『PARKER/パーカー』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン入口前に掲示されたポスター。

原題:“Parker” / 原作:リチャード・スターク / 監督:テイラー・ハックフォード / 脚本:ジョン・J・マクラフリン / 製作:テイラー・ハックフォード、レス・アレクサンダー、ジョナサン・ミッチェル、スティーヴン・チャスマン、シドニー・キンメル、マシュー・ローランド / 製作総指揮:ピーター・シュレッセル、ブラッド・ラフ、ストラットン・レオポルド、ブルース・トール、ニック・マイヤー、マーク・シャバーグ、クリント・キスカー / 撮影監督:J・マイケル・ミューロー / プロダクション・デザイナー:ミッシー・スチュワート / 編集:マーク・ワーナー / 衣装:メリッサ・ブルーニング / キャスティング:ナンシー・クロッパー,CSA / 音楽:デヴィッド・バックリー / 出演:ジェイソン・ステイサムジェニファー・ロペスマイケル・チクリスボビー・カナヴェイルニック・ノルティ、ウェンデル・ピアース、クリフトン・コリンズJr.、パティ・ルポーン、カルロス・カラスコ、エマ・ブース、ダニエル・バーンハード、ミカ・A・ハンプトン、キップ・ギルマン / 配給:KLOCKWORX

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:種市譲二 / PG12

2013年2月9日日本公開

公式サイト : http://parker-movie.net/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2013/02/26)



[粗筋]

 パーカー(ジェイソン・ステイサム)はその筋の人間のあいだでは名の通った、凄腕の強盗だ。計画に隙はなく手際は巧み、決して庶民から盗まず、人質を傷つけることも極力避ける。それが最終的に、自分の助けになることを熟知しているが故だった。

 だが、今回の件は、思うように運ばなかった。以前からの相棒であるハーリー(ニック・ノルティ)の紹介で仲間となったメランダー(マイケル・チクリス)たち4人との初仕事だったが、撹乱のために小火を起こさせるはずが、受け持ちのハードウィック(ミカ・A・ハンプトン)という男がしくじって盛大な爆発を起こし、無関係な人々に無用な被害をもたらしてしまった。しかも、逃走中にメランダーは、今回の儲けを元手に、より大きなヤマを踏む計画であることを打ち明け、拒絶したパーカーは銃撃されてしまう。

 幸いにも、とどめを刺したのが間抜けのハードウィックだったために、パーカーは一命を取り留めた。事情を知ったハーリーは、ハードウィックが組織の大物ダンジンガーの甥であるために、大人しくしているよう忠告するが、パーカーは収まらない。彼のルールをぶち壊し、裏切った者たちには、それ相応の罰を受けさせる。

 メランダーたちが次に狙っているのがなんなのか、具体的な情報は得られなかったが、どうやら連中がシカゴのパームビーチに潜伏しているらしいことを突き止めると、パーカーはハーリーとその娘で自らの恋人クレアを避難させ、自分もまた現地に赴いた。高級住宅地で、確かに金は唸るほどに溢れているが、しかしそれ故に疑い深い人間が多く、パーカーのような悪党が稼ぐのも容易ではない。果たしてメランダーたちは、何を狙っているのか……?

[感想]

 つくづく、ジェイソン・ステイサムはただのアクション・スターではない――そのことは先行する主演作『SAFE/セイフ』の感想でくどくどと述べたが、本篇を鑑賞して、確信を新たにした。

 このパーカーという人物を主人公にした、リチャード・スタークによるシリーズは、今回が初めての映画化ではない。原作のイメージを重視するひとがどう感じるのか、原作未読の私には判断できないが、少なくとも本篇で描かれる“パーカー”像は、見事なまでにジェイソン・ステイサムにマッチしている。

 隆々たる肉体に、ブルース・ウィリスを更にごつくしたようなスキンヘッドがトレードマークの彼が、冒頭いきなり銀髪の神父に扮しているのに一瞬度胆を抜かれるが、堂々とした振る舞いに漂う悪党としての貫禄に圧倒され、人質との誠実で、それ故にユーモラスなやり取りにはニヤリとさせられる。冷徹な犯罪者でありながら、決して過剰には被害を与えない、優しさと逞しさを兼ね備えた人物像が序盤から明確で、かつ説得力に満ちあふれている。

 そして、瞠目するのはこのあとだ。いきなりの仲間割れの挙句に、なんとパーカーが銃弾を浴びるのである。

 もちろん、見るからに筋骨隆々の男が無抵抗に撃たれるはずもなく、徹底的に反撃しているのだが、それにしても彼、ジェイソン・ステイサムがかくも手酷く痛めつけられる姿は、かなり貴重な印象を受ける。アクション映画の主人公が、どれほどの弾幕に晒されても無傷で生き延びてしまうのを“主人公力”と茶化して表現する向きがあるが、ステイサムもこの“主人公力”の備わったキャラクターに扮することが比較的多かった。しかし、恐らくそこに飽き足らなかったのだろう、本篇は自らの血に汚れる場面が幾度も描かれる。

 私がステイサムをただのアクション・スターではない、と評するのは、こういうところにもある。自分にはどんなキャラクターが合っているのか、きちんと把握しながらも、常に新しい切り口、見せ方を考慮する。彼自身の見識が高いのか、エージェントが俳優としての売りを熟知しているのか、いずれにせよ、こういうことが出来る俳優は決して多くない。題材や監督にも恵まれ、他に傑出した才能があまり見当たらない(いないわけではないが、使いやすい立ち位置にいるのは彼ぐらいしかいない)という条件の良さも幸いしているのだろうが、己をわきまえた選択が、新鮮さを感じさせつつも安定した活躍に繋がっているのだろう。

 本篇で見せるアクションは、これまでになくリアルだ。いちおうの派手さを留めつつも、武術の腕を見せつけるようなものではなく、確実に相手の戦闘能力を奪う、或いはとどめを刺すことに力を注いでいるのが伝わる。そこまで必死の敵に、時として自らを傷つけることさえ厭わないステイサムの戦い方はこれまでになく泥臭く、壮絶だ。特に、組織から送りこまれた刺客との戦いで見せる起死回生の策のインパクトたるや、近作で見せたアクロバティックな場面を凌駕するものがある。

 他方、犯罪計画の進行と、それを探り、裏を掻くための布石も生々しい。冒頭の襲撃の計画性、その破綻も明瞭だが、パーカーが乏しい手懸かりからメランダーたちの意図を見抜き、足許をすくうための準備が実に丹念なのである。決して複雑ではないが、だからこそ効果的。そのなかで巧妙に立ち回るパーカーの知性、凄腕ぶりが実感できる。わりと些末な油断から追い込まれる場面があるが、そういう緩みもまたリアリティを演出すると共に、物語のサスペンス性をいや増している。特に、上の粗筋では登場させられなかったが、ジェニファー・ロペス演じる不動産会社の営業担当レスリーの存在が非常に効いている。

 絶え間なくスリルを味わわせながらも、安心感がある。そして結末はすっきりと爽快感に富む。犯罪ドラマならではのえぐみを留めながらも、極めて高いレベルで完成された良質のエンタテインメントである。個人的に、ジェイソン・ステイサムの最高傑作は先行する『SAFE/セイフ』だと考えていたが、早くもそれに匹敵する作品が登場した、と感じた。

関連作品:

Ray/レイ

バンク・ジョブ

アドレナリン:ハイ・ボルテージ

SAFE/セイフ

エクスペンダブルズ2

ブラック・スワン

Shall We Dance?

ファンタスティック・フォー:銀河の危機

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