『死霊のはらわた』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン7前に掲示されたポスター。

原題:“Evil Dead” / サム・ライミ監督作品『死霊のはらわた』に基づく / 監督:フェデ・アルヴァレス / 脚本:フェデ・アルヴァレス、ロド・サヤゲス / 製作:サム・ライミブルース・キャンベル、ロブ・タパート / 製作総指揮:ネイサン・カヘイン、ジョー・ドレイク、J・R・ヤング、ピーター・シュレッセル / 撮影監督:アーロン・モートン / プロダクション・デザイナー:ロバート・ギリーズ / 編集:ブライアン・ショウ / 衣装:セーラー・ヴーン / 特殊造形:ロジャー・マーレイ / 音楽:ロケ・バニョス / 出演:ジェーン・レヴィ、シャイロー・フェルナンデス、ジェシカ・ルーカス、ルー・テイラー・ブッチ、エリザベス・ブラックモア / 配給:Sony Pictures Entertainment

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:風間綾平 / R-18

2013年5月11日日本公開

公式サイト : http://www.harawata.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2013/05/29)



[粗筋]

 デヴィッド(シャイロー・フェルナンデス)は久し振りに逢う妹ミア(ジェーン・レヴィ)、友人のエリック(ルー・テイラー・ブッチ)たちとともに、森の奥にあるキャビンを訪れた。目的は旧交を温めること――ではなく、麻薬中毒に陥ったミアの薬断ちに付き合うためだった。

 兄妹の既に亡い母親は晩年、心を病んでいた。デヴィッドがシカゴでの仕事を理由に帰らずにいるあいだ、検診的に看護に務めたミアは、その苦しみを和らげるために薬物に手を出し、抜け出せなくなっていた。

 エリックと、看護師でもあるオリヴィア(ジェシカ・ルーカス)は既にいちど、ミアの治療に立ち会っていたが、そのときは8時間しか保たず、薬を再開してしまっている。そんな事実も知らず、戻って来なかったデヴィッドに対し、エリックは不信感を隠そうとしなかった。

 今回は努力する、と誓ったミアだったが、その晩、早くも彼女は苦しみに屈しようとしていた――ように見えた。しきりに「変な匂いがする」と訴えていたのも幻覚だ、とデヴィッドたちは捉えていたが、連れてきた飼い犬がカーペットの下を気にしているのに気づいて剥がしてみると、そこには異様な痕跡が残っていた。

 一同が到着したとき、キャビンは何者かに踏み込まれ、荒らされていたが、どうやら侵入者は地下室で怪しげな儀式を行っていたようだった。屋根から無数の猫の死骸が吊され、柱にはなにかが燃やされた痕跡がある。机の上には、鉄線で厳重に封印された本らしきものが置いてあった。

 ミアはこの場を離れたい、と懇願するが、ただ禁断症状に抗えずにいるだけだ、と解釈するデヴィッドたちはその言葉を無視した。翌る朝、ミアは異様な気配に耐えきれず、ひとりキャビンから逃走を図る。しかし、そのときには既に始まっていたのだ――彼らの想像を絶する悪夢が。

[感想]

 のちに『スパイダーマン』シリーズでメジャーの仲間入りを果たすサム・ライミ監督が盟友ブルース・キャンベルらとともに低予算で製作、公開後30年を超えたいまもホラー映画のジャンルで支持され続けている名作『死霊のはらわた』のリメイク作品である。

 こうした往年の名作のリメイクはあまり成功しない、というのは昔の話で、最近はオリジナルのスタッフが巧みに舵取りを図ったり、『ドーン・オブ・ザ・デッド』のように、のちに活躍するような優れた若手を監督に起用することで、思いのほか高いクオリティで仕上げてくる例も出るようになった。セールス面でも成績を残しながら、ホラーの分野でもマニアックな趣向とセールスとを両立させる良好な仕事ぶりを見せてきたサム・ライミが、自身にとっても思い入れの深い作品を、自らが製作に携わってリメイクしたのだから、そもそも失敗することはないだろう、と踏んでいたが、想像よりも更に本篇は見事な出来映えであった。

 登場人物は一新され、彼らが舞台となる小屋を訪れる理由、そこで繰り広げられる人間関係などはまったく別物となったが、基本的なモチーフは変えていない。森の中に佇む朽ちたキャビン、そこに残される儀式の痕跡と、不気味な書物。迫り来る怪異が、森の中を疾走するイメージ映像によって表現され、いざ登場人物たちを怪異が襲いはじめると、決して超常的な力に依存しない、圧倒的な暴力描写で観客を翻弄する。その空気感は見事にオリジナルを踏襲している。

 本篇の良さは、押さえるべきところをきっちり押さえたうえで、より過剰な趣向を用意していることだ。ホラー映画に慣れた人間は、序盤で提示された要素によって、恐怖が本格化したときの展開、描写を先読みしてしまう悪癖がある。それを極力避ける、というのも一手だが、むやみやたらに意外性を追求すると却って無理が生じるだけで、面白くならないこともままある。本篇は、たぶんこれを使うだろうな、とマニアなら直感するようなアイテム、要素をほとんど見落とすことなく用いていて、そのうえで更に残虐、猟奇的なシチュエーションに結実させていく。そのホラー映画に対する理解と、それを活かす絶妙なセンスに、マニアならば慄然としつつもニヤニヤせずにはいられないはずだ。

 残虐とは言い条、スプラッタもの、モンド映画の類に慣れたひとならば、決してハードすぎない水準だが、しかし不慣れなひとにはかなり過酷な代物である。オリジナル版はあまりに振り切れた趣向がやもするとギャグの域にまで達し、終盤はいっそ笑える、というひともいるほどだが、しかし本篇は笑えない。オリジナルで主演し、本篇では製作として携わるブルース・キャンベルが語っているように、笑うひともいるだろうが、少なくとも初見のときに湧く笑いはよほど乾いたものになるだろう。

 そして何より、展開に無理矢理なところがない。こういう筋になるのに必要な人間関係がきっちり構築され、必要なモチーフを丁寧に組み込んである。ホラー映画なればこそ、の思わせぶりなブロローグの組み立ても、その後の展開を程良く予見させるから、期待に応えることも出来れば、絶妙な裏切りも奏功する。確かに笑えない怖さだが、それでも私が終盤口許を緩めてしまったのは、あまりに巧いから、である。

 オリジナルには、映画を愛すればこそ、独自の面白さを追求しているからこそ、の情熱が迸っていた。だが作り手の若さと予算の乏しさ故に、作りは荒削りとなり、作品には愛すべきユーモアとでも呼ぶべきものが横溢する結果となった。それもまた良さであり魅力であるのは間違いないが、しかしあの作品が目指していたのは、やはり唯一無二の“恐怖”だったはずだ。オリジナルの製作者が、自らの眼で見つけ、全幅の信頼を寄せた新たな才能が手懸けた本篇には、オリジナルが本当に求めていた“恐怖”が濃縮されて叩きこまれている。ホラー映画、それも鮮血と深い呪いとに彩られた作品を愛するひとなら、きっと本篇に惚れ込まずにはいられない。

関連作品:

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オズ はじまりの戦い

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