『サプライズ』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

原題:“You’re Next” / 監督&編集:アダム・ウィンガード / 脚本:サイモン・バレット / 製作:キース・コルダー、ジェシカ・ウー、サイモン・バレット、キム・シャーマン / 撮影監督:アンドリュー・ドロー・パレルモ / プロダクション・デザイナー:トーマス・S・ハモック / 衣装:エマ・ポッター / キャスティング:ミッシェル・モリス・カーツ,CSA / 音楽:マッツ・ヘルツベルク、ジャスパー・ジャスティス・リー、カイル・マッキノン / 出演:シャーニー・ヴィンソン、ニコラス・トゥッチ、ウェンディ・グレン、AJ・ボーウェン、ジョー・スワンバーグ、マーガレット・レイニー、エイミー・シーメッツ、タイ・ウェスト、バーバラ・クランプトン、ロブ・モラン / 配給:Asmik Ace

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:齋藤敦子 / R15+

2013年11月14日日本公開

公式サイト : http://surprise.asmik-ace.co.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/11/14)



[粗筋]

 ポール(ロブ・モラン)とオーブリー(バーバラ・クランプトン)の夫妻は、夫を機に大きな中古住宅を購入、莫大な退職金での悠々自適な引退生活を始める、はずだった。

 夫婦が新居に到着すると、子供たちも続々と駆けつけてきた。長男のドレイク(ジョー・スワンバーグ)とその妻ケリー(マーガレット・ラニー)、次男クリスピアン(AJ・ボーウェン)と恋人エリン(シャーニー・ヴィンソン)、長女エイミー(エイミー・シーメッツ)とその恋人タリク(タイ・ウェスト)、そして三男フィリップス(ニコラス・トゥッチ)と恋人ジー(ウェンディ・グレン)である。夫婦ふたりには大きすぎるほどの屋敷は、一気に賑やかになった。

 そして、家族揃っての晩餐の席で、突如それは始まった。窓の外に何かの気配を感じて、様子を窺ったタリクの額を、ボウガンの矢が射貫いたのである。

 続けざまに打ちこまれる矢に、食卓が阿鼻叫喚に満たされるなか、エリンだけは冷静だった。姿勢を低くするように指示し、椅子を盾に、窓から死角となる場所へ家族を速やかに避難させていく。途中でドレイクが背中に矢を受けたが、どうにかタリク以外の犠牲者を出さずに済んだ。

 だがその一方、妨害電波が出ているようで、携帯電話が通じず警察に連絡することが出来ない。一同の中でいちばんの俊足であるケリーが全速力で家を飛び出し、外に助けを求めてくる、と言い出した。危険を感じながらも、家族は娘を手助けし、外に送り出す。

 だが、悪辣な罠は、既に家族の屋敷を、文字通りに包囲していたのである――

[感想]

 “サプライズ”という、ミステリ系映画を愛好する者としては胸ときめかせずにいられない魅力的なタイトルだが、もしそのつもりで期待してしまうと、たぶん拍子抜けする。早い段階から細部を観察し、ちょっと推理すれば読み解くことは難しくない真相なのだ。

 ただ、ちゃんと描写から推測することが可能、というのは、それだけきちんと伏線を考慮して話が組まれており、描写がフェアである、ということの証明でもある。それこそ邦題につられて、真相がもたらす驚きを期待すれば肩透かしには違いないが、ある種の謎を扱った映画としての質はきちんと備えている。

 しかし本篇の本当に驚くべきポイントは、これほど無数にひとが殺され、凄惨なストーリーであるにも拘わらず、宣伝の惹句にあるように“爽快”だ、という点だ。

 序盤は正直なところ、観ていて痛い。こうしたスラッシャー物に免疫のあるひとならまだしも、不慣れなひとは目を背けるような描写もひとつやふたつどころではない。殺戮を生々しく描くことを眼目としていないので、肝心の場面からはカメラを逸らし、間接的に表現するようにしているとはいえ、観ていられない、と感じるかも知れない。

 だが、そこを乗り越えると、途中から残虐な場面の印象が変わっていく――本当に、爽快になっていくのだ。何故爽快か、その理由はぶっちゃけ、あるキャラクターの人物像に因るところが大きいのだが、それは観た上で実感していただきたいのでここでは伏せておきたい――粗筋で察しはつくかも知れないけれど、しかしそのキャラクターの存在が爽快感に繋がる何よりの理由は、序盤で殺人者の残虐ぶりを徹底して描いているが故だ。この大前提がしっかりしているから、終盤の爽快さが半端ではない。

 基本的には、正しい意味での“B級映画”である。予算は限られ舞台も小規模、出演者は自ら監督、脚本、製作まで手懸けるような独立系映画のクリエイターが混ざり、映像ソフト直行の作品までこまめにチェックするようなマニアでもなければ顔と名前が一致しないような面々で固められている。特殊効果も極めてシンプルで、ある意味微笑ましいほどの“安っぽさ”だ。

 しかし、話作りや細部のインパクトにはまったく手抜きがない。このスタイルだからこそ許容される面白さや驚き、愉しさを徹底して追求している。そんな製作者の心意気までが嬉しい、痛快作である。

 B級映画ならではの残虐描写に喜ぶような層ならたぶん本篇を嫌いにはなれない。だが或いは、いままでそうした作品に嫌悪感を抱いていた層であっても、序盤さえ乗り越えられたら、その愉しさに開眼してくれるのではないか、と期待してしまうほどに、本篇は優れものなのだ――ただまあ、多少なりとも露悪的なユーモアを許容する心がないと、まず受け入れられないだろうことは確かだが。

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