『天空からの招待状(吹替)』

シネマート六本木が入っている建物外壁に掲示されたポスター。シネマート六本木のロビーに展示された雑誌記事など。 天空からの招待状 [Blu-ray]

原題:“看見台湾” / 英題:“Beyond Beauty, TAIWAN FROM ABOVE” / 監督、企画、撮影&編集:チー・ポーリン / 製作総指揮:ホウ・シャオウェン / 音楽:リッキー・ホー / 歌唱:リン・チンタイ / ナレーション:ウー・ニエンジャン / 日本語版ナレーション:西島秀俊 / 配給:ACCESS-A×シネマ・ハイブリッドジャパン / 映像ソフト発売元:Amuse Soft Entertainment

2013年台湾作品 / 上映時間:1時間33分

2014年12月20日日本公開

2015年6月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.tenku-movie.com/ ※閉鎖済

シネマート六本木にて初見(2015/03/18)



[粗筋]

 台湾は5つの山脈が伸びる、雄大な自然に覆われた島国だ。耕作地は狭く、僅かな土地に人々が密集して都市を形成している。

 長年、航空写真家として活動してきたチー・ポーリンはこの台湾の大地に空から目を向け、ありのままを記録してきた。果てしなく伸びる山脈、美しい紋様を描き出す渓谷、そこに息づく生き物たち、そしてもちろん、そこに根付く人々の姿。

 だがそこには、人間が欲望のままに手を加えた結果、刻まれた惨たらしい傷痕も、確かに存在しているのだ――

[感想]

 全篇空撮によるドキュメンタリー映画、という趣向は決して本篇が初めてではない。リュック・ベッソンが製作した『HOME 空から見た地球』は100%俯瞰の映像だけで人間の想像を超える光景を描きだした。

 それに対し本篇は、完全な俯瞰で貫かず、ヘリコプターからやや見下ろす角度での映像を多用している。完全な俯瞰ほどに神秘的な印象はないが、普段は観ることが出来ないものの直感的に理解しやすい映像になっている。

 もともと監督は長年にわたって空撮を手懸けてきた、というだけあって、汲み取りたい情報を俯角の構図の中に組み込むのが巧い。本篇は映っているものについて積極的に説明はしないのだが、ある程度はひと目で把握出来る、或いはカメラアングルが変わることで理解が及ぶように組み立てられている。きちんと計画を立てて撮影している、というのもあるだろうが、恐らくは長年の蓄積がものを言っている。

 そうして序盤で丹念に、台湾の自然の美しさ、雄大さを描いているから、次第に織り込まれていく人間の営みの罪深さがまざまざと浮き彫りになる。上空からの視点で、人間が如何にして自然に負荷を掛けているのか、どれほど本来の姿を歪めてしまっているか、を克明に示していく。堤防や護岸により潮の流れが変化し堆積していく土砂、都市を流れる川から運ばれてくる汚水により2色にくっきりと分断された海など、空撮だからこそ解る異変があまりに生々しく痛々しい。

 ただ、不思議なことに、人間の手が入り惨たらしく変貌した世界にも、それ故のグロテスクな美しさがある。だから、痛ましさに眉をひそめつつも、何故が目を逸らせない。空撮という、ふだん一般のひとが目にすることのない視点からの映像だからこそ、問題に目を向けさせる力を持ち得たのだろう。

 中盤はいささか胃が重たくなるほど多くの問題を提示してくるが、しかし終盤では、打開策となり得るかも知れない風景もきちんと切り取っている。それが唯一の解決策である、とは個人的に思わないが、少なくとも序盤で見せた美しい自然とひとびとが調和していく可能性を示した終盤は、それまでの重さを和らげてくれる。

 そして最後には、いままで風景の一部であったひとびとが、空を行くカメラへと顔を向け、踊ってみせたり、手を振ったり、と行動を示す。この瞬間、神に等しい視点で映像を追っていた観客は、にわかに被写体である人々の間近に引き寄せられる。この世界の一部であることを実感させられる。その浮遊感にしばし酔い痴れるが、同時に、中盤で描かれた出来事を、改めて自分の暮らす世界の一面として認識もさせられる。大地からのメッセージを、巧みに観客の心に刻みつけてしまう。

 長年空から郷里を撮り続けてきた監督が、空より眺める大地から読み取ったメッセージを、観客に送り届ける。“天空からの招待状”はあくまで邦題ではあるが、この作品の趣旨と魅力とを的確に表現した、いいタイトルだと思う。

 この感想を仕上げるために、3年半ぶりにDVDで再鑑賞したのだが、その際に改めて調べてみたところ、本篇の監督チー・ポーリンは、残念ながら2017年に亡くなったという。まさにこの作品の続篇の撮影中、搭乗していたヘリが墜落してしまったのだそうだ。

 それまでに撮影された映像は、当初から監督が空撮パートで参加予定だったドラマのなかで活用されたという。映像が世に出る機会を与えられたことは幸いだが、本篇を経て、どんな切り口で続篇を製作するつもりだったのか、知る手立てが失われてしまったことは惜しまれる。

 しかし、一時代を独自の切り口で描きだした本篇は、長く人々の記憶に留まるに違いない。

 ……とか綺麗にまとめましたが、感想を棚上げにしているあいだに、観た劇場も監督もこの世から去ってしまったことにちょっと愕然としております。映画感想をほったらかしにする期間として3年半は我ながら長すぎるとは思いますけど、さすがにそこまで状況変わるには早すぎだと思う。そしてもったいない。

関連作品:

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