『KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝』

撮影現場をバギーで移動中の関羽。KAN-WOO/関羽 三国志英傑伝 [Blu-ray]

原題:“關雲長 The Lost Bladesman” / 監督&脚本:アラン・マックフェリックス・チョン / 製作:リャン・ティン、ワン・ティエンユン / 製作総指揮:リャン・ティン、レン・ツォンラン、リー・ジンファ / 撮影監督:チャン・チーイン / プロダクション・デザイナー:ビル・ルイ / 音響設計:キンソン・ツァン / 編集:コン・チーリョン(HKSC) / 視覚効果スーパーヴァイザー:リン・ハンファン・アレックス / 音楽:ヘンリー・ライ / 武術指導:ドニー・イェン / 出演:ドニー・イェンチアン・ウェンスン・リー、アンディ・オン、ワン・ボーチェ、シャオ・ビン、アレックス・フォン、チェン・ホン / 配給:日活 / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

2011年中国作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:野崎文子

2012年1月14日日本公開

2012年5月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.sangokushi-kanu.com/

Blu-ray Discにて初見(2012/06/17)



[粗筋]

 漢王朝末期。漢皇帝(ワン・ボーチェ)のもと、国内の平定に奔走していた曹操(チアン・ウェン)は、劉備によって仕向けられた袁紹軍の攻撃によって窮地に追い込まれていた。

 そこで曹操は、先の戦で捕虜としていた関羽(ドニー・イェン)に助力を請う。関羽劉備の配下であったが、その優れた武芸には曹操を含む敵将も認めるところであった。

 当然、当初は拒絶した関羽であったが、袁紹軍の指揮官である顔良を倒せば人死には最小限で済む、と囁かれ、関羽はこの提案を呑む。

 かくて見事に関羽顔良を討ち取り、袁紹軍による襲撃は失敗に終わった。曹操は漢皇帝に進言し、関羽に報奨と共に役職を与え、自らの配下に留まるように提案する。義兄弟の関係でもある劉備に対する忠誠心は並大抵ではない関羽であったが、曹操の度量を前にしてしばし揺れた。

 しかしけっきょく関羽は、自らと共に捕虜となった、劉備夫人である綺蘭(スン・リー)をはじめとする人々の解放と自身の帰還を求め、曹操もこれを承諾する。関羽は解放した人々に見送られながら、綺蘭を乗せた馬車を駆って、劉備のもとを目指す。

 曹操は手出し無用、と命じたが、しかし彼の部下たちは、武名の高い関羽を野に放つことに脅威を覚えていた。各地の関所に、“関羽を討て”と記した書簡が届き――そうとは知らぬ関羽は、望まぬ命のやり取りを強いられることとなる……

[感想]

 日本でも非常に高い人気を誇る“三国志”、とりわけ特に有名な登場人物のひとりである関羽に焦点を当てた作品である。

 如何せん私は“三国志”そのものに関心がなく、全体の内容を把握していないので、本篇がどの程度、本来の“三国志”に忠実なのか判断しようがない。聞くところによると、愛好者がイメージする関羽ドニー・イェンのイメージはあまり重なっていないようだ。恐らく、自分のなかのイメージが確固として成立している、他に思い入れのある映像化作品があるようなひとには、ピンと来ない作品ではなかろうか。

 しかし本篇は、“三国志”という背景を抜きに、香港、ひいては中国映画の伝統である武侠ものの流れを汲むアクション映画として捉えれば、非常に完成度が高い。

 侠気に富み、敵味方問わず英雄視される人物が、戦乱の中でその立場を利用され、翻弄される。当人は争いを望まぬのに、武芸の才ゆえに誰も彼をほったらかしにはしてくれない。本来敵である人物とのあいだに奇妙な友情を結ぶ一方で、信頼していた者から追われる、という状況が織り成すドラマは重厚だ。この味わいは往年の武侠ものを思わせる一方、引用している“三国志”という背景が既に物語として優れた強度を備えているため、かつての武侠映画よりも洗練されている。

 また、関羽の逃避行を中心に描くことで、この役柄にドニー・イェンを据えた意味が生まれている。各所で見せる、追っ手との戦いぶりはまさに、現代屈指のマーシャル・アーツ俳優の本領発揮と言っていいだろう。彼はこうした歴史ものにも積極的に出演するが、アクションの方向性がファンタジーめいていたり、『孫文の義士団 −ボディガード&アサシンズ−』のように歴史的なドラマを中心とした群像劇のなかのひと役であるため、ファンにとっては見せ場がいまひとつ物足りなく感じられることも少なくない。しかし本篇はその意味で非常に盛り沢山で、近作のドニー・イェンの活躍ぶりがやや意に染まなかった人でも納得がいくはずだ。

 そのアクションの表現にしても、ただ勝って終わり、という性質にしない辺りに奥行きがある。必ずしも戦うことを望まぬ相手であっても、自らの立場、信義ゆえに拳を交えねばならない。命と誇りをかけた戦いは壮絶であり、決着したあと、カタルシスとともに言いようのない無常観が漂う。

 本篇は、“三国志”という題材を駆使し、一種の英雄論を語ろうとしているように感じる。乱世にしか望まれない才能とはどういうものなのか。本当の英雄はいったい何を望み、どのように己の才覚と夢とのあいだに折り合いをつければいいのか。そして、そうして英雄の存在意義と孤独とを克明に描いているから、英雄という存在に恐れを抱く人々の凡庸な身勝手さ、翻ってその存在さえ利用する武将たちのしたたかさが、強烈に印象に残る。

 ドニー・イェンという俳優の身体能力と、優しさ、厳しさ、寂しさを巧みにちらつかせる表情とを絶妙に活かした、上質のアクション映画である。近年のハリウッドを席巻するアメコミ・ヒーローたちの描き方に通底するものがあり、そういう観点から鑑賞しても興味深いのではなかろうか。

関連作品:

レッドクリフ PartI

レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―

インファナル・アフェア

孫文の義士団 −ボディガード&アサシンズ−

捜査官X

SPIRIT

MAD探偵 7人の容疑者

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