『アンディ・ラウの麻雀大将』

アンディ・ラウの麻雀大将 [DVD]

英題:“Fat Choi Spirit” / 監督&製作:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ / 脚本:ワイ・カーファイ、ヤウ・ナイホイ、オー・キンイー / 製作総指揮:キャサリン・チャン、ティファニー・チェン / 撮影監督:チェン・シュウキョン / プロダクション・デザイナー:キャサリン・スー / 編集:ロー・ウィンチョン、ヤウ・チーワイ / 音楽:レイモンド・ウォン / 主題歌:アンディ・ラウ / 出演:アンディ・ラウ、ルイス・クー、ラウ・チンワン、ジジ・リョン、チェリー・イン、西川孝和、ボニー・ウォン、ウォン・ティンラム、ルン・ティンサン、ハン・ワイリョン、マット・チョウ / 映像ソフト発売元:JVC

2002年香港作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2003年9月12日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2013/12/27)



[粗筋]

 アンディ(アンディ・ラウ)は麻雀で生計を立てる、プロの雀士だ。面子の足りない宅に呼ばれては赴き、常人離れしたツキで牌を揃えてしまう彼は、無敵に等しかった。彼の猛烈な幸運は、路頭に迷っているときに拾ってくれた恋人サンディ(ジジ・リョン)との出逢いがもたらしてくれたものだが、アンディは彼女の短気に嫌気が差して、距離を置いていた。

 ある日、アンディの許に突如として生き別れの母親から電話がかかってきた。アンディが家を出て以来、認知症が進行していた母の面倒を看ていた弟のルイス(ルイス・クー)は突然舞い戻った兄に反発するが、にわかに家を差し押さえられ、兄を頼らざるを得なくなった。しかも、どうにかありついたと思った仕事はチェリー(チェリー・イン)という女の仕掛けた罠で、麻雀大師(ラウ・チンワン)と名乗る男に残った有り金をすべて奪われてしまった。

 アンディは麻雀大師に勝負を仕掛け、見事に勝利するが、直後に大師と仲間たちに襲撃されて、収穫を取り返されてしまう。しかし翌日、アンディのあまりに華麗な牌捌きに魅せられた大師は、その技術を吸収しようと弟子入りを志願しに来たのだった……

[感想]

 ジョニー・トーとワイ・カーファイがコンビを組むと、大抵妙な作品になる。ギャング同士の抗争が異様な結末を迎える『ヒーロー・ネバー・ダイ』、暗殺者同士の決闘を題材とした『フルタイム・キラー』、すれ違い続ける男女の奇妙な顛末を描いた『ターンレフト ターンライト』、筋骨隆々の元僧侶、という風変わりな設定でアメコミ風のアクションを表現した『マッスルモンク』、ひとの隠し持つ本性が実態となって見える、という特殊な設定に基づくサスペンス『MAD探偵 7人の容疑者』……ぜんぶ観ているようなひとはそんなにいないと思うが、並べてみると本当に変な作品ばかりである。

 映画ではあまり聞いたことがない、麻雀を題材とした本篇でも、その“珍妙さ”は健在だ。

 前述した作品の仕掛けのほとんどが、練りに練ったプロットが生み出す理知的で奇妙な決着が売りだったので、麻雀という、古くから存在し、知略がものを言うゲームを題材としているなら、映画とはいえかなり緻密な駆け引きであったり、あっと驚くような仕掛けを用意しているのでは、という期待を個人的には持ってしまったのだが、はっきり言ってそういう面白さはあまりない――唯一、アンディと麻雀大師との初対決でユニークな駆け引きがあるが、その仕掛けはかなり人を食ったもので、知恵比べというよりはほぼギャグの領域だった。

 そう、本篇の味わいはまるっきりコメディ、それもかなり漫画チックなドタバタものなのだ。主人公アンディは理由もなくただただツキまくっている、という雀士で、彼につきまとうサンディは、結構難易度の高い職業を転々とする、才能があるんだかないんだか解らない女性だ。アンディの弟ルイスとふたりの母の暮らしぶりも訳が解らないが、そんな彼らが呼び寄せる麻雀大師の、大物っぽく振る舞っているくせに幼稚な人物像と、ほとんど冗談としか思えないキャラクターの交流が、終始笑いを誘う。

 そもそも、主人公が雀士のわりに、まともな勝負を見せないことから始まっているが、本篇は終始、期待通りに話が運ばない。それ故に、不満を抱く人もいるかも知れないが、その予測不能ぶりは味わいがある。恋愛ドラマになりそうでにわかに家族ドラマとなり、ちょこっと麻雀の戦いが入ったかと思うとふたたび恋愛ドラマに切り替わり、そして最後に麻雀に立ち戻る。

 ゲームの奥行きを表現しきっている、とは言えないが、しかし麻雀独特の魅力と、香港のひとびとの麻雀に対する愛着、といったものが感じられる描き方には好感が持てる。とんでもない強運で各所の卓を荒らしながら、弱い者に味方し、礼儀を重んじ、そして紆余曲折の果てに綺麗に締めくくるアンディの姿は、この麻雀というものの魅力を背負うヒーローに相応しい。

 あんまりに過程が無茶苦茶すぎて、結局なにがしたかったのか解らないし、放り出された伏線もあったりとかなり乱れた仕上がりではあるのだが、一筋縄ではいかないスタッフに似つかわしい、クセモノのコメディである。そして、本篇とほぼ同じようなスタッフが集った『名探偵ゴッド・アイ』があんな風変わりな探偵ものになったのも、これを観たあとだとすごーく頷ける。

関連作品:

ヒーロー・ネバー・ダイ

フルタイム・キラー

ターンレフト ターンライト

マッスルモンク

MAD探偵 7人の容疑者

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

名探偵ゴッド・アイ

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