『ニッポン無責任時代』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン3前に展示された案内ポスター。 ニッポン無責任時代 【東宝DVDシネマファンクラブ】

監督:古澤憲吾 / 脚本:田波靖男松木ひろし / 製作:安達英三觔、森田信 / 撮影:斎藤孝雄 / 美術:小川一男 / 照明:隠田紀一 / 編集:黒岩義民 / 録音:下永尚 / 音楽:神津善行 / 出演:植木等ハナ肇谷啓、佐野愛子、久慈あさみ、峰健二、清水元、藤山陽子、田崎潤安田伸犬塚弘石橋エータロー桜井センリ松村達雄由利徹、中島そのみ、団令子、中北千枝子人見明、稲垣隆、井上大助、峯丘ひろみ、岡豊、荒木保夫、堤康久、宮川澄江、清水由紀 / 配給&映像ソフト発売元:東宝

1962年日本作品 / 上映時間:1時間26分

1962年7月29日日本公開

2014年9月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/11/12)



[粗筋]

 平均(植木等)はついこのあいだ会社をクビになったばかりだが、振る舞いは至って太平楽なものだった。金もないのにバー“マドリッド”で平然と注文しまくっていた平は、黒田(田崎潤)という男が太平洋酒の乗っ取りを画策していることを知る。ちょうどバーに居合わせた太平洋酒の総務部長・谷田(谷啓)たちに接近し、太平洋酒社長・氏家勇作(ハナ肇)についての情報を得ると、谷田たちにそれとなく支払を押しつけてバーを出た。

 折しも、氏家の恩人である大臣・松山一郎が亡くなり、氏家社長がその葬送で忙しいことを知ると、平は松山の葬儀の席に潜りこみ、さも松山に近い人間であるように装った口を利いて、氏家に取り入ってしまった。谷井からも乗っ取りの話を知らされた氏家は、その対処に有益である、と考えて、平を総務部に採用する。

 かくして首尾よく太平洋酒に潜りこんでしまった平だが、やっていることは相変わらず適当だった。氏家から対策を求められると、とりあえず社長に次ぐ大株主の富山(松村達雄)を料亭で接待する、というありきたりの案を提示して、しかも出勤初日にいきなり遅刻してみせる。それからも連日タクシーで重役出勤を繰り返し、谷田にドヤされながらも平はどこ吹く風だった。

 そんな矢先に、太平洋酒の社内では新たな動きが起こっていた。一部の社員が待遇に不満を唱え、組合の結成を呼びかけたのである。平はひょんなことからその動きを感知するが、首謀者たちに自分の代わりにタイムカードを押すことで沈黙を約束する。

 しかし、そのあいだに乗っ取り工作は既に進められていた。接待で理解を得たはずの富井があっさりと裏切り、黒田に株を売却してしまったのである。

 工作を防げなかった平に氏家社長は失望、すぐさま平を解雇するが、直後に平は黒田に取り入り、あっさりと会社に返り咲いてしまう。黒田の歓迎会を巧みに取り仕切って、渉外部の部長の椅子を手に入れる一方で、居場所を失い腐っている氏家元社長にふたたび接触、どうにか黒田を追い払って社長の座に戻すべく画策する、などとムシのいいことを囁くのだった……

[感想]

 映画に詳しくない人でもタイトルくらいは知っている、そして作中で植木等が声高らかに歌う楽曲の数々を耳にしたことはあるはずだ。かくいう私も、観る前から知ったようなつもりになっていた。

 だが、いざ本篇を観てみると、驚きを禁じ得ない仕上がりだった。単純にヒット曲や、クレージー・キャッツの人気にあやかっただけではない、したたかさのある傑作だった。

 クレージー・キャッツが当時、極めて勢いのある状態であり、何をしてもしっくりハマる時期だったとも推察できるが、冒頭からテンポが軽く、ひたすらに楽しい。植木等演じる主人公・平均がテキトーな言動で周りを翻弄したかと思うと、既にヒットしていたクレージー・キャッツの楽曲や、映画のために書き下ろされた楽曲を唐突に声高らかに歌い始める。コミカルなやり取りと唐突な歌が交互に繰り出され、テンポがいい。古い映画を鑑賞すると、テンポの緩やかさにじりじりすることもままあるのだが、本篇は「まあ、ちょっとゆったりしてるかな?」程度の印象で、いま観てもそのリズムは優秀だ。

 物語はひたすらに、タイトルにある“無責任男”の名称を与えられた主人公・平均の確かにお調子者で適当な振る舞いを追っているだけ――に見えるが、少なくとも本篇を見る限り、この男、お調子者ではあるが適当ではないし、まったくの無責任でもない。

 冒頭こそ、いま自分の置かれている状況を巧みに利用して、タダ酒を飲んだり会社に潜りこんだりしているが、そもそもその手際は詐欺師なみに鮮やかで、ほとんど知能犯だ。周囲の人々がいささか迂闊な印象もあれど、わざと誤解を招くような物言いをしてみたり、相手の誤解に乗じて話を膨らませてみたりして、訪れた窮地を乗り越えるどころか、チャンスに変えてしまう。

 あっという間に昇格すると、それまでの上司をあっさり“くん”づけにするあたり実にお調子者だが、面白いのは、基本的に他人を追い込んだり、悪事を働いていないものを糾弾するような真似はしていないことだ。へそくりをくすねたり、会社の金を女達に流したりしているが(そこは間違いなく横領ではあるんだけど)少なくとも接する者が不幸になるような行為には及んでいない。あまつさえ終盤には、報われる恋に突き進もうとする若者に力を貸そうともしている。

 言ってみればこの平均というキャラクター、一種のアンチ・ヒーローなのである。うわべだけの物言いに信念は感じられないし、歌で語るように無責任でC調、自分が楽をして儲けるのが第一、という人物だが、その徹底ぶりが潔く、痛快ですらある。冒頭でいきなり平にたかられ、直接の上司にもなる谷田はずっと批判的なのだが、その彼でさえも最後には多少なりとも認めるようなことを口走らせてしまう。ある意味では人徳とさえ言えるかも知れない。

 教訓めいたものなど一切なく、感動するような結末ではない。しかし、平均という名前とは裏腹に型破りな男の言動とそれに翻弄される人々の姿がただただ楽しく、観終わってスッキリとした気分になれる快作である――たぶん生真面目な人には平の性格や言動がどうしても許容できないはずなので、それ故に楽しめない可能性はあるだろうが、どーせ映画なのだから、固いことを言わずに楽しむ方がいい。

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