『アウトロー』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

原題:“Jack Reacher” / 原作:リー・チャイルド(講談社文庫・刊) / 監督&脚本:クリストファー・マックァリー / 製作:トム・クルーズ、ドン・グレンジャー、ポーラ・ワグナー、ゲイリー・レヴィンソン / 製作総指揮:ジェイク・マイヤーズ、ケン・カミンズ、ケヴィン・メシック、デヴィッド・エリソン、デイナ・ゴールドバーグ、ポール・シュウェイク / 撮影監督:キャレブ・デシャネル,ASC / プロダクション・デザイナー:ジム・ビゼル / 編集:ケヴィン・スティット / 衣装:スーザン・マシスン / 音楽:ジョー・クレイマー / 出演:トム・クルーズロザムンド・パイクリチャード・ジェンキンスデヴィッド・オイェロウォヴェルナー・ヘルツォークジェイ・コートニー、ジョセフ・シコラ、マイケル・レイモンド=ジェームズ、アレクシア・ファスト、ロバート・デュヴァル / 配給:Paramount Japan

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2013年2月1日日本公開

公式サイト : http://www.outlaw-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/02/01)



[粗筋]

 ピッツバーグ郊外の川縁に、6発の銃声が鳴り響いた。河岸沿いにある公園を歩いていた人々が、向かいの立体駐車場から狙撃されたのだ。被害者それぞれに関連性なしと目され、白昼の無差別殺人に周辺は騒然となる。

 現場には薬莢の他、料金メーターに投じられたコインから指紋が検出され、すぐに容疑者が特定された。その人物はジェームズ・バー(ジョセフ・シコラ)。元陸軍所属で、戦地にて狙撃手を務めていたこともある。担当のエマーソン刑事(デヴィッド・オイェロウォ)らがすぐに踏み込みバーを逮捕、D.A.ロディン検事(リチャード・ジェンキンス)らは自白させることで早期の決着を試みるが、無言を貫くバーが、渡された紙片に記した言葉は、“ジャック・リーチャー(トム・クルーズ)を呼べ”だった。

 リーチャーが自ら現れたとき、だがバーは会話が出来る状態でなくなっていた。護送中に同乗した囚人の暴行を受け、昏睡に陥っていたのである。ロディン検事らの問いかけをあっさりかわして立ち去ろうとしたリーチャーだったが、バーの弁護を引き受けたヘレン(ロザムンド・パイク)は彼を強引に引き留める。

 このままでは死刑確実のバーを救うために必死のヘレンは、リーチャーから何らかの情報を引き出そうと懸命だったが、リーチャーが提示したのはむしろ、不利をもたらす事実だった。しかも、リーチャーが自ら現れたのは、バーに制裁を加えるためであり、救うためではない、とさえ言う。しかしヘレンはそんな彼に訴えた。果たして本当にバーが真犯人なのか、確かめるべきではないか、と。

 ジャック・リーチャーもまた、かつて陸軍に所属していた。軍内部での犯罪を追う捜査官として有能な働きを見せていたが、退役後は住む家はおろか携帯電話やクレジットカードの類も携帯せず、あちこちを彷徨って暮らしている。だが、それ故に自由であり、自らのルールに則って生きている――ヘレンの訴えに動いたリーチャーは、彼女の考えていた以上に深い、この“無差別殺人”の闇を暴き出す……

[感想]

 トム・クルーズ主演&製作による、新たなシリーズ化を睨んだ新作、というのが一般的な映画ファンに対する本篇のいちばんのアピール・ポイントだろうが、私が惹かれた点はちょっと違う。監督がクリストファー・マックァリーだった、ということのほうなのだ。

 この監督は、どちらかと言えば脚本家としてのほうがまだ著名だろう。『ユージュアル・サスペクツ』でアカデミー賞を獲得、その後も『ワルキューレ』や『ツーリスト』など、サスペンスに近いジャンルでの活動が目立っている。しかし、監督として手懸けた『誘拐犯』は意表を衝いて、サスペンスや謎解きではなく、現代の西部劇めいたクライム・アクションに仕立ててきた。期待とは違っていたのだが、刹那的な男たちの、しかしやけに熱い戦いに私はすっかり痺れてしまい、未だに偏愛する作品のひとつとなっている。

