『アメリ』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン2入口前に掲示された案内ポスター。 アメリ [Blu-ray]

原題:“La Fabuleux Destin D’Amelie Poulain” / 監督:ジャン=ピエール・ジュネ / 脚本:ギヨーム・ローラン、ジャン=ピエール・ジュネ / 製作:クローディー・オサール / 撮影監督:ブリュノ・デルボネル / プロダクション・デザイナー:アリーヌ・ボネット / 編集:ハーヴ・シュナイド / 衣裳デザイン:マドリン・フォンテーヌ / 音楽:ヤン・ティルセン / 出演:オドレイ・トトゥマチュー・カソヴィッツ、リュフュス、ヨランド・モロー、アルチュス・ド・パンゲルン、ウルバン・カンセリエ、ドミニク・ピノン、モーリス・ベニシュー、クロード・ペロン、ミシェル・ロバン、イザベル・ナンティ、クレール・モーリエ、クロチルド・モレ、セルジュ・メリン、ジャメル・ドゥブーズ、ロレーラ・クラヴォッタ、アルメレ、フローラ・ギエ、アモーリー・バブー、ジャン・ダリー、ティッキー・オルガド、アンドレ・デュソリエ / 初公開時配給&映像ソフト発売元:Albatros Film / Blu-ray版発売元:Sony Pictures Entertainment

2001年フランス作品 / 上映時間:2時間1分 / 日本語字幕:齋藤敦子

2001年11月17日日本公開

午前十時の映画祭8(2017/04/01〜2018/03/23開催)上映作品

2016年9月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video期間限定版:amazon|DVD Video廉価版:amazonBlu-ray Discamazon]

銀座シネ・ラ・セットにて初見(2002/02/09)

TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2017/4/5)



[粗筋]

 元軍医のラファエル・プーラン(リュフュス)と元教師のアマンディーヌ・フエ(ロレーラ・クラヴォッタ)、ちょっと神経質で変わり者のふたりの間に生まれた女の子・アメリ(フローラ・ギエ)もやっぱり変わり者だった。お父さんにたった一度だけ診察してもらったとき、抱き締めて欲しくて早鐘のように打っていた心臓の音を病気と勘違いされて、学校には通わされずお母さんに教育されて、辛い家庭環境から逃避するために空想を友達にするようになった。やがて不幸な事故でお母さんを亡くし、お父さんとふたり暮らしになって、成長してモンマルトルにある古いアパートで一人暮らしを始めるようになっても、やっぱり彼女の友達は空想だけだった。

 22歳になったアメリ(オドレイ・トトゥ)の運命は、歯を磨こうとした矢先にテレビが報じたダイアナ妃事故死のニュースにキャップを取り落とし、それが洗面台下の煉瓦に当たって立てた乾いた音から急激に変化を始めた。煉瓦を外した向こうの空洞に、ツール・ド・フランスの選手の写真や小さな玩具を詰め込んだ箱を発見する。アメリはそれを、多分ずっと昔に少年だったはずの持ち主に返してあげようと思った。彼が喜んでくれたら、自分も少しはこの世知辛い世の中と上手くやっていけるような気がして。

 南米で夫に先立たれ、以来寂しい日々を過ごすアパート管理人のマドレーヌ・ウォラス(ヨランド・モロー)を切り出しに、人づたいにかつて自分の部屋に暮らしていた少年を紆余曲折の末に見つけだし、その男性――ドミニク・ブルトドー(モーリス・ベニシュー)の喜ぶ姿を遠巻きに見ているうちに、アメリは漸く自分と世界とが調和していることを自覚した。アメリは天性の想像力で、自分の周辺にいる人々の運命を少しずつ変えていく。――そうして、彼女自身にも、運命を変える出逢いが間近に迫っていた。

[感想]

 制作から16年、日本での公開から数えても15年を経ての鑑賞だが、未だに古びた印象がない。

 それは、大胆で緻密な色彩のコントロールを施した画面の愛らしさが、今となってもなお突出した個性を発揮しているから、というのがまず大きい。少し行き過ぎなほどに細部を際立たせたオープニングの描写から――ひとによっては拒否反応を起こす恐れもあれど――心を鷲掴みにされてしまうと、あとはもう最後まで虜にされてしまう。

 加えて、特異な世界観とストーリーが見事だ。

 視点人物となるアメリを筆頭に、本篇には風変わりな人物が多数登場する。いずれも大きな欠点を抱えていて、現実世界とどこか折り合いがついていない。その代表格がアメリなのだが、たまたま体験した、“世界と調和した”と感じる出来事を契機に、自分が関係する人々の幸せのために陰ながらの努力を始める。

 この設定と構想が導く展開は、風変わりでちょっと意地悪だが、優しさに満ちている。鈍くさい店員をいじめる青果店の店主に、些細だけど精神的に効く方法で制裁を与えたり、勤務先のカフェの神経質な店員と偏執狂の常連を結びつけようとしたり、やり口はかなり独善的で危うかったりするため人によっては眉をひそめたくなるかも知れないが、なるべく相手を傷つけずに溜飲を下げようとする工夫はちょっと微笑ましい。現実にやったら犯罪だが、フィクションだからこそ認められる、ということにも恐らく自覚的だろう。

 こうしたアメリの行動が不思議と快いのは、風変わりで、世間から浮いているような人々の存在や生き方を、消極的ながら肯定しているからだ。

 アメリ自身もそうだが、本篇で彼女が関わろうとする人々はみな特異で、そして孤独だ。それは彼らの生き方がどこか社会とは相容れないからなのだが、多くはそれを自覚し、引き籠もってしまっている。本篇は、そんな人々に、そのままでも人と交わりながら生きていけるかも知れない、という希望をもたらすような話作りをしているのだ。

 ほんの少し間違いを孕みながらも、いささかどぎつくもふんわりとした色彩で、とそれを優しく包みこむ。やや強めのクセが、ひとによっては受け付けられないかも知れないが、それでもきっと長く愛され続ける作品に違いない。

→2002/2/9初見時の感想

関連作品:

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スパニッシュ・アパートメント』/『ムード・インディゴ 〜うたかたの日々〜』/『ミュンヘン』/『エージェント・マロリー』/『父よ』/『ディーバ』/『華麗なるアリバイ』/『インストーラー』/『アンジェラ』/『ヴィドック』/『あるいは裏切りという名の犬

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