『血戦 FATAL MOVE』

血戦 (FATAL MOVE) [DVD]

原題:“奪帥” / 監督&脚本:デニス・ロー / 製作:デニス・ロー、チャールズ・ヒョン / 撮影監督:ハーマン・ヤオ / 編集:チー・ワイヤウ / 音楽:トミー・ワイ / 武術指導:リー・チュンチー / 出演:サモ・ハン、サイモン・ヤム、ケリー・チュー、ウー・ジン、ティエン・ニウ、ダニー・リー、チョン・シウファイ、ケネス・ロー、ホイ・シウホン、マギー・シュー、ラム・シュー / 映像ソフト発売元:ACCESS A

2008年香港作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:ブレインウッズ / R-15+

日本劇場未公開

2012年5月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/06/16)



[粗筋]

 香港の犯罪組織・三合会の一派である忠信義を率いるリン・ホー・ロン(サモ・ハン)が妾に産ませた子供が1ヶ月を迎えたころ、彼の弟であるドン(サイモン・ヤム)らが指揮していた麻薬取引の現場を警察に押さえられてしまった。壮絶なカーチェイスの末、ドンたちは逃げ切るものの、ウー(ケネス・ロー)がリャオ警部たちによって逮捕されてしまう。

 直後、ウーの妻が、忠信義の隠し口座の番号を知っていることを仄めかし、組織の経理を取り仕切るロンの妻ソソ(ティエン・ニウ)を脅してきた。本当に口座番号を知っているのか疑いながらも、万一のためにロンはウーの妻の拷問を指示、話が嘘であり、妻の愛人の計画であったことを白状させると、愛人を始末、また念のために、警察の牢屋に入れられているウーも、内通者である刑事ジャネット(マギー・シュー)の手引で暗殺する。

 だが、更に事件は続いた。今度は、ロンの親類であるユー(ホイ・シウホン)が誘拐されたのだ。要求された身代金は3億ドル、ユーの組織には大金の持ち合わせがなく、銀行に頼れば警察に三合会の内情が知れてしまう。やむなくロンは忠信義が身代金を肩代わりすることを決めたが……

[感想]

 かつて、香港映画といえば即カンフー映画、というイメージがあった。そのあとには、ジョン・ウーらが牽引した香港流ノワールの印象が色濃くなっていた――実際にはロマンスやコメディなども多く作られているのだが、アクション、或いはノワールに携わった俳優や監督がまず国際的に活躍の場を広げている、ということを考えると、世界的にはこのふたつのジャンルが香港映画の代名詞として捉えられている、と判断していいだろう。

 本篇は、その香港映画の魅力を特に象徴するふたつを融合した作品である。しかも中心人物には、かつて巨体に似合わぬスピード感ある擬斗で一世を風靡したサモ・ハン、近年の香港映画に欠かせぬ演技派であるサイモン・ヤムが顔を揃えているのだから、尚更にその感は強い。

 だが惜しむらくは、画面作りに貫禄がなく、どうも安っぽい印象がまとわりついているのだ。画角の広さをあまり活かしていない構図やカメラワーク、デジタル映像の鮮明さを無批判に利用しているが故の味わいの乏しさなどに起因しているように思われるが、どうにも惜しい。

 しかし、ストーリーとアクションはさすがに見応えがある。ノワールの無慈悲さを加えたアクションは、腕を切り落とす、身体を貫く、息絶えるまで繰り返し切り刻む、といった残虐な描写を含み、惨たらしい表現が性に合わないという方や、往年の激しくも節度を保っていたアクションを好んでいた人は受け付けないだろうが、インパクトは強烈だ。

 壮絶なアクションに引きずられがちだが、ストーリーもかなり綺麗にまとまっている。あまりに警察の力が弱く、安易に人を殺しすぎている感はあるが、そういう枠の中でこそ意味を持つ事態の変遷、裏切りの構図は、命のやり取りの虚しさを強調して、得も言われぬ余韻を残す。すべてが無為になる結末の苦々しさは、まさに“ノワール”の本領発揮と言えよう。

 そして、この世界観のなかで、サモ・ハンの示す貫禄が見事だ。かつてはジャッキー・チェンらと共にコミカルなアクションを持ち味としていたが、近年、俳優として第一線に復帰して以降の彼は、かつてと変わらぬ巨体に風格を身につけたことで、組織の大物として存在感を示すことが多くなっている。『処刑剣 14 BLADES』のように、その存在感を活かしたゲスト的な位置づけで登場することもあるが、本篇では最初のうちは組織の舵取りに頭を悩ませるボスとして重厚な演技を披露したのち、最後の最後で劇的なアクションを披露する。本篇では、ロンの用心棒のひとりで、終始クレイジーな戦いで魅せたティン(ウー・ジン)がアクション部分を牽引している感があるが、それさえもこのクライマックスでのサモ・ハンの格好良さを印象づけるためのお膳立てだったように趣さえある。

 あまりにも残酷なアクション、悪い方へ悪い方へと流れていくストーリーは人を選ぶと思われ、安易に勧めるのはためらわれるし、映像的な安っぽさがかなりマイナスになっていると言わざるを得ないが、香港映画が育ててきた独自の魅力を凝縮した佳作と言っていいだろう。

関連作品:

エレクション〜黒社会〜

エレクション〜死の報復〜

新少林寺/SHAOLIN

コメント

タイトルとURLをコピーしました