『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-』

シネマート六本木、施設外壁に掲示されたポスター。

原題:“不二神探” / 英題:“Badges of Fury” / 監督:ウォン・ジーミン / 脚本:チャン・タン / 製作:チョイ・ポーチュー / 武術指導:コーリー・ユン / 撮影監督:ケニー・ツェー / 編集:アンジー・ラム / 衣装:シャーリー・チャン / 音楽:レイモンド・ウォン / 出演:ジェット・リー、ウェン・ジャン、ミシェル・チェン、リウ・シーシー、リウ・イエン、スティーヴン・フォン、ブルース・リャン、ケヴィン・チェン、マイケル・ツェー、ティエン・リャン、マー・イーリー、コリン・チョウ、トン・ダーウェイ、ホァン・シャオミン、レイモンド・ラム、ウー・ジン、アレックス・フォン、ジョシー・ホー、ジャン・ズーリン、ステフィー・タン、レオン・カーヤン、ラム・シュー / 配給:東京テアトル×Happinet

2013年中国作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:鈴木真理

2014年3月21日日本公開

公式サイト : http://dragon-cops.com/

シネマート六本木にて初見(2014/04/07)



[粗筋]

 香港ではいま、奇妙な事件が起きていた。最初は、高所恐怖症のスターが映画撮影中に墜落死した事件。次は、ダンサーがペアの女性に押し潰された事件。そして次は、飛び込み選手が競技中に急死した事件――いずれも一見したところ事故のようだが、すべて奇妙な微笑みを浮かべており、関連が疑われたために、遺族から真相究明を求める声が上がるようになった。

 4件目の事件が起き、いよいよ警察は本腰を入れて捜査を開始した。担当するのは、ヴェテラン刑事のホアン・フェイホン(ジェット・リー)と、若手のワン・プーアル(ウェン・ジャン)――だがこのコンビ、いずれもちょっと問題があった。ヴェテランだけあって老獪で、達人レベルの武術の腕前もあるフェイホンだが、仕事に対してまるで意欲がなく、職務中に株取引にうつつを抜かし、定時になると一目散に家に帰ってしまう。プーアルは意欲こそ充分だが思い込みのみで突っ走る傾向にあり、いざとなると周囲をいっさい顧みない。ふたりを組ませた上司アンジェラ(ミシェル・チェン)も、ふたりのトラブル・メーカーぶりに頭を悩ませていた。

 捜査に着手した彼らだが、さっそくひとりの容疑者に辿り着く。すべての被害者の葬儀に、奇妙な扮装で現れた女がいたのだ。彼女はリウ・チンシュイ(リウ・シーシー)といい、売れない女優をしているが、被害者すべてと交際した過去があった。撮影中の姿を暗殺の現場と勘違いしたプーアルがさっそく連行するものの、あっさりとアリバイが証明され、釈放せざるを得なくなる。

 だがほどなくして、ふたたび事件が起きた。チンシュイが最近まで付き合っていた男カオ・ミン(レイモンド・ラム)が、チンシュイのもとに戻ろうとしたその矢先、またしても微笑を浮かべた屍体となったのである。

 この頃には、プーアルたちの疑いの目は、チンシュイの種違いの姉タイ・イーイー(リウ・イエン)に向けられていた。保険外交員であるイーイーは、チンシュイの恋人となった男性を妹から奪うと、全員に自分を受取人に指定した保険を契約させている。嫉妬と金、動機は揃っているが、やはり明確な証拠はない。

 捜査のあいだしばしばとんでもない行動に及んでいたプーアルは、ここでとんでもない作戦に打って出るのだった……

[感想]

 21世紀に入ったあたりから、香港映画は急激に洗練されてきた印象がある。『マトリックス』シリーズを境に香港のアクション・スタントが全世界的に普及したことで、ストーリー面の粗さが見直されるようになったのかも知れない。かつてのように、行き当たりばったりで話を組み立てているがゆえ、とも思える破天荒な内容は少なくなった――或いは、あまり日本にまで届くことは減った。

 そんな中にあって、本篇はある意味、時代に逆行するかのような代物である。

 とにかく序盤からハチャメチャなのだ。3名の“被害者”が死ぬ際の状況がまずコミカルだが、それがどうして連続殺人として認定されるのか、見ていてもさっぱり解らないのに、そういう前提で話が進んでしまう。で、捜査が始まると、難事件のように扱われていたはずなのに極めてあっさりと容疑者が浮上する――しかも、ちゃんと調べていれば、いの一番に辿り着くような人物が挙がってくる。お前らいままでいったい何をしていたんだ、と思っていると、現在進行形で捜査をしているひとびとの行動もどんどん無茶苦茶になっていく。ツッコミ始めると止まらない。

