『ヴァルハラ・ライジング』

ヴァルハラ・ライジング [DVD]

原題:“Valhalla Rising” / 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン / 脚本:ニコラス・ウィンディング・レフン、ロイ・ヤコブセン / 撮影監督:モーテン・ソーボー / 編集:マシュー・ニューマン / 音楽:ペーターペーター、ペーター・カイド / 出演:マッツ・ミケルセン、マールテン・スティーヴンソン、ゲイリー・ルイス、ジェイミー・サイヴス、アレクサンダー・モートン / 配給&映像ソフト発売元:Comstock Group

2009年デンマーク、イギリス合作 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:?

2012年4月7日日本公開

2012年9月14日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://valhalla-rising.com/

DVD Videoにて初見(2012/11/05)



[粗筋]

 スコットランドの高山、屋外に設けられた独房に、片眼の戦士(マッツ・ミケルセン)はずっと囚われていた。彼を捕えた部族の族長バルデ(アレクサンダー・モートン)は他の部族が連れてきた奴隷と戦士を争わせ、賭け金で稼いでいる。

 しかし、他の部族に所有期限が迫っていることを指摘されたバルデによって移送されているとき、戦士は不意を衝いて護衛を殺害、脱走に成功した。戦士は道を戻りバルデを殺害すると、荒野へと彷徨い出る。その背後には、彼の身の回りの世話を任され、殺戮の際にただひとり見逃された少年(マールテン・スティーヴンソン)の姿があった。

 追っ手をも倒し、はるばる旅を続けた先で戦士は、戦により荒廃した集落に滞在していたヴァイキングたちと遭遇する。しばし剣呑な空気が流れたが、ヴァイキングの男達は戦士が手練れであることを悟り、自分たちとともにエルサレム奪還の戦いに乗り出すことを求める。そのあいだ戦士はいっさい口を開かず、すべての会話を少年に委ねていたが、疑問を差し挟むこともなく、ヴァイキングたちとともに船に乗り込むのだった……

[感想]

 恐らく、こちらに知識が欠けているだけなのだろうが、本篇はいまひとつ世界観の背景が見えてこない。片眼の戦士の背景もさることながら、いったいどの時代を想定した出来事なのか、片眼の戦士を受け入れたヴァイキングたちはどこへ赴いたのか。もしかしたらヴァイキングの歴史などに通じていないと、解りにくい部分が多いのかも知れない。

 知識抜きで鑑賞する本篇の物語は、かなり神話めいている。まったく出自の語られない、しかし何か大きなものを背負っているかに映る片眼の男が、囚われ、何者かの享楽として命のやり取りを強要されている。好機を得てそこから脱出すると、追いすがってくる少年を拒むことなく引き連れ、やがて大望を抱いたヴァイキングに同行して海を渡り……具体的なようでいて抽象的な表現が続き、物語がどこへ向かっているのか解らなくなる。

 引き締まった肉体美で魅せる主人公の存在から、うっかりアクションの迫力を期待すると、恐らく失望してしまうレベルの描写しかない。ただ、全篇に亘って、常に危険と背中合わせになっているかのような、奇妙な緊張感が漲っていることに注目したい。

 本篇の魅力は、その謎めいたムードそのもの、と言ってよさそうだ。冒頭から、ろくに背景も説明されないからこそ漂う謎めいた空気。中心に立つ人物が無口であり、ろくに他人と交流することもないので、その意思さえ窺い知れないことが、予測不可能な物語を作りだしていく。すべての観客にとって牽引力として働く、とは限らないが、いざ魅せられると、最後まで目が離せない。

 舞台となる荒涼とした光景と、その描き方も独特な魅力となっている。監督のニコラス・ウィンディング・レフンはこのあとにハリウッドに進出、全世界的に高く評価された『ドライヴ』を撮っているが、そちらでも特徴的な色遣いが作品に独特な味わいを添えていた。どうやらレフン監督に色覚障害があり、当人が自らのイメージに従って映像を組み立てた結果のようだが、本篇でもその一風変わった色彩が、作品の美しくもどこか現実離れしたムードを醸成している。

 終始謎めき、全体像の見えないまま繰り広げられる物語は、ラストシーンに至っても観客に明確な答をもたらさない。その点、遥かに明瞭で、観終わっての後味も見事な『ドライヴ』と比べると物足りなく思えるが、しかし何も明確になっていないからこそ、中心に立つ片眼の戦士が滲ませる、英雄めいたオーラを打ち消すことがない。

 観て面白い、と感じるひとは恐らく少数派だろう。だが、間違いなく一貫した意思に基づいて紡ぎあげられた作品であり、好き嫌いは別として、強度はある。こういうものを生み出せるからこそ、『ドライヴ』へと繋がっていった、というのは解る。よほど、解釈しながら読み解くのが好き、というひとか、『ドライヴ』で監督の作品が持つムードに魅せられた、というひとぐらいにしかお薦めしづらい。

関連作品:

ドライヴ

三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船

キング・アーサー

センチュリオン

トロール・ハンター

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