 本篇は原作が存在するが、もともとアクションも売りに含めたミステリであった。しかもシリーズの主人公は、軍隊で学んだ特殊技能を多く備えた“流れ者”、立ち向かうのは銃乱射を発端とする事件、つまり『誘拐犯』と重なる要素が少なくない。それ故に起用されたのか、は定かではないが、『誘拐犯』で示した監督の資質がうまく本篇の内容と噛み合い、相乗効果を上げているのは間違いなさそうだ。

 本篇のユニークなところは、ミステリとしての興趣はしっかりと留めているのに、犯人当てや本当の動機を掘り下げていく、といった部分にはまり関心を示していない点である。主人公ジャック・リーチャーはもともと軍で捜査官を務めていた、というだけあって推理能力に優れ、序盤、犯行現場の状況や被害者たちの背景からじわじわと、奥に潜む者を炙り出していく手管は見事で、その過程だけ眺めると非常に質の高いミステリに仕上がっている。だが、観客の側からしてみると、冒頭の描写で犯人が何者かは明白だし、随所でリーチャーとは別に暗躍するひとびとの描写も組み込んでいるので、意外な事実が判明する、という類の驚きはない。

 その代わり、そうしたリーチャーの驚嘆すべき能力を、物語のサスペンスと巧みに結びつけている。並の頭脳の持ち主なら、恐らくあんなに早い段階で敵からの襲撃を受けることもなかっただろうし、中盤、あの成り行きから危険を察知して逃走に転じる、という展開はまずあり得ない。そして、リーチャー自身が窮地に追い込まれている、と見える状況から、彼のひと言で戦慄を齎す、という流れも生まれ得なかった。

 つまり、本篇の見せ方は謎解きである以上に、謎解きを有効活用したスリラーなのだ。謎解き自体の完成度も素晴らしいが、それがこうも緊迫感に奉仕している作品は、実は決して多くない。

 そして、この緊張したやり取りが、要所要所に組み込まれたアクションの力強さをも補強する。序盤、リーチャーが酒場で絡まれた際の喧嘩も、一見この男の強さを誇示しているだけのようでいて、謎解き部分とのリンクが巧みだし、泥臭さが際立つカーチェイスも、瞬時の推理と駆け引きがあることで、より緊迫感を増している。

 カーチェイスの場面もそうだが、クライマックスの銃撃戦も、どこか『誘拐犯』に近しいものを感じさせる。このくだりでリーチャー側の味方につく人物の立ち居振る舞いは、『誘拐犯』で終盤において活躍するキャラクターの人物像を踏襲しているし、距離感を重視した駆け引きにしても、西部劇のようなあの趣に近しいものがある。監督があの作品で示した創意に、自らの作家性として確立しようと試みているのかも知れない。

 謎解きの扱い、独善的とも捉えられるリーチャーの正義感など、観る側の信条、感覚によってはどうしても受け入れがたい部分があるため、そこが譲れない、フィクションと割り切れないひとには辛い作品だろう。しかし、善玉でありながら組織よりも己の信念を軸に行動するタフネスに、真実味と荒唐無稽のない混ざった渋味のあるアクション描写には凛々しさがあり、犯人の姿が見えていても無縁に持続する緊迫感とあいまって、実に痺れる仕上がりとなっていることは確かだ。

 原作そのものが継続的に発表されていることもあってか、トム・クルーズは新たなシリーズものとして確立することを目論んでいるらしい。どうやらトム・クルーズの外見は原作のイメージと必ずしも一致していないようだが、少なくとも本篇を観る限りでは、きちんと映画なりのイメージを完成させている。もし継続するのであれば、マックァリー監督にも続投してもらって、監督独自のカラーをより深化させるかたちで発展してくれると、『誘拐犯』を偏愛する者としては嬉しいのだけど――いずれにせよ、気になる方には是が非でも劇場でご覧いただきたい。成績が出なければ、どれほど面白くとも続篇には繋がらないわけであるから。ここまで読んで、俄然気になった、というかたであれば、まず満足のいく出来映えである、ということは断言できる。

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