『雨女(4DX2D)』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン7入口に掲示されたポスター。

監督&脚本:清水崇 / 製作:渡辺章仁、市川修平、多昌博志 / 製作総指揮:田中博之、山田周 / 共同プロデューサー:松橋祥司 / 企画&プロデュース:斎藤武一郎 / 撮影:ふじもと光明 / 美術:福田宣 / 照明:江川斉 / 特殊造型:百武朋 / 録音:岩間翼 / 助監督:川松尚良 / 音楽:遠藤浩二 / 出演:清野菜名、柳俊太郎、高橋ユウ、みやべほの、奈緒、知久杏朱、加藤瑛斗、阿久津慶人田口トモロヲ / 制作プロダクション:ジョーカーフィルムズ / 配給:ユナイテッド・シネマ

2016年日本作品 / 上映時間:35分

2016年6月4日日本公開

公式サイト : http://www.ame-onna.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2016/6/4) ※初日舞台挨拶付上映



[粗筋]

 理佳(清野菜名)は近頃、“雨女”の夢を頻繁に見る。郷里にある踏切で、雨の降りしきる中、自殺した女の夢だ。その異様な気配に、理佳は怯え、おののいて目覚めるのだった。

 他方、恋人・隆(柳俊太郎)の行動にも不審を覚えている。一緒にいても考えていることが解らない。彼の携帯電話を頻繁に鳴らす“YURI”という人物が、突然独身のまま妊娠、最近になって活動を再開したことで話題になっているモデルのYURI(高橋ユウ)らしい、と気づいて、余計に不安は募っていた。

 雨女とはいったい何なのか。そして、隆はいったい何を隠しているのか――

[感想]

 ユナイテッド・シネマが導入した体感型上映システム“4DX”活用のために配給する、“4DX”のために撮られた作品である。

 2016年冒頭に同様の趣向で製作された『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』を上映しているが、アトラクション的な性質の色濃かったあちらと比べ、内容も表現手法もより正統派のホラーに仕立てられている。なにせあちらは、4DXのギミックを出来るだけ活用するために、だいぶ無茶苦茶な展開やシチュエーションも盛り込んでいるが、本篇はそういう意味ではナチュラルだ。ヒロインが味わう異様な感覚を、風や振動、そして随所に降り注ぐ雨で疑似体験できる。

 ただ、率直に言って、私にはだいぶ物足りない内容だった。

 先に鑑賞した『ボクソール★ライドショー』がギミックを有効活用するために破天荒な展開を繰り返し、訳の解らない内容ながら全篇楽しませてくれたのに対し、本篇は怪奇現象自体はオーソドックスであるが故に、用いられるギミックが限られてしまい、あまり意外性も驚きもない。こう来るだろうな、というところに想像通りの効果が来るので、ホラー映画、特に日本産ホラーの手法に慣れたひとには物足りない。

 その一方で、物語としては変に凝った趣向を組み込みすぎ、真面目に解釈しようとすると怪奇現象に素直に浸れなくなってしまう。観終わっても、何故この現象は理佳に対してあのようなアプローチを図ったのか、結果として何を求め、どういう結末に至ったのか――こういう肝心の部分がほとんど想像に委ねられすぎていてボンヤリとした印象になる。文芸的な作品、解釈を転がすことを楽しむ作品として提示されているならともかく、映画の中で描かれる状況に投げ込まれる面白さこそが本懐と言える4DX専用として製作されたにしては、何が起きているのか、何が起こりそうなのか、どうなったのか、ということを実感させない本篇の描写は足を引っ張りすぎている。

 怪奇現象の表現、その雰囲気の演出については、『呪怨』以降も数多くのホラー映画を撮り続けてきた監督だけあってそつがなく、それを疑似体験する上で4DXは最適――と思われるのだが、ところどころギミックの扱いに失敗している、と感じるところも多かったのが惜しまれる。本篇の趣向だと、ヒロイン・理佳の味わう恐怖を体感させるべきのはずなのだが、理佳が車内にいるのに、劇場内には水滴が落ちていた。カメラ自体は車外にあるから間違っていないようにも思うが、本篇の場合、カメラの位置で得られるべき感覚と、理佳の視点だからこそ得られる感覚とが混在しているために、臨場感よりも困惑を覚える場面が一度ならずあった。先に触れた『ボクソール〜』は主観視点の手法を採り入れているが故に迷いなくカメラの視点で感じられるものをギミックに同期させているため、アトラクション的な臨場感をある程度演出できていたが、その点本篇はもうちょっと研究が足りない。

 4DXやMX4Dのような体感型上映システムは、恐らく当分のあいだ個人宅で安価に再現することは難しく、それだけに映画館における独自のセールスポイントとなっていくはずだ。そこで、このシステムでしか楽しめないオリジナル・コンテンツを用意することはとても重要となるはずで、短篇を積極的に準備する意欲は評価出来る。ただ、多くの観客にアピールするため、売りとしていくためにはやはり、内容としての質の高さも保つべきだろう。まだまだ発展途上の手法とは言い条、もう少しシステムに合った内容に練り込んで欲しかったところである。

関連作品:

呪怨』/『呪怨2』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック』/『呪怨 ザ・グラッジ3』/『呪怨 白い老女』/『呪怨 黒い少女』/『輪廻』/『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』/『ラビット・ホラー

ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!

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