バイクで行くところ”を条件に観に行く映画を決めた感がなくもない……むろん、優先順位の都合もありましたが。
 赴いたのはTOHOシネマズシャンテ。鑑賞したのは、アンソニー・ホプキンスが下馬評を覆してアカデミー賞主演男優賞に輝いたことでも話題になった作品、ある親子の心の駆け引きを一種サスペンス的な手法で、しかし実感的に描き出したファーザー(2020)』(Showgate配給)。コロナ禍で東京などは緊急事態宣言による映画館の休業が実施されているなかで封切られたので、そろそろ上映も終わるかも、と思いちょっと急いだのですが、なんかシャンテではもうしばらくやるらしい。でもまあ、早く観たかったのでよし。
 ……ベースとなる発想はすごく簡単に表現出来てしまうのだけど、それを書いてしまっていいのだろうか? ぶっちゃけ公式サイトにもズバリ、その単語や趣向が書いてあるんですが、個人的には、それを知らないままいちど観て、その後時間を置いてから再鑑賞すると、より強烈に迫ってくるのでは、と思うのです。
 いままでこういう切り口での表現はお目にかかったことがないし、それをふだんの知性的な佇まいの延長上で見事に体現しきったアンソニー・ホプキンスは確かに極上の演技。主人公の目線に立つことで、こういう境遇に陥ったものの心情が苦しいほどに伝わってきます。
 巧みなのは、作劇的なルールの徹底をあえて――なのか、それとももともと“戯曲”として書かれたがゆえの方便なのか――裏切り、随所で娘の視点からも描くことで、主人公の立ち位置を客観視させていること。これによって、なにが起きているのか、をより克明にする。だからこそ、提示された事実を整理したときに浮かび上がってくる彼女の行動の意味、そしてその苦悩も見えてくる。
 観ているうちに父の側にも娘の側にも、そればかりか、不明瞭に現れる“関係者”たちにも共感してしまう、ディテールに優れながら普遍性の極めて高い傑作。アカデミー賞では主演男優賞と脚色賞の2冠に留まりましたが、ほかの俳優や美術の工夫にも眼を見張るものがあります。本篇は90分程度ですが、ものすごーく実の詰まった作品でした。

 出かけるとき、遠くに見えた黒雲に不安を煽られましたが、映画館を出たときには少し晴れ間も見えていた。安心して、今回もガード下のうどん店にて昼食。ここはサーヴィスでご飯もつけてくれるんですが、どっちかというととことん麺を味わいたかったので、麺大盛りにしました。100円高くなるけど、それでも700円なので充分に安い。
 ……ところで、移動中に気づいたのですが、マリオン向かいの路地にあったラーメン店ひむろの入っていた建物が、周囲の建物もろとも工事を入れていました。このお店、緊急事態宣言などのあいだ、私が眼にした範囲ではずーっと休業していたのですが、とうとう撤退にまで踏み切ったのか、或いは感染症対策なども考慮しての改装を優先したのか。経営企業のサイトにはなんの情報もないし、食べログでは“詳細不明のため掲載保留”となっているし、事情がいまいち解りません。
 けっこう美味しかったので、また訪れたい、と思ってたのに、けっきょく2度目はないままか……或いはまだ経営しているっぽい新小岩店まで行ってみるか?

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