 だが、恐らくこのハチャメチャぶりは、スタッフが確信してやっていることなのだろう。オープニングからして、プーアルが放った銃弾からゲスト出演者が現れて空を飛んでいく、というコミカルな代物だし、本篇に入っても、決して超常現象はメインではないのに、怪しい出来事があると空に不気味な顔が出現したり、壁に映る髪の影がメデューサよろしくヘビ状になって揺らめいていたり……しかも結局それらは事件の内容とまったく関わりなかったりする。

 物語の設定では、定時に帰りたがるやる気のない捜査官、となっているが、格闘だけは神憑りに強い、という相変わらずのジェット・リーも、しかし普通に活躍はさせてもらえない。見せ場となるタイマン勝負は都合3回行われるのだが、なんとそのうち2回は本筋の事件と全然関係がない。資料によると、コリン・チョウとの対決の舞台となった階段室はわざわざ単独でセットを組んだそうだし、ジェット同様に『ドラゴン 怒りの鉄拳』のチャン・ジェンを演じた伝説のアクション俳優であるブルース・リャンとの戦いの舞台は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズを彷彿とさせる小道具が盛り沢山で、カンフー映画愛好家、香港映画のファンはそれだけでワクワクしてしまうが、これも唐突さは著しい。

 だが、そうした要素のほとんどが、“観客を喜ばせるため”という点で徹底していて、観ていて実に清々しい。こういう唐突さ、辻褄を無視した外連味が評価出来ない、腹を立てる、といったひとはそもそも本篇を楽しむのには向いていない。

 前述したような、幼稚とも言える映像、シチュエーションのお遊びもそうだが、本篇はとにかく出演者が豪華だ。私はごく限られたアクション俳優や監督に絞って観ているため、未だ香港映画に詳しい、というレベルではないはずなのだけど、それでも「ああ、このひともいる!」と驚くような俳優が実に些細な役で登場している。そのあたりまで含め、本篇はとことんサーヴィスを徹底しているのだ。

 ひどく無茶苦茶なストーリーではあるが、笑わせる、観客を楽しませる、という点ではこちらも徹底していて、面白がらせるための伏線には欠かない。特に、ジェット・リーと組む若くノーテンキな刑事に扮したウェン・ジャンの描写は、実はとても細やかな工夫がなされている。思いつきだけで突っ走る性格だが、それが徹底されているうえに、趣味嗜好も明白なので、過程の異様な展開、ラストで見せる行動にも、驚かされるが納得はいく。ミステリーとしてはしごくいい加減な話ながら、意外性を演出する、笑いを誘う、という意味での伏線は実に見事だ。

 平仄が合うかどうか、ではなく、その場その場で観客を喜ばせ、観終わって満足感を与えることを何よりも優先する。そういう刹那的な享楽を意図した作りが好かないならむしろ不愉快になるだろうし、カンフー映画を含め香港映画にまったく馴染みがなければ、楽しみ方が解らず戸惑うかも知れない。だが、最近の洗練された香港映画を好む一方で、往年のハチャメチャな作りにも愛着があった、というひとにはとても嬉しいサーヴィスと言えよう。作中で語る通り、かつてほど香港映画を巡る環境は良好とは言い難いだろうが、その情熱は脈々と受け継がれていることが窺える。

 ちなみにこの映画、原題を『不二神探』という。私はあちらの言葉に詳しくないが、漢字なのでだいたい察しはつく。“不二”は“プーアル”と読み、“神探”は恐らく“神の如き探偵(刑事)”の意と考えられる――実際の意味はさておき、つまり本篇の主役はジェット・リー演じるフェイホンではなく、ウェン・ジャンが扮した若い刑事プーアルのほうなのだ。この点も踏まえておくと、ジェットの立ち位置にも納得がいくのではなかろうか。

関連作品:

海洋天堂』/『白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇』/『HERO 英雄』/『SPIRIT』/『ブラック・ダイヤモンド』/『ドラゴン・キングダム』/『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝

カンフーハッスル』/『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』/『SPL/狼よ静かに死ね

ドラゴン 怒りの鉄拳』/『フィスト・オブ・レジェンド

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