『グレン・ミラー物語』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン3前に掲示された案内ポスター。 グレン・ミラー物語 [DVD]

原題:“The Glenn Miller Story” / 監督:アンソニー・マン / 脚本:ヴァレンタイン・デイヴィース、オスカー・ブロドニー / 製作:アーロン・ローゼンバーグ / 撮影監督:ウィリアム・H・ダニエルズ / 美術監督:アレクサンダー・ゴリツェン、バーナード・ハーツブラン / 装置:ラッセル・A・ガウスマン、ジュリア・ヘロン / 編集:ラッセル・シェーンガース / 衣裳:ジェイ・A・モーリーJr. / 音楽監修:ジョセフ・ガーシェンソン / 音楽翻案:ヘンリー・マンシーニ / 出演:ジェームズ・スチュワートジューン・アリソン、ハリー・モーガン、チャールズ・ドレイク、ジョージ・トビアス、バートン・マクレーン、シグ・ルーマン、アーヴィン・ベーコン、ジェームズ・ベル、キャサリン・ウォーレン、フランシス・ラングフォード、ルイ・アームストロング、ベン・ポラック、ジーン・クルーパ / 初公開時配給:ユニバーサル・ピクチャーズ

1954年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:松浦美奈

1954年2月10日日本公開

第三回新・午前十時の映画祭(2015/04/04〜2016/03/18開催)上映作品

2014年10月31日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|DVD Video:amazon] ※他、版権切れ作品をまとめた廉価版など多数リリース

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2016/01/18)



[粗筋]

 のちにビッグ・バンド・ジャズの世界にその名を刻むグレン・ミラー(ジェームズ・スチュアート)も、かつてはまったく売れないミュージシャンだった。商売道具であるトロンボーンを質に入れて生活費稼ぎに明け暮れることも頻繁で、恋人ヘレン(ジューン・アリソン)に贈り物をするどころか、連絡することさえもままならない。

 そんな状況が初めて好転したきっかけは、ドラマーのベン・ポラック(本人)の楽団だった。楽団では新たな団員を募集しており、グレンは竹馬の友であるチャミー・マクレガー(ハリー・モーガン)とともに応募することにするが、生憎トロンボーンは質草になっている。だがその代わりにグレンは、アレンジの譜面を持ち込んで自らをアピールした。最初は見向きもされなかったが、オーディションの成り行きでその譜面を演奏したポラックが気に入り、グレンはチャミーと共に晴れて楽団に加わる。

 ツアーで各地を回ることになったグレンは、ボストンに立ち寄った折、ここぞとばかりヘレンに連絡を取る。しかし、対するヘレンはこの唐突な行動に困惑していた――なにせグレンとは交際を約束した覚えもなく、現在は実業家の青年といい雰囲気になっている。しかし、夜遅くにやって来たグレンの熱烈で純粋な態度にほだされるように、婚約を承諾してしまう。グレンはその脚で両親のもとに挨拶に赴き、夜明けと共に慌ただしくボストンの地を離れていった。

 ベン・ポラック楽団での活動は順調だったが、グレンは鬱屈した想いを抱き続けていた。楽団に不満はないが、グレンの夢は自らの楽団を持ち、唯一無二の個性を世界に認められることにある。ベン・ポラックの音楽性に取り込まれるのは望むところではなかった。ニューヨーク滞在中に一念発起して楽団を退き、作編曲を改めて学び始めたグレンだったが、それ故にふたたび地道な下積みの日々を送ることとなる。

 時を経て、未だうだつの上がらない有様ではあったが、恋慕の想いをこらえきれず、グレンはヘレンをニューヨークに招き、結婚する。そして、この結婚こそ、グレンにとって最大の転機となるのだった……。

[感想]

 未だにその音楽が頻繁にかけられ、多くの人々に愛されている伝説のジャズ・ミュージシャン、グレン・ミラーの半生を題材とした作品である。

 こうした、実在の音楽家の姿を描いた映画、というのは近年もさまざま作られているが、最近のものと比較すると本篇の表現はいささか善良すぎ、牧歌的にも思える。売れない、伸び悩み、などの苦しみは描かれるものの、はっきりとした障害やライヴァルが登場するわけではないので、平和な印象なのだ。もちろん苦労はしているし、冒頭のシーンから成功まで4、5年は実際には費やしているわけだから、平坦なわけではなかったことは窺い知れるのだけれど。

 だが、その程良い軽さが、グレン・ミラーの生み出した音楽とうまく溶け合って快い。序盤はもちろん未だ形になっていないが、ベン・ポラック楽団での演奏や、試行錯誤の時期の演奏も、陽気で自然と身体が動いてしまうビッグ・バンド・スタイルで、音楽に身を委ねるだけでも楽しい。障害の実感しにくい語り口も、この音楽のお陰もあってあまり気にならない。

 簡単に調べただけだとどこまで真実か解らない――ざっと調べた印象だけでも、グレン・ミラーディスコグラフィと一致しないところがあるので、恐らく本篇のストーリーは主要な楽曲の主題や、実際に存在するエピソードをもとに膨らませたもので構成されたものだと思われる。ある程度のリアリティを担保しつつも、ほどほどに空想的な色合いを帯びたこうしたエピソードの組み立てが、本篇の軽快さを後押ししているようだ。

 軽快さは物語の終盤になっても変わらない。時代は戦争へと突入、グレン・ミラーもまた一兵士となるのだが、この経緯も、同時代を描いた他の作品とは趣が異なる。ミラーは、自分の音楽を愛する人々が戦場に赴くうえでの慰めとなるよう、慰問という形で演奏を続ける道を選ぶ。現実の彼があそこまで躊躇なくその道を選んだのかは不明だが、少なくとも本篇の中にあっては迷いがない。当たり前のように、威勢がいいが堅苦しい行進曲しか奏でない鼓笛隊にジャズを演奏させ、そのことが認められて各戦場の同胞たちにひとときの娯楽を与えるべく慰問することを自らの任務にしてしまう。戦闘機が上空を飛び去るときも演奏するくだりなどは、極めて危険な状況なのに、ちょっと痛快なくらいだ。本篇が悲痛な色彩を帯びるのは、結末くらいのものである。

 だが、この悲しい結末さえもどこか快く思えるのは、作中、折に触れ言及していたグレン・ミラーの夢が、ある意味で成就された瞬間でもあるからだ。その象徴となる旋律に、不遇の時代からずっと支えてきた糟糠の妻が耳を傾ける。切なくも、それまでの想いが昇華されるような、記憶に残る終幕である。

 観れば一目瞭然だが、本篇はグレン・ミラーの半生を描くと共に、彼と彼を成功に導いた妻ヘレンとの幸せなラヴ・ストーリーの側面が色濃い。確かに結末はもの悲しくもあるが、そこに愛の証が美しく鳴り響いているから、快く暖かい。

 現代のクリエイターが手懸ければ、もっとリアルにはなるだろうけれど、ここまで清澄には響かないだろう。

 この時代に、このさじ加減だからこそ成立した佳篇であると思う――そして、本篇の完成から60年を経てなお本篇が映画館にかかり、そこで流れている音楽に親しみが湧く、ということそれ自体がまた、本篇の余韻を深くする。

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