『タワーリング・インフェルノ』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、エスカレーター下の案内ポスター。 タワーリング・インフェルノ [Blu-ray]

原題:“The Towering Inferno” / 原作:トーマス・N・スコーシア、フランク・M・ロビンソン、リチャード・マーティン・スターン / 監督:ジョン・ギラーミン / 脚本:スターリング・シリファント / 製作:アーウィン・アレン / 撮影監督:フレッド・コーネカンプ、ジョセフ・バイロック / プロダクション・デザイナー:ウィリアム・J・クレバー / 特撮:L・B・アボット / 編集:カール・クレス、ハロルド・F・クレス / キャスティング:ジャック・バウアー / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 作詞作曲:アル・カシャ、ジョエル・ハーシュホーン / 出演:スティーヴ・マックイーンポール・ニューマンウィリアム・ホールデンフェイ・ダナウェイフレッド・アステア、O・J・シンプソン、リチャード・チェンバレン、スーザン・ブレイクリー、ロバート・ヴォーン、ロバート・ワグナー、ジェニファー・ジョーンズ、スーザン・フラナリー、シーラ・マシューズ、ノーマン・バートン、ジャック・コリンズ、ドン・ゴードン、フェルトン・ペリー、グレゴリー・シエラ、ダブニー・コールマン、マイク・ルッキンランド、キャロル・マケヴォイ、カリーナ・ガワー、ジョン・クロフォード、アーニー・オルサッティ / 配給:20世紀フォックス×Warner Bros. / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1974年アメリカ作品 / 上映時間:2時間45分 / 日本語字幕:岡田壯平

1975年6月28日日本公開

2010年7月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

新・午前十時の映画祭(2013/04/06〜2014/03/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/12/04)



[粗筋]

 サンフランシスコで最大級となる超高層ビル“グラス・タワー”の竣工式を明日に控え、趣味である砂漠の冒険から帰還したばかりの設計士ダグ・ロバーツ(ポール・ニューマン)は、保安主任ハリー・ジャーニガン(O・J・シンプソン)に呼び出された。異常が起きたという配電盤をチェックして、ロバーツは愕然とする。配線に、彼が指定したものよりも水準の劣る素材が使用されていたのだ。オーナーであるジェームズ・ダンカン(ウィリアム・ホールデン)の娘婿ロジャー・シモンズ(リチャード・チェンバレン)が配線の施工を担当していたが、どうやら指定よりも安価な素材を使うことで費用を浮かせようとしたらしい。ロバーツは再点検のために竣工式の延期を提案するが、ダンカンは一笑に付してしまう。

 そして竣工式は始まった。街の誇り、とビルの落成を多くのひとびとが喜ぶなか、事態は静かに進行していた。81階にある物置でショートした配電盤が弾け飛び、発した炎が室内をじわじわと火の海に変えていく。竣工式のために強い負荷のかかった配線は、本来作動するべき安全装置をも沈黙させていることに、まだ誰も気づいていなかった。

 ようやくロバーツたちが異常を察知し、81階に駆けつけたときには、物置の炎は手のつけられないレベルになっていた。同行した職員が大火傷を負い、懸命の鎮火を試みるが、炎は更に勢いを増していく。もはやオーナーの意向を窺うときではなかった。

 要請を受け、マイケル・オハラハン(スティーヴ・マックイーン)率いる消防隊が現地に急行した。設計事務所を前線基地として指揮に就くオハラハンだったが、非常時の避難態勢を考慮に入れていない高層ビルでの消火活動は困難を極める。そうこうしているあいだにも、新たな火の手が上がり、事態は刻一刻と悪化の一途を辿るのだった……

[感想]

 パニック映画の代表格として、未だに確実に名前の挙がる作品である。高層ビルで大火災が発生したら、いったいどんな事態に発展するのか? という、恐らくビル開発ラッシュの当時に誰しもが思い浮かべる悪夢を、可能な限りリアルに再現している。

 ……が、如何せん、こういう災害についての研究というのも日進月歩であり、近年製作されている類似のパニック映画と比較すると、本篇にはどうも不自然な点が多々見受けられる。

 たとえば、既に火の海となった部屋の扉を開ける場合、炎が一気に噴き出す現象が生じることがある。作中、最初に発見された火災現場はこれに近い条件が揃っていたと考えられるし、プロならばこの当時でも知識はあったはずで、そのあたりは物足りない。

 また、本篇は建築したセットを実際に燃やすなど、予算をかけているからこその大規模な仕掛けを用意している一方で、さすがにビルを本当に燃やすわけにはいかなかったようで、作中ところどころミニチュアを利用していることが窺える。だが、ミニチュアを燃やしたり爆破したりするのと、やはり実際の延焼や爆発の様子は異なるようで、近年のより新しい研究に基づく映像に触れていると、どうしてもその“小ささ”を感じずにはいられない。

 ただ、こうしたトラブルに直面したひとびとの群像劇としては見事な完成度だ。事態にいちはやく気づいて警告を発し、進んで対処しようとする者に、その警告を無視して事態を悪化させてしまう者。気づかずに脱出不可能の状況に追い込まれ、死を覚悟したなかで優しさや愛情を示す者もいる。トラブルの中で人生の転機を迎える者もいれば、健気に戦う少年少女の姿もあり、密度は高い。

 こうした多彩かつ容赦のないドラマを、当時としては贅沢極まりないキャストで描いた、という点も特筆すべきところだろう。もともとは20世紀フォックスとワーナーが別の原作をもとに、似たような高層ビルでの火災を題材とした映画を撮る企画が同時期に立ち上がったため、当時としては珍しい大手映画会社の共同による製作に変更した、という経緯があったそうだが、そのお陰で、この頃はフォックスのお抱えだったポール・ニューマンと、ワーナーの看板俳優であったスティーヴ・マックイーンという顔合わせが実現した、という背景があったらしい。それに合わせたのか、脇にも往年のミュージカル・スターであったフレッド・アステアに『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイ、西部劇で活躍したウィリアム・ホールデンに、“ナポレオン・ソロ”で著名だったロバート・ヴォーンフットボールの名選手だった(今となっては後年、妻殺しの容疑がかけられたことのほうがよく知られているが)O・J・シンプソンと、往年のハリウッドについてぼんやりとした知識しかなくとも察しのつくような、豪華な面々が揃っている。これだけのメンバーが、ハッピーとは言い難い物語を肉付けしたことは、まだまだ画期的なことだっただろう。

 同じ題材を、いまの特撮技術と演出法によって描き出せば、未曾有の災害をよりリアルに表現出来るに違いない。しかし、1974年当時に得ていた知見と、可能な技術を注ぎ込んで作り込まれた本篇は、語り継ぐに充分値する。

関連作品:

炎のメモリアル

ワールド・トレード・センター

コンテイジョン

スティング

華麗なる賭け

パピヨン

ザッツ・エンタテインメント

ワイルドバンチ

カプリコン・1